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生産職を極め過ぎたら伝説の武器が俺の嫁になりました  作者: あまうい白一
第一章 記憶と夢と、新たな人生の始まり
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第8話 大切なものを取り戻すために

 荷物を棚に詰め終えた頃には、レインは静かな寝息を立てていた。

 ただ、やはり苦しそうな顔をしていて、


「ラグナ……ラグナさん……。私は、ここに……います……」


 泣きながら俺の名前を言っている。

 それを見たら、心が締め付けられそうになる。

 

「レイン。君が泣いている理由は、俺がどうにか出来る事なのか」


 実の所、思い当たる節がないわけではない。

 夢の中で見る知識の中には気になる事が沢山あるが、その中でも特に気になっているのは、


「レーヴァテインという名前、なんだよな……」


 夢の中のラグナが持っていた伝説の武器だが、それと同じ名前の少女がここにいる。

 150レベル炎系の魔法を使いこなせる状態で。


 レーヴァテインには、《ファイアマスター》というスキルが付いていた。レベル150までの炎系魔法を使えるようになる、という効果のものだが、


 ……微妙に通じ合っている部分が多い。


 目覚めた当初は俺と会った事が無いと言っていたが、それでも、とても無関係とは思えなかった。

 

 もしかして夢の中では武器であったレーヴァテインが、人になっているのか、と突飛な事を考えた事もある。ただ、


 ……彼女が人になってるとしたら、この杖はどうなんだ。


 俺のホルスターに付いている伝説の杖は、ただの杖として存在している。

 だから、余計に分からなくなった。

 

 『君は武器なのか?』なんて問いかけでもすればいいのだろうか。だが、それはあまりに失礼だ。

 この数カ月で薄々感じていたが、レイン自信も過去を隠そうとしている気配があって、追及できなかったし。


「……うん。どうにも、分からんことが多すぎるが、気持ちは切り替えるか」


 このまま、昼寝をしているレインの前で唸っていても仕方がない。

 少しだけ頭の整理をする為にも、外の空気を吸ってくることにした。



 俺とレインが住んでいる家の裏手には、綺麗に整備された林があり、その奥には岩石地帯が広がっていた。


 この付近はモンスターの出現が殆どないので、魔法やスキルの練習をしたり、散歩をするのに良く使っていた。


 ただ、林の奥の岩石地帯は崩れるような場所もあり、危ないから近づかないように、と言われていた。だから散歩は基本的に、林の中をうろうろするのみに留まっていた。


 それでも、季節の変化と共に色づきが変わっていく木々は見ていて飽きない為、気分転換には丁度良かった。


 ここに来た当初は茶色ばかりだった木々も、今ではしっかり黄緑色の綺麗な色になっているし。


「……そうだよなあ。もう、六か月だもんなあ」


 木々の色付きを見て、ここで過ごしてきた時間を思い返す。

 スキルや魔法の使い方は覚えて、モンスターも片手間で倒せるようになった。毎度見る夢で知識だって増えている。


 ただ、それでも未だに記憶は戻らない。


 新しい記憶があるので、それでいいと本心から思っているが、


 ……いつかは取り戻さなきゃいけないんじゃないか、って焦りがどこかに、あるんだよな。


 レインとの記憶だけあれば十分、との気持ちに背反するようだが、その焦りは消える事が無かった。


 ……どうにか、しないとな。俺の記憶も、レインの辛そうな眠りも。


 なんて思いながら、林の中を散歩していた。そんな時だ。


「ん?」


 目の端でチカッと、何かが光った気がした。

 何だと思って、そちらを見ると、木々の奥の方で何かがオレンジ色の光を放っていた。


 ……今は緑が多い季節だから、紅葉には早過ぎるよな。


 もしかしてモンスターだろうか。だったら念のために討伐しておこう。


 モンスターの知識は夢の中のソレと完全に一致していて、攻略法も熟知している。そして現実でも討伐なれしている。今や一人で楽々狩りをすることが出来ていた。


 だから今回もささっと狩ってしまおう、と俺は光の出所に向かって歩いていく。

 そのまま、歩くこと数分。辿り着いたのは林を抜けた先の岩石地帯だった。そこに光の出所はあった。


「……これは、剣、だよな」


 オレンジ色の光は、巨大な岩山に突き刺さった剣から放たれていた。

 

 柄と刀身のほとんどを、ぐるぐる巻きにされた剣だ。その鎖の隙間からオレンジ色の光が漏れだしている。

 そして鎖が巻きついているとはいえ、その剣には見覚えがあった。


「なんでこんな所に、レーヴァテインが刺さってるんだ?」


 夢の中の俺が鍛えた伝説の武器と同じ見た目をした剣が、そこにはあった。


 見た目が同じでも、中身は違うかもしれない。

 だから鍛冶スキルで確かめようと、そのまま惹きつけられるように、俺は剣に触れた。刹那、

 

「――っ!」


 俺の意識の中に、知らない筈の、しかし懐かしい記憶が飛びこんできた。



 自分(・・)はずっと暗闇の中にいた。

 右も左も見えない中で、ひたすら一人で存在していた。


「……私は何なんだろう」


 ずっとそう思っていたある日、自分を暗闇から救いだしてくれた人がいた。


 その人は錆びていて、何もできなかった自分に、沢山のものをくれた。

 とても弱くて、とても役に立たない自分を丁寧に育ててくれた。

 たくさん鍛えて、何度も何度も褒めてくれた。


 嬉しかった。でも自分は伝える言葉を持ち合わせていなくて、ただひたすら感謝の気持ちを向ける事しかできなかった。


 いつもいつも、自分の口でお礼を言えたら。

 自分の体で抱きつけたら。

 自分の全身であの人に対して愛情を説明出来たら、とずっとそう思っていた。


 ――そんなある日の事、()は目覚めた。


 気が付いた時にはここにいて、自分の体で生きていた。


 自分を育ててくれた人はいなかったけれども、周囲には多くの人々がいて、暮らし方などを覚える事が出来た。


 人として生きる事が出来る事を喜びながら、色々と学んでいった。


 そして、いつかあの人と出会ったときに伝える言葉や、気持ちを沢山用意して待つことにした。

 待つのは昔から好きだった。


 そんな風に、多くの人々と暮らして待つ中で、私は国を亡ぼす悪魔を倒そうとした。

 街の人々と協力して戦った結果、数々の犠牲と出し、後遺症を負ったものの、一度は退けた。


 だが復活を考えて自分は複数の人々と共に、敵を警戒し続けることにした。

 あの人を待つ以外、やる事がないのだから。私の運命なのだから。それでいいと思った。


 そのまま何年も待った。何十年も待ち続けた。そうしたら、


「会いたい」


 昔以上に強い気持ちが、私の中に満ちていった。

 そんな時、あの人が来た。


 川に浮かんでいた所を見つけて必死の思いで手繰り寄せた。

 目覚めた時はかつての事を覚えていなくて、少しだけ悲しかった。けれども、そんなこと、関係ないくらいに嬉しかった。


 自分の体で触れ合えるのが嬉しくて、自分の言葉で喋りあえるのが楽しかった。


 本当に幸せな時間だった。


 ――でも最近、あの人はどこか遠くを見ている事が多い。


 もしかしたら、記憶を探すために動きたがっているのかもしれない。

 それを止める権利は私にはないけれど、今の私は付いていくことが出来ない。


 行かないでほしいと言いたいけれど、言えない。自分にやる事があるように、あの人だってやりたい事があるのだから。

 考えれば考えるほど涙が出てくるけれど、そんな姿をあの人に見せるわけにはいかない。


 ただ、――お願いします。

 もしも神様がいるのならばお願いします。


 あの人が私を覚えていなくてもいいです。私にとって都合のいい記憶もいりません。

 だからどうか。どうかあの人と。


 ――もう少しだけ長く、幸せな日々を続けさせてください。



「――っ!?」


 俺が意識を取り戻したとき、既に俺の手は剣から離れていた。


「今のは……?」


 どうやら、一瞬のうちに、武器の記憶を垣間見たようだ。

 鍛冶師は武器の状態を見る事が出来るけれども、記憶まで読み取れてしまうとは驚きだし、お陰で自分の頭の中にある記憶が整理されたような気もするが、


「レイン……!」


 今はそんな事を考えている場合じゃない。


 俺は岩山から離れて森を抜け、家に向かってひた走る。

 そして、家の中に入ると、そこには、


「え、あ、ラグナさん……?」


 寝起きの姿のまま、目を真っ赤にして涙をためているレインがいた。

 そして目をごしごしと擦って、無理にほほ笑もうとする。


「ご、ごめんなさい、こんな情けない姿を見せてしまって。寝起きでラグナさんがいなかったもので、ちょっとだけ涙が出ただけなので。気にしないでください。ああ、まだちょっと、涙が止まりませんが――」


 と、言葉を強引に重ねてくる彼女を、俺は、抱きしめた。


「ひゃ、ひゃあ? ら、ラグナさん……!? ど、どうしたんですか、急に……」

「今まで気づけなくて、すまん。……君は、俺が育てた、天魔王を封印する伝説の武器だったんだな」


 そう言った瞬間、レインの喉から息をのむ音が聞こえた。


「思い出して、くれたんです、か」

「ああ……いや、違うな。正確には知っていたんだ。知っていたのに……それが君であると気付かなかったんだ。すまない」


 夢の中で見ていた事と、今ここにいる自分がつながっている。そして自分がラグナスミス本人で、目の前にいるレインの持ち主であったこと。それらすべては、事実なのだ、と今になって気付いた。


「いえ、武器が人になっているなんて、おかしな話ですから。謝られることなんて、無いですよ」


 強張った体のレインは、震える声でそう言った。

 優しい子だ、とそう思いながら、俺はレインから体を離し、その顔を見た。


「さっき、岩肌に付き立っている剣を見たよ。あれが君の本体で、封印している天魔王はあそこにいるって事で良いんだな?」


 静かに問いかけると、レインはゆっくりと頷いてくれた。


「……はい。あの剣は私の魂と力の結晶体です。その力を持って、天魔王を封じています」


 何てことだよ。夢の中の……ゲームの中の設定通りだ。

 ただ、完全に設定どおりという事ではないらしい。状態は異なっている。

 

 なにせ、レーヴァテインとは、炎の天魔王を倒すことによって手に入る『錆びた剣』で作り上げるものだ。

 それなのに、天魔王は倒されていないことになっているのだから。そして、

 

「錆びた剣に触れた時、黒い影に傷つけられているレインの夢を見たよ。あんな夢を、君はいつも、視ていたのか」


 聞くと、レインは力のない笑みを浮かべた。


「そう、ですね。あれは天魔王からの攻撃ですから。ずっと視ています。あ、でも、リアルでは傷ついていないので、綺麗なままですよ? あの夢を見てもただ、苦しいだけですから」


 茶化すような事を、仕方なさそうに言ってくる。

 その眼には涙が溜まっているというのに、何てことない、とでも言うかのように喋ってくる。


 そんな彼女の様子を見ただけで、俺は、もう限界だった。


「レイン。……このまま封印していたら君の体が持たないんだろ?」

「……!」


 俺の問いかけに、レインは言葉を詰まらせた。

 その反応を見れただけで十分、先ほどの夢が真実であることが分かった。だから、

  

「そうか。じゃあ、ちょっと、行ってくるわ」


 俺は静かにレインから手を離して立ちあがる。

 そして、居間に立て掛けておいた杖を握った。


「行くとはどこに……」

「岩山の剣を抜いてくるんだよ」

「そ、そんな事をしたら天魔の封印が――」

「――解けるだろうな。だが君を痛みから解放できる。だから、あそこにいる天魔をサクっと片付けてくるわ」

「天魔を片付けるだなんて、そんな無茶な……! 世界を壊せる化物ですよ!」


 レインは叫ぶように言ってくる。けれども、


「無茶だと、本当にそう思うか? かつての俺は、君が覚えている・・・・・・・は、あいつを倒していたんだろう?」

「……っ!」


 俺の言葉にレインは目を見開いた。


「なあ、どうだ、レイン。俺は天魔王を倒せないと思うか? 君を育て上げた男は、君を痛めつけている大バカ者を倒せないと思うか?」


 再び聞き返す。

 するとレインは力強い瞳で俺を見返してきた。


「いえ……いえ、そんな事は、ありません! ラグナさんは……私を育ててくれた人は、負けません!!」

「ああ、そうだろう。――だから、やってやるさ。それになにより、困った時はお互い様、だしな」

「ラグナ……さん」

「君が困っているなら俺は助ける。今の・・・を助けてくれた君をな」


 そして、レインが何かを言うよりも早く、俺は続けて言った。


「レイン、もう少しだけ、待っていてくれ。俺が君を、取り戻してくるから」


 そして俺は家を出る。

 右手に伝説の杖を力強く握りしめながら。


二日連続で日間一位ありがとうございます! 

そして、嬉しさのあまり、気合を入れて書いていたらこんな長さになってしまって申し訳ないです。どうぞ、よろしくお願いします。


今回ほんの少しだけシリアスが入りましたが、次回は戦闘回&決着回になります。

皆様のご支援に答えるためにも、明朝から夕方までには更新出来るように頑張ります!

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