第6話 職業とスキルと武器の力
レインとのお昼ご飯メニューを決め終えた俺は改めて鏡を見やる。
そこには先ほど見た俺の職業が書いてあるが、それは改めて見ると驚くべき情報だった。何せ、
……夢の中の俺と同じ職業、なんだよな。
しかもご丁寧にメイン・サブジョブのレベルまでも一緒だ。
255まで行くのは、メインジョブと決めた一つのみで、サブジョブは150が上限になるのがゲームシステムだった。
それがここまで同一だとは。
本当に、あの夢の信憑性が上がって、怖くなってくる位だ。
ただ、怖がっている暇があるならば、少しでも知識を増やそう。そう思って俺はレインに質問をする。
「というか、これを見る限り、俺も魔法を使えるんだな」
「ええ、これだけのレベルであれば、覚えている魔法が数十はある筈です」
「なるほど……覚えているもの、か」
正直、夢の中では沢山使っているから、魔法の名前はわかる。ただ、
……使い方が分からない。
魔法の名称を言えば、即座に発動するのか。それすらも分からない。だから、
「あの、レイン先生。早速だけど、魔法の使い方を教えてくれ。ちょっと使ってみたい」
「はい! では、僭越ながら私がサポートしますね。とりあえず練習は外でやりましょう」
昼飯のメニューが好物と言う事で機嫌を良くしたレインは、そのテンションのまま俺を引き連れて共に家の外に出る。
家の外には広めの空き地があり、
「とりあえず、この岩の前に立って下さい」
空き地の隅には、直径二メートルほどの岩があった。
家の裏手には岩山があるので、そこから転がってきたものだろうか。ともあれ、俺はその岩の前にスタンバイする。
「これでいいか?」
「はい。あとは手を前に付きだして、体内の魔力を利用するために集中した後、魔法の名前を発してください。最初なので、魔力の移動方法などは、私が軽く補助しますね」
そう言いながらレインは俺の背中に抱きついてきた。
……ぬう、これは、これで集中力が持っていかれるな。
胸が背中に当たって、そっちに意識が行きそうになる。
だが、それではいけない。
その感触はまた今度思い出すことにして、今は魔法だ。
……そう、集中して……発言する。
俺が思い浮かべるのは、夢の中でも、現実でも使っていたレインの魔法だ。
その名を今、口にする。
「《ファイアナイフ》」
瞬間、俺の手に炎の短剣が生まれ、目の前の岩に突き刺さった。
レベル一五相当の炎の魔法だが、岩に刺さるくらいの威力があるらしい。
「おお、すげえ! 本当に出た」
「わあ、ここまで簡単にやるなんて。流石はラグナさん。一五〇の魔術師職なだけありますね。同じ要領でやれば、どのレベルの魔法でも使いこなせるようになりますよ」
「そうか? じゃあ後日、定期的に練習していくか」
「はい。その時は付き合いますね。それで、あとは何か知っておきたい事とかありますか?」
「あー……そうだなあ」
魔法は使ってみたかったから先に練習したけれども、俺のメイン職業は鍛冶師というものだ。
夢の中での知識は豊富だが、現実でもそうだとは限らない。だから訪ねておくことにした。
「俺のメイン職業である鍛冶師が、どんな事を出来るかってのを、知っている限り教えてもらえるか?」
「あ、はい。鍛冶師と言うのは、自分が取得している『鍛冶ポイント』を使って、武器や防具などを鍛え直せるんです」
「そうか。……鍛冶ポイントってのはどこで確認すればいいんだ?」
「ええと、確か鍛冶師スキルに《鍛冶ステータス確認》というものがあるので、それを使って頂ければと思います。スキルも魔法と同じ要領で使えるので」
「了解。《鍛冶ステータス確認》」
レインに言われたとおりに、スキルを使用すると、自分の目の前に透明なカードのような物体が出た。
「わ、スキルも一発成功ですか! 本当に熟練者のような感じがしますよ」
「はは、ありがとうよ、レイン」
熟練者、という言葉に、俺はそう言って苦笑いする事しかできなかった。なにせ、
……ここも、夢の中のソレと同じ、なんだよな。
先ほどレインが言っていた事も、全て夢の中で得た知識と合致した。
つまりはあの夢の中のゲームシステムとこちらの世界の法則は、ほぼ同一ということだろうか。
確証はないし思い込むのは危険だが、そう思ってしまうほどの一致具合だった。
もうちょっと注意深く夢も現実も確かめていかねば、と思いながら、カードを見る。そこに描かれているのは、
『ラグナ・スミス 使用可能鍛冶ポイント3000/3000』
俺の名前と、鍛冶ポイントだった。ここもゲームのソレとそっくりだった。
「この鍛冶ポイントを使えば、武器防具を鍛えられるんだな」
「はい、ばっちりだと思います」
そうか。と言っても、何を鍛えれば良いんだろう。
俺は着の身着のままで目覚めたわけで、手持ちで武器と言えるものは杖しかないんだよな。
「……そうだ。ウチの包丁って微妙に切れ味悪かったよな?」
「あーそうですね。やっぱりお肉を切っていると脂が付いちゃうみたいで」
「んじゃ、ちょっと鍛えてみるか」
どうせだったら使えるものを、ということで、俺はレインと共に台所に戻っていた。
そしてその場にある包丁を握ってみると、
【鈍った刃の鋼鉄包丁 (ノーマル) レベル5】
との、虚空に浮かぶウインドウが見えた。
「あれ……このウインドウって、レインにも見えるか?」
「う、ウインドウ、ですか? 普通に包丁を握っているようにしか見えないのですが、何かあるんですか?」
レインはきょろきょろと周辺を見回し始めた。
どうやら彼女は見えていないらしい。だから俺はウインドウの位置を指さして教えた。
「この辺りに、包丁の名称と、レベルが見えるんだよ」
「うーん、全然分からないです。何かぼやけたものがあるのは分かりますが、――もしかすると、鍛冶師スキルを使った人は、武器のステータスが見えるのかもしれませんね」
「そうなのかね。まあ、口頭で説明すると、レベル5の包丁があるんだ。これを鍛えてみようと思うんだが……やり方は魔法と同じで良いんだよな?」
「はい。スキルに《鍛錬》というものがあった筈ですから、それを使えば良いと思います」
確かに、夢の中のラグナも使っていたスキルだ。だから俺は眼の前の包丁に向かってスキルを行使する。
「《鍛錬》……!」
包丁に意識を集中させていく。すると、俺の周囲に光が満ちていく。
その光は粒子となって、包丁に向かっていき、そして一瞬だけ強く光った。
そして光が収まった頃には、
【鉄をも切り裂く鋼鉄包丁 (ノーマル) レベル30】
俺に握られていた包丁の名前とレベルが変化していた。
「せ、成功ですか、ね?」
「ああ、一応、レベルと名称が変わったな。鉄をも切り裂く鋼鉄包丁レベル30ってのになった。それで……鍛冶ポイントは二十五減ったな」
これも夢の中のそれと同じだ。ノーマル武器を鍛えるときは素材は要らないが、鍛冶ポイントを上昇レベルと同じ数だけ必要とする
今回は25を上げたから、25減った。
残りの鍛冶ポイントは2975だ。鍛冶システムも夢の中と同じらしい。
「武器のレベルを何気なく二五も上げるって……ラグナさんは鍛冶師としても凄まじいですね」
「はは……まあ、上手くいって良かったよ。これで夕飯作りも楽になるしな。――って、色々と試している間にもう良い時間だから、昼飯作りしようか」
「はい! 私もお手伝いしますね。まずはお肉を取りださないと!」
そうして、レインは骨のついた巨大な肉を棚から取り出してくる。
脂身までしっかりついた良い肉だ。こういうものを切り分けていくから、刃がナマクラになっていくのだが、今日の包丁は一味違う。
しっかり鍛錬したから幾分、切り易いだろう。
そう思って、少し力を込めながら肉に刃を入れた、瞬間。
「……え?」
「あ、あの、ラグナさん? 包丁がまな板の方まで突き刺さってるんですが」
「うん。熱したナイフでバター切る時みたいに、スッと切れたな。骨付き肉なのに」
分厚い脂身も、骨すらも、ほんの少しの力でストンと断ててしまった。
「ちょ、ちょっとやらせてください……って、わあ」
レインが使っても同じく、スパスパと肉が切れていってしまった。
「こ、これ鍛え過ぎですよ、ラグナさん!」
「おう……。ちょっと丁寧に使って調理するか」
「そ、そうですね。丁寧に猫の手で行きましょう」
そうして俺達は慎重に昼飯を作って言った。
ただ、切れ味抜群の包丁で切り分けた肉で作ったトンカツは、何故かはわからないが、今まで以上に、美味しく思えたよ。
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昼食を終えて、午後も魔法と鍛冶師のスキルを試した。
そして夕食後、あとは寝るだけというタイミングで
「……そういえば、この杖も鍛えられるのかな」
不意にベッドの脇に置いていた杖を見て思った。俺が目覚めた時に持ち合わせていた杖だ。
杖が武器認識されるかは分からないが、とりあえず試してみようと
「……」
杖に手を触れた。
鍛冶師のスキルを使った状態でだ。
すると、鍛冶師スキルのお蔭で、その杖の名称も状態も、すぐに見えた。
その結果、一つの事実が分かった。
【舞い戻った伝説の武器・雷の天魔王を封印せしケリュケイオン (レジェンド):レベル200】
「これは……」
夢の中の『ラグナ・スミス』が持っていた伝説の武器が、俺の手元にあったんだ。
続きは午後か夜に。