拳で語り合う者たち
エーレの特注品のガントレットの性能はグラディールは知らない。そして、三人がどれほど成長したのかも知らない。何故なら以来の警備は全部三人に任せ彼一人でドグマの研究を行っていたからである。
決闘の装備はグラディールは何も持たず。エーレはガントレットを持ち、決闘場に入り込む。この瞬間グラディールは決闘場に来ている者たちのすべての武器をドグマのデータとして蓄積させた。もちろんエーレのガントレットも。
「両者入場が終了。3、2、1、はじめ!」
グラディールが手抜き気味に突っ込む。その際にドグマを用いてエーレと同様のガントレットを作る。
拳を掲げてエーレに殴り掛かる。しかし、身体強化魔法の付与を終えたエーレの動きは現状のグラディールには捉えられなかった。腹部に痛みが走り、空中に打ち上げられる。一瞬の浮遊体験が訪れたが、背面への強烈な一撃が入り地上に落とされる。
土が口の中に入り、グラディールは魔王になるために辛い試練を思い出した。そして、前世の勇者に倒されたことも。
「なかなかやるなエーレ。なら我も本気を出そうじゃないか」
折られた背骨は魔力で一瞬で回復する。グラディールやペンドラゴン、フェイル以外が食らうと即死級の攻撃を放たれてもピンピンしているグラディールを見た観衆は驚いていた。
全力を出したグラディールがステップを踏みながら接近する。刹那、猛獣特有の一撃で獲物を殺すかのような拳がグラディールの顔目掛けて飛んでくる。
回避が間に合わないと理解したグラディールはその攻撃に自分の攻撃を合わせて一度仕切り直しをしようとした。
ガントレットの壊れる音が響いた。グラディールのエーレの装備をコピーしたガントレットが壊れたのである。同じ強度のはずが、互いに弾かれることは無くエーレの拳がグラディールの顔に当たる。
おかしいぞ。性能をそのままコピーするはずのドグマが・・・エンチャントか!想定外だ。これは負けが濃厚になってきているが・・・素手で戦うか。
ガントレットは魔力となりグラディールの体内に戻る。素手の状態でグラディールはエーレに挑んだ。
既にこの危機的状態により、彼の脳は完全に覚醒していた。エーレの動きがゆっくりに見え、体がいつも以上に動いた。
拳がエーレの顔に当たる。普通の人間が殴るよりも遥かに強い痛みが走る。彼の腕は人間の物ではなく魔人の物と言うのもあり、顔に傷が入りそこから血が流れる。
エーレは顔の傷を気にすることなく、勝負を決めに全力でグラディールに向かって駆ける。グラディールも次の一撃で終わらせるために攻撃態勢に入る。
そして、それぞれの拳が顔に入り同時にダウンした。静かだった。観衆はどちらが先に立ち上がるかを唾を飲み待っていた。
立ち上がったのはグラディールだった。顔に追った傷は既に回復しており、平気な雰囲気であった。
彼は直ぐにエーレに駆け寄り回復魔法を掛ける。勝負は既に決しており、観衆は二人に声援を送った。
「勝者グラディール!」
エーレは満足そうな表情を浮かべ、グラディールと共にその場を去り、観覧席に移動した。
次は勇者とペンドラゴンだった。