引き込み
ホムンクルスはその莫大な魔力に物を言わせ大量の魔法を展開していく。それを次々と凌ぎホムンクルスとの距離を詰める。
「クソ!忌々しいなこの量の魔法は!魔法結界でダメージは無くとも視界が塞がれるのは厄介だなホント!」
ホムンクルスの彼女は視界の邪魔になる様に魔法を連発し、グラディールの視界を遮り続け、その中から手斧や手槍が飛び出して、グラディールの頬を掠める。
掠めた頬から血が出てくるのを拭い、連発される魔法の合間に見えたホムンクルスの頬には涙が伝っていた。
(あのホムンクルス泣いてるのか?まだ、人の心がなこってるというのか?それなら、助けてやるか)
飛んでくる手槍や手斧を最小限の動きで避け続け、グラディールが近づいてることに気づいたホムンクルスを追い回す。
先ほどのグラディールらが行っていた様に風魔法でホバー移動をするホムンクルスをグラディールは風魔法を用いて相手を吹き飛ばす。
バランスを崩したホムンクルスは尻餅をつき、立ち上がると既にグラディールが肉薄しており、腹部にある魔力を保有するための心臓に向かって発勁を放つ。
グラディールの感じた感触は確実にその心臓を潰したものだった。
少女は発勁により意識が吹っ飛び倒れ込む。そして、グラディールは少女から溢れ出す魔力を吸収した。
(魔族と同等の量の魔力がさっきの心臓に込められていたと考えると、あの心臓は魔族のものに違いない。我のいた世界の魔族は自己犠牲精神はなかった。この世界にもその常識を反映させたならば、死に損ないの魔族の心臓をこの少女に無理やり移植したんだろうな。それに、心臓には服従の魔法がかかっていた事を考えればこいつはただ命令にしたがっていたことになるかもな)
グラディールは少女を抱えて戦線を離脱しようと試みる。周囲には魔獣や魔物がいるが戦況が不利になると次第に撤退をし始めた。
冒険者らは深追いをすることもなく勝ち取った勝利に浸っていた。その最中グラディールに騎士王が迫っていた。
「そいつ、どうしたんだ?」
「魔族に争うための道具にされていた。彼女の家族は恐らくもういないだろう」
「どうするんだその子?」
「我が助けてしまったんだ我が管理しよう」
気絶している少女を抱えて戦場を後にする。そして、城門前までくるとグラディールは盛大に歓迎されるのであった。
グラディールは絡みにくる市民らは全て騎士王に押しつけ、仲間とともにグラディールの部屋へとすぐに帰った。
「それで、魔王様この子どうするの?まだ気絶してるみたいだけど」
「仲間にする。この娘はホムンクルスでの魔法適性も賢者に引けをとらん。ならば、仲間にするしかない」
エーレの問いかけに自分の考えた最善策を話すグラディール。
グラディールは気絶している少女の胸に手を置く。そして、回復魔法をかけると同時に余剰分の魔力を回収した。
僅か数秒で少女は目を覚まし、周囲を見渡す。見慣れない部屋で見たことのない人が4人いる。けれども、彼女は慌てず黙っていた。
「意識を取り戻したんだろ?何か喋ったらどうだ?」
「えっと、わ、私記憶がないんです。名前だけは覚えてるんです。フィフス・マナっていいます」
「我はグラディール覚えておくのだなマナ」
フェイルの催促に反応し喋り始めるマナは記憶がなく、覚えてるのは名前だけだった。そして、グラディールが名乗ると次々と自己紹介をして行くのだった。