第2話 世界のちょっとした真実
俺達が踏み入れたのは、四方に大きな窓を付けた綺麗な部屋だった。
「ここは……?」
「リゾート街ストロムの中央に位置する冒険者ギルド塔の最上階です」
ブリジッドの言う通り、かなり高度がある。
部屋の窓からは、青々とした湖と賑やかそうな町全体がしっかりと見えていた。
それはもう、とても平和で豊かそうな風景が広がっていたのだ。けれど、問題はそこじゃなくて、
「……リゾート? 防具と……鍛冶の街では無かったのか?」
「それよりもこちらの方が儲かるそうで」
「そ、そうか……」
ゲーム時代とかなり変わっているぞ。いやまあ、そっちの方が儲かるから商売をシフトしましたって言われたら、なるほど、としか返せないんだけどさ。
「天魔の脅威がある以上、鍛冶屋もいないわけではないんですが。ここは割と平和な土地なのでリゾートでも問題はないのですよ」
「うん? 平和って……本当なのか? セインベルグでは戦争だなんだと言っていたけれど……」
確かにこの街からはそんな雰囲気は全く感じ取れない。
けれど、天魔王を封印している伝説の武器はいるのだ。
一体どうなっているんだろう、とそう思って訪ねるとブリジッドは、ええ、と首を縦に振った。
「それはまあ、そうですよ。何せ、あのセインベルグこそ、天魔との戦争の最前線ですから。このストロムは内陸部にありますし、案外平和なモノなんですよ?」
「マジか……!」
知らなかった。
というか、聞いていなかった。
まあ、世界の状況に対して話を聞く前に、レインを救ったり街に協力したりと、やらねばならない事が立て続けに来たのだから、仕方ないのだけれどもさ。
確かにセインベルグのトラベルゲートが重点的に狙われているとかは聞いていた。
でも、他の街が狙われている、なんて話はなかったな。
「話には聞いていましたが、まさかここまで風光明媚な場所になっているとは。ブリジッドの冗談ではなかったんですね……」
「レインも驚くほどなのか。というか、君は一応、世界がそこそこ平和だってことは知っていたんだよな?」
「はい。ただ、私はセインベルグ以外はあまり訪れませんでしたので。さすがにこの街模様にはびっくりしました……」
レインは目を見開きながら、活気ある街並みを眺めていた。
……というか、そうだよ。天魔との戦争だとか言っておきなら、セインベルグでも活気があって、悲壮な雰囲気がほとんどしなかったのは、思ったよりも平和だったからなのか……。
俺の知識にあるアームドエッダの世界は、天魔の襲撃によって結構悲惨な状況だった。
危険な場所も多かったし、事件も多かったので、プレイヤーたちが活躍するための場所なっていた。
だからまあ、レインとセインベルグの一件で、結構大変な世界なのだと思って、違和感なく受け入れていたのだ。
それ故、今も不穏な世界情勢だと早とちりしていたけれど、
……意外と世界は逞しいというか、平和だったんだなあ。
よくよく考えれば、セインベルグも割と賑やかだったし、世界規模で戦争とかだったら、もっと暗くなるものな。
今にして思えば、世界の平和具合は頷けることではある。 俺からすると、今までの予想を覆された気分だが、
「うん、まあ、平和であるなら、それはそれでいいな」
物は考えようだ。
世界が物騒でないのであればそれに越したことはない。
そっちの方が、俺は俺の事情に専念できるしな。
「いろいろと説明ありがとうよ、ブリジッド。それで、これからミストルテインのいる場所に行きたいんだが、どこにいるか、分かるか?」
「はい。このギルド塔の向かいにある、神殿に普段はいらっしゃいます。案内しますね」
「よろしく頼む。……さて、じゃあ伝説の武器が……俺達の知人がいる場所まで行こうか、レイン、ケイ」
「はい!」
「おー!」
そうして、世界の情勢の真実を知った俺は、爽やかな空気が流れる街を歩いて、伝説の武器がいると聞いた神殿に向かって歩いていく。




