優姫を逃がしたくない!
私は逃げた。現実から逃げた。
スマホの電源も切って、ただどこかに行きたかった。
近くの散歩コースをさまよっていた。
無性に周りの目が気になる。
皆私のことを嘲笑っているように見えた。
もっと遠くに逃げたい。
私は新幹線に乗ることにした。
が、しかし…
駅に向かう途中のことだった。
「花宮さーん。」
息を切らしながら柴田翔が追っかけてきた。
間が悪い。悪すぎる。
走って逃げようとしたとき、腕をつかまれた。
周りの人達が私たちを白い目で見てくる。
「花宮さん、待ってください。どこに行くんですか。
みんな心配してます。連絡くらいしてください。」
そんなこと言われたってそっちこそ...。
「なんでこんなところにいるのよ!もう私のことは気にしないで。」
腕を振り払おうとしても翔がつかむ手は強かった。
「はなしません。僕は花宮さんのことを気にかけないなんて、できません」
翔の目はうるんでいた。
もうやめてほしかった。私のことなんて気にかけないでほしかった。
「探しました。会社に来てなくて、連絡もつかなくて、兄となんかあったのかとか色々考えちゃって…。」
「勝手なことしないでほしいんだけど…。」
「勝手なのは花宮さんのほうです。僕に黙って兄に会って、それで翌日会社に来ないなんて。」
「なんで昨日のこと知ってるの?」
「兄から聞きました。」
「はあ、あなたたち兄弟は本当に仲がいいのね。」
呆れた。
全部筒抜けなのだろう。
「それで?私は柴田に何を言われようと、会社に戻る気はないけど?」
「え?そ、そうですか。じゃあ、どこに行こうとしてたんですか?」
「そうね…。京都…かな。」
「きょ、京都ですか?」
あまりに予想外でびっくりしていた。
現実から逃げるんだもん。そのくらい遠くに行かなきゃ。翔はなんだと思っていたのだろうか。
自分の腕時計をちらっとみたり、スマホを覗いたり、忙しそうに動いた後、翔が言った。
「僕も京都行きます。」
はあ!?
この時の私は呆れすぎて、きっとひどい顔をしていたにちがいない。