運命の日は近い
私は今、何をしているのか。そうだ。氷の封印に成功してそれで。体力が尽きて。身体中が痛い気がします。どれだけの怪我をしているのでしょう。正直、目を開ける事もしんどい。もう少しこのまま眠っていても良い気がしますが、なにやら周りの騒がしい声が邪魔して眠れそうにないですね。
「うるさい…です」
「っ!9代目の目が覚めた!」
「当主様!意識がやっと戻られたのですね…!」
キョーヤと健一さんがうるさいです。寝かしてください。そう言いたいのに口が思うように動かない。まずここは何処なのでしょうか。下界から帰ってきたのでしょうか。それとも下界の治療施設的な場所なのでしょうか。天井以外何も見えない状態なので、何も分かりません。
「手を…お二人とも…話したい事がゲホッゲホッ!」
「9代目、無理に話さないで下さい。1ヶ月も寝たままの状態でしたので、今はとにかくまだお休みください。」
「当主様、手を軽く握っても?」
私は頷く。健一さんもキョーヤに促されて右手にキョーヤ、左手に健一さん、そしていつの間にか私の額にイリアスが止まっている。いつも通りなイリアスに少し安心はしますけどね。さてさて、久しぶりですし、なおかつ3人と同時は初めてですので、上手く繋げる事が不安ですけど、やってみなくちゃわからないですからね。
(あ~あ~。皆さん、聞こえていますか?普通にお声だして喋って下さい。耳は正常に聞き取れるようなので。もちろん、頭の中で伝えたい言葉を考えて流してくれても大丈夫ですよ。こうやって体の一部を触れている事で伝わります。)
「驚いた。当主様もこれを使えたのですね。」
(これもお母さんに教えてもらったもののうちの1つです。あの後、どうなりましたか?そして今、此処は何処なのですか?)
「健一、仕事シロ。ソノ為ノ秘書。」
「あっ、ああ。すみません。ちょっと混乱しています。」
(ゆっくりで良いですよ。でも、こういう話し方は初めてでは無いはずですよ健一さん。貴方と出会った初めての時も、まともに話が出来なくて、今みたいに手を繋いでこうしてお喋りをしていたものです。そのリアクションを見る限り、忘れてしまっているようですけどね。)
健一さんが所蔵している本から現れた時、彼は酷く混乱していた。無理もない。記憶はあるけれど、彼自信の物ではない。他人のもの。じゃあ彼は誰なのか。数多の思いが集まる忘却図書館には、ごく稀に所蔵された本の思いや未練などが集まり、人みたいな外観の何者かが産まれる。名を与える事によって、初めて何者でもない物は人としての場所を与えられる。あの頃の健一さんに比べたら、感情豊かな今はもう本物の人のようですね。でも、彼は人ではない。だから私が居なくなった後はキョーヤと同じようになってしまう。今は生きられている事に感謝しなければ。
「9代目、すみません。落ち着きました。取り乱してしまい申し訳ございません。今現在居る場所は下界です。簡単に言うと、例の標的の家です。傷の酷い9代目を抱えて走り出した時は慌てました。どうやら先代様と関わりがあり、9代目の事も治療すると言いながら、半ば誘拐のように連れて行かれそうだった所を、イリアスが止めて話をし、治療に関しては信用に値するとの事で一緒に行動する事になりました。治療は手際よく…」
「下界ではなく、何故かこちらの方法で治療しており、我々にも状況が把握出来ていない状態です。」
(聞き間違いでなければ、お母さんの名前を言っていました。なので、お母さんと何かしらの関わりがあるのは間違いがないかと。イリアス、キョーヤ。お2人には協力をするふりをして調査をお願いします。健一さんは此処に居て下さい。その顔を見る限り、不安で何も出来ないでしょう。)?分かりましたよね?」
(今2回言った…健一さんの信用度が無い…大丈夫です!健一さんはしっかりしています!困った時にはちゃんと頼ってくれますから。)
「当主様。お言葉ですが、まだまだ甘いです。弱いです。だから当主様をお守り出来なかった。一番地か居場所に居たのは貴方でしたよね?」
「それは分かっている。分かってはいるけど。…くそっ!」
(キョーヤ、あまり言わないでください。これは私の不注意です。だから健一さんは気にしないでください。ね?じゃあ寝ます。後はお願いします)
私は静かに眠られた当主様の部屋を後にし、イリアスと共に対象者の居る部屋へ向かった。
「さぁ、そこで聞いていたのだろう対象者よ。当主様はお休みになられた。もういい加減話しても良いのではないか?当主様と私の主との関係を!」
「…カレンの言っていた名付け執事はお前か。」
「境夜。私の名前だ。カレン様から聞いた事ぐらいはあるだろう。」
「渡す物がある。カレンの忘れ物だ。届けてくれ。」
「…貴様のせいでカレン様は死んだ!幼い当主様を残して!どれだけ無念だったか分かるか!お前のせいで当主様はもう!その生を終わらせてしまう!いい加減に教えろ!」
「怒る事は悪くない。だが、周りを確認してからの方が良かったな。後ろの奴、顔が真っ青だぞ。」
私はまさかと思い、ゆっくりと後ろを振り返る。健一が居た。
「9代目は死んでしまうのですか…?」




