芥川龍之介『桃太郎』(小説)
芥川龍之介の昔話パロディ小説、『桃太郎』。乱暴者の桃太郎が、ふと思いついて鬼退治をおこなうという物語だ。内容としては昔話『桃太郎』の理不尽なヒロイズムを皮肉った風刺の利いた作品で、主人公桃太郎のみならず、「英雄」という概念そのものを客観的に見つめている ―― そんな視線が感じられる。
物語はまず、桃太郎のルーツから始まる ―― といっても、古代史に基づいたナントカの系譜に連なるナントカノミコトといったものではない、ファンタジーだ。日本神話に関連付けられたストーリーではあるが、要約すると「世界の夜明以来、一万年ごとに赤児をはらんだ実をつける桃の木の実 ―― そのひとつが、運命の八咫烏によってついばまれ、谷川へと落ち流れていった」という話になっている。
物語のラスト、芥川はこの話の主人公を間接的にではあるが「天才」と称している。
英雄というと聞こえはいいが、じっさいのところ彼らを英雄たらしめているものは善悪の別ではなく、畏れるべき存在かいなか ―― 天才かいなか ―― というところにかかっているのかもしれず、それをわざわざ善と悪に分別して歴史を語るのはひどくつまらないことなのかもしれない。
ちなみに、同作者の『羅生門』や『蜘蛛の糸』にも善悪や人間のエゴイズムが盛り込まれているが、芥川はそれらを写実したのみであって答えを定めてはいないように思う。そこに「在る」という事実を浮き彫りにし、判断よりもまず、ありのままを認識させる ―― それこそが、この作家の芸術観なのかもしれない。
作家自身のことは詳しくは知らないです。あくまでも、作品から読み取れることを書きつけただけで……