迷子の心
「昨日、帰ってしまった理由を教えてください。」
私はなんで逃げたのだろうか。
尚が憎いから?2人の態度にムカついたから?
なんかどれもしっくりこなかった。
「んー、なんか、体が反射的にそうしちゃった、みたいな?」
適当なことしか言えない自分が情けない。
「誤魔化さないでいいんですよ。やっぱり、兄のことが許せないですよね…。それに、俺がわがまま言って連れてきちゃったのも、不愉快でしたよね…」
「ち、違うの…!」
思うより大きい声が出てしまった。
翔は驚いたような顔でこちらを見る。
「私も、わからないのよ。自分の気持ちが。」
「すみません、焦らせるようなことをして。」
「いいの。柴田は悪くない。ただ、自分の中で、まだ、お兄さんのこととか、ニートになったこととか、目まぐるしく環境が変わったこととか、全部がまだ、受け入れられてないの。嘘みたいなの。」
翔は一生懸命、私の話を聞こうとしてくれていた。
相槌を打ちながら、理解してくれようとしていた。
それを見ると、胸がキュッと苦しくなる。
申し訳なさから来る罪悪感だろうか。
ふいに、涙が溢れてきた。
ああ、男の人の前で泣くなんて、本当にダメ。
か弱い女アピールがしたいみたいに思われてしまう。
今の私は、たとえ、優しくされたとしても、突き放されたとしても、心が苦しくなる気がした。