第5話 可愛い先生
朝食の後、俺はレインと共にテーブルに付いていた。そして、
「今日はラグナさんの職業を鑑定をしようかと思います」
そう言ってレインが取り出したのは小さな卓上鏡だった。
「職業鑑定って、この鏡でやるのか?」
「はい。これは簡易職業鑑定機でして、物置を漁ったら出て来たんです」
この家には、居間と、俺が借りている部屋とは別にもう一つ、部屋がある。そこには巨大な棚が並んでいて、良く分からない小瓶などが大量に置かれているのだ。
「掃除する際には出入りしているが、そんな所に職業鑑定機なんて代物があるとはな」
「ええ、とても古いもので埃をかぶっていたのですが、使えそうなので。ラグナさんの体力も回復してきたことですし、やってみようかと思ったんですよ」
と、レインはほほ笑みかけてくる。
どうやらこの家にはかなり昔から住んでいるようで、見た目以上に年を取っているようだ。
といっても、見た目が美少女なので気にならないが。
「ふむ、それじゃ職業鑑定してもらいたいけど、どうやって使うんだ?」
「この鏡に触れながら自分の身を移すと、メイン職業とサブ職業がどのレベルにあるのか浮かび出てきます」
そう言って、レインは鏡の前に立ち、鏡に指で触れた。すると、
『レーヴァテイン・スルト。職業《炎系魔術師》レベル150』
と言うような文字が、鏡の中の彼女の前に浮かび上がった。
思った以上に簡単で、分かりやすい仕組みだな。
「……というか、150って凄くないか? 人間の平均レベルがこれってワケじゃないよな?」
「あ、あはは……ま、まあ、私の場合はちょっとした事情がありまして。一応、人間の平均レベルは15位になっています」
「へえ、そうなのか。……あれ、でもこの前、この周辺にいるモンスターってレベル30とか聞いたんだけど、それよりも下なのか」
「はい。だからこの辺りは人気が全くないんですよ」
なるほど。そりゃあ平均レベルが倍の所に好き好んで住む人は少ないよな。ただ、
「――ってことは、レインは魔術師としてトップクラスってことだよな? こんなところで安全に暮らせるくらいだし」
そう言うと、レインは照れくさそうに顔を赤らめた。
「そ、そうなってしまいます、かね。炎系しか使わないのですが」
「おー、トップクラスが同居人とか誇らしいな。凄いぞレイン、恰好いいぞー!」
「ふ、ふふ、なんだかラグナさんに褒められると、調子に乗ってしまいそうです」
恥じらいながらもレインはほほ笑んだ。
きっと褒められるのに慣れてないのかもしれない。
ただ、いつも俺の事を褒めてくるんだから、この位は良いだろうと思ってレインを称えていると、
「ま、まあ私はともかく、さあ、次はラグナさんの番ですよ。どうぞどうぞ」
鏡をグイッとこちらに向けられた。
「そんなに急かさなくっても。……まあ、んじゃ、失礼してっと」
俺は鏡に指を触れて、自分の体を映した。その瞬間、
――ビシリ。
と鏡にモザイクが掛かった。
「え、なにこれ。下ネタ扱いってこと?」
「ち、違いますよ。ちょっと判定に時間が掛かってるだけですよ……多分!」
最後の言葉がちょっと不安だったが、レインを信じて待つ事数秒。その結果は文字として示された。
『ラグナ・スミス。メイン職業《鍛冶師》レベル255
サブ職業 《調理師》 レベル150
《全属性魔術師》 レベル150
《武器術師》レベル150』
と、小さな鏡一杯に、文字が並んだ。
「え……あの、どれだけ職業を習得してるんですか、ラグナさんは」
「あ、ああ、四つだな。何か変か?」
「いやいや、普通の人は一人につき職業は一つまでですよ! も、もしもサブがあるとしても、せめて二つです」
そうなのか。ちょっと意外だな。サブ職業を沢山持っている人はいないのか。
そこは夢の中のゲーム知識とはズレがあるんだな。
「て、転職してスキルを残すことはありますが、……四つの職業を持ってるとか、ビックリです。しかもメインがレベル200越えなんて……初めて見ました。伝説や神話の領域ですよ」
「そこまでか? レインだって150とか行ってるから、あんまり変わらないんじゃないか」
「い、いや、私はちょっとした事情があるので。人の身で、ここまで行くのはちょっと本当に驚きですよ……! 道理でこの辺りのモンスターに苦戦しないワケです。レベル30と255なんて相手になりませんもの」
「いやあ、苦戦しないのは、レインのアドバイスがあったからだと思っているけどな」
俺は彼女に教えられるがままに、貸してもらった武器を振るっただけだし。
「むう、褒めてもらえるのは有り難いですが、なんだか変な感じです。レベルや職業の多さ的にいえば私の方が教わる事が多そうなのに。……先生役、交換しましょうかね」
レインはちょっと頬を膨らませて、拗ねてくる。
さっき褒め称えすぎた代償が来たのかもしれない。
それはそれで可愛らしいのだが、彼女にはまだまだ教えてもらいたい事が山ほどある。だから
「そう言わないで、もっと教えてくれよ。レインがいないと、俺、困るからさ」
「こ、困るのであれば……仕方ないですね。困った時はお互い様なんですから」
正直に困ると言ったら、レインは拗ねつつも嬉しそうにほほ笑んだ。
そう、彼女は俺が困っていると助け船を出してくれる。
それくらい困り顔に弱いのだ。ただ、困り顔に弱いと言っても何も要求しないわけではなく、
「あっ……で、でも、私も今日のお昼ご飯が、お肉のフライじゃないと困っちゃうかもしれません」
レインは俺を見ながら眼をパチパチさせてきた。
なんというか、我がままの言い方も可愛いなこの子は。
この一カ月で彼女の好物も当然分かっている。
「はは、分かった分かった。今日はレインの好物の肉フライにするよ。困った時はお互い様だもんな。――だから、また色々と勉強させてくれ」
俺が苦笑しながらそう言うと、レインはゆっくりと頷いて、
「はい、分かりました! ラグナさんのお料理を楽しみにしながら色々教えちゃいます!」
しっかりしているように見えて、どこか子供っぽい彼女は、楽しそうに笑うのだった。
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このご支援に答えるためにも、次話も早めに更新させてもらいます。(深夜0~1時くらいには出せるように頑張って書きます!)