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会社を辞めた理由

あれからというもの、毎日のように柴田翔に誘われるようになった。

「今日空いてませんか?」

「ごめん。先約があるから。」

申し訳ないと思いつつも、毎日同じ断り方をしていた。それでも、柴田翔は怒らなかった。そして、諦めなかった。


ある日、痺れの切らしたのか、こんなことを言ってきた。

「花宮さん、柴田…尚…」

「何で?」

食い気味に言ってしまった。そして、思ったより大きな声が出てしまい、みんなに振り返られた。


「いや、柴田お腹空いたなぁって言おうとしたんですよ…」

絶対嘘だった。柴田翔は汗が出ていた。


私はそれが気になって、その日は柴田翔と夕飯を一緒に食べに行くことにした。


「あんだけ断り続けてたのに急にどうしたんですか?まぁ、嬉しいからいいですけど。」

「いや、今日は予定がなかったから。」

嘘なのはバレバレだった。

「昼間のあれ、忘れてください。」

「え?…やっぱり柴田尚って言ったんだ?」

「だから、忘れてください。」

「無理かも。私、柴田尚って人知ってるから。」

「……はぁ。僕の兄です。」

「えっ?あぁ、でも同姓同名の人っているからね。」

「同一人物です。花宮さんが知っている柴田尚と、僕の兄の柴田尚は同一人物です。」

「な…なんで?」

「兄から花宮さんの話を聞いたことがあったんです。」

「お兄さんは何て言ったの?」

「言えません。」

「そう。やっぱり今日は帰るわ。そういえば、母が来る日だったわ。」


逃げるように帰ってきた。


驚いた。

柴田尚は柴田翔の兄だったなんて。

知りたくなかった。

だけど、柴田翔は確実に私の過去の何かを知っている。



次の日は土曜日だった。

この日は朝から芦田光から電話がかかってきて、カフェで話した。

「芦田くん、私、今から誰にも話したことないこと話すね。」

「う、うん。」

「私ね、前の会社で、一つ上の上司を好きになっちゃったの。その人はね、私みたいな地味な人には全く興味がなくて、人を見た目で判断する、最悪な人間なの。しかも、セクハラをされた。だけどね、私の仕事ぶりは評価してくれたの。それだけだった。それだけだったけど、それが嬉しかった。いつのまにか、好きになってた。一緒に食事したり、デートしたりしたいって思い始めてた。一人で思い上がってたの。それでね、ある飲み会で、"花宮は名前だけは華やかだな。彼氏できたことないだろ?"って言われちゃって。あぁ、私一人の思い上がりだったんだって、改めて思い知らされて。たったそれだけなの。たったそれだけで、つらくなって、何にもできなくなっちゃって。会社辞めちゃったの。」

涙が止まらなかった。こんなこと、芦田光に話したところで迷惑なのは分かってた。だけど、誰かに言わなきゃって思ったら、真っ先に芦田光が思い浮かんだ。


芦田光は何にも言わず、私の頭を撫でた。


私が泣き止むと

「優姫は悪くない。俺、そいつぶっ飛ばしに行ってくる。」

と言ってくれた。


それから、なんとなく私の家に呼んだ。

「男の人、家に入れるなんて優姫も大胆だな。」

「心を許した人しか入れないわよ。芦田くんが初めて。」

「そっか。なんか照れるな。」

「夕飯作るね!それまで、そこでゆっくりしてていいよ。」

「あぁ、ありがとう。」


それから私はドキドキしながら、カレーを作った。カレーなんてベタだったかな?と後悔しながら。


カレーできた頃には芦田光は私のベッドで寝ていた。

「ベッド使っていいなんて言ってないのに…ふふふ。」

私は芦田光の寝顔を見つめて、自分の唇を芦田光の唇に当てた。

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