秘書確定
温かいものに包まれている気がします。何でしょう…
「いい加減起きろ9代目」
温かい…ムニムニの枕が最高です…
「…いい加減にしろっ!」
ベシッと頭を叩かれました…痛いです…はっ!そうです!報告書!あれっ…そうだ、お師匠様から魔力を分けていただいたので、疲れて寝てしまいました!分けていただけるのは嬉しいのですが、体に馴染ませるのに体力を消耗しますね…いつも分けてくださった後は力尽きて寝てしまいます。ううう…悲しい限りです…
「イリアス、いつも起こしていただきありがとうございます。あれからどれだけ眠ってしまったのでしょうか?それにしても、イリアスの膝枕が最高です!もう少しこのままで…」
「安心しろ、2時間くらいだ。そしてふざけるな。人の姿を保つ事がどれだけ負担が掛かっているのか知っているだろう。目覚めの紅茶でも淹れるから、いい加減どけ。」
そう言いつつもちゃんと優しい手付きで頭を撫で続けている事には黙っていようと思いました。 言ってしまったら、二度とやってくださらない気がします。イリアスはプライドが高いですが、とても優しい使い魔だという事は、私だけが知っていれば良いのです。誰に何と言われようとも。さて、起きましょう。そのパシンと叩こうと構えられた手を見てしまいましたからね。
「報告書を仕上げます!お砂糖が多めのミルクティーをお願いします!」
「あぁ、分かっている。」
よぉし、報告書だー!
何とか期限ギリギリに提出できました…!期限までに出来る事は珍しいです。自分を褒めないと!
「いや、使い魔のお陰ではないか。全て聞いておる。全く変わらないな。」
「イリアスからお聞きになっていましたか…えへへへ」
「真面目ニヤレ。次ハ無イゾ」
「そういえば、いい加減秘書を決めないのか?決めぬから忙しくなっているのではないか?」
秘書…私のお仕事のお手伝いをしてくださる方。しっかりとした方に受けていただきたいのですが、難しいお仕事です。この報告書もそうです。実際に現場に連れて行き、代わりに書いて貰う事も可能です。私の仕事の負担を減らそうとお師匠様もお考えなのでしょう。
「健一に秘書を任せてはどうだ?名前を与え、主従関係もある。知らない仲でもあるまい?」
「…検討致します。それでは失礼致します。」
秘書…秘書…秘書…
「うーん…」
「悩ムクライナラサッサト健一ニ任セロ」
「でもイリアス。秘書とは大変なお仕事ではないですか。それ相応の危険なお仕事も任せないといけなくなるではないですか。」
「スデニ使イヲ頼ンデイル時点デ秘書ノ仕事ダ。」
「痛い所を突いてきますね。でもそうですね…うーん」
秘書のお仕事は簡単な事も多いです。ですが、私の秘書となると命にかかわる可能性もあります。ご本人の意見も確認しないと、勝手に決めてはいけません。ですが、あまり気がのりません。私のお仕事に毎回着いて来てもらってはいませんが、それでも危険が無かったという日があまりにも少なすぎます。
「ただ今戻りました。頼まれていたインクの購入と、反省書を受け取ってきました。」
「おかえりなさい、健一」
「9代目ノ秘書ニナレ」
「直球!!」
直球過ぎますよイリアス。
「使い魔様、そのお言葉お待ちしておりました。慎んでお受け致します。」
えっ、待っていたのですか。待ってください、私の中での戸惑いが激しいです。
「お上より何度か言われておりました。覚悟は出来ております。」
「それは、死ぬかもしれないという覚悟もある。という事になりますが、本当によろしいのですか?」
「もとよりこの命、この体、この存在自体が、司書様のもの。名を頂いた時点で俺はあなたのものだ。俺を頼って欲しい。」
そう言って健一は片ひざを床へ着き、そして私の右手を取り手の甲に口づけを落とした。あなたの中にあるのは忠誠ですか、それともーーですか?
「分かりました。健一さん、秘書をお願い出来ますか?」
「この命に変えても司書様をお守り致します。」
この時の選択は、間違ってはいませんでしたよね…?