第1話 出立した先の現実
旅たちの荷物をそろえた俺は、レインやケイと共に、ギルドの地下にある大広間にいた。
「……これがトラベルゲートか」
魔石によるライトで照らされた、広間の中心には金属で出来た巨大な額縁のようなものが置かれている。
「はい。ラグナ様の言う通り、これがトラベルゲート。この国……いえ、大陸にある各拠点と連結している空間移動装置です」
ブリジッドの言葉で認識が間違っていない事を確信した。
……ああ、ゲーム時代の見た目とほとんど変わっていないもんな。
違うのは、やや古びていて、そこらかしこに傷跡の様なモノがある、という所くらいだろうか。 しかし、それでも、見覚えのある設備であることに間違いは無かった。ただ、
「使い方はどうするんだ?」
ゲーム時代はゲートに触れると自動的に街のマップが表示される形式だった。
だが、今はゲームではない。使い方が同じとは限らない。そう思って聞くと、ブリジッドは額縁の脇掛けられた複数のプレートを指さした。
そこには、大陸図らしきものと幾つかの模様が刻まれていて
「このプレートには大陸の地図と、街の銘が刻印されています。このうち、行きたい街の銘に触れて、ゲートに入ると移動が即座に実行されます」
「なる……ほどな」
どうやら使用方法に関して、そこまで違いはないようだ。そう思っていると、ブリジッドが前に出て、プレートに触れた。
「行き先は、湖の街、ストロムで宜しいのですよね?」
「ああ」
「では……セインベルグ市管轄の権限を用いて、ゲートを起動します」
俺の返事を受け取ったブリジッドは、プレートの一枚を押し込む。すると、先ほどゲートの内部、虚空であった部分に水色の光が渦を巻いて満ち始めた。
……これは、ゲーム時代には見られなかった現象だな。
もしかしたら設定資料にはそんな事が書いてあったのかもしれないが、どちらにせよ記憶にない部分だ。そんな風に、新鮮な気持ちで見ていると、
「さ、これで設定は完了しました。行きましょうか、ラグナ様。レインさん。ケイ様」
ブリジッドが、部屋の隅に置いていたらしいリュックを背負いながら、そんな事を言い始めた。
「え……? 行きましょうって……ブリジッドも来るんですか?」
レインが驚きの表情で訪ねると、ブリジッドは真顔で頷いてきた。
「当然ですよ、レインさん。伝説の武器のピンチだというのに、何もしないで待つというのはあまりに失礼ですから。調査部隊の編成も間に合いませんでしたから、今回は私も付いて行かせて貰います」
「それは……大丈夫なのか? 一応、天魔の襲撃があったばっかりだろ?」
街の破壊規模は大した事は無いが、ブリジッドはこの街の長クラスだった筈だ。そんな人が街を離れて良いのかと思ったのだが、
「その辺りは鍛冶ギルドの長に任せているから問題ないです。それに一度襲撃をした街には、天魔はしばらく来ないのです。それ故、今だからこそ、行けるのですよ」
「なるほどな……天魔たちにはそんな習性があるのか」
初めて知った。
こっちの世界に来てから、天魔に着いて満足に調べる事も無く。というか、この世界についてもあまり調べる時間もなく、降りかかる火の粉を振り払いまくって今に至る訳だから、当然と言えば当然なのだけれど。
「そんな訳で、今回はご同行をお許しください。ストロムのご案内もしたいので……」
「ああ、そうか。確かに、案内してくれる人がいると嬉しいな」
「そうですね。私もこの辺りからあまり出ませんでしたし、ストロムについては知らないので」
「いえす。ケイは言うまでもなく、全てが初見」
そう、俺たち三人は行き先の下調べを完璧にしている訳ではない。
一応、ゲームを運営していた俺の知識として、湖の街ストロムは鍛冶と武器の都というデータはあるし、街並みも覚えてはいるけれども。
ただ、それだけだ。この現実でどう変わっているか分からない以上、案内役は重要だ。
「そうだな。お願いするよ、ブリジッド」
「ありがとうございますラグナ様! 貴方にあの町を紹介できるのが楽しみです」
ブリジッドは嬉しそうに微笑みながら、ゲートの前に立った俺達の横に移動する。それを見届けてから、
「よし、じゃあ、出発だ」
俺達はトラベルゲートの中央、光の渦の中へと入っていく。
瞬間、俺達の視界は青い光で埋め尽くされた。
……さて、ストロムはどういう街になっているんだろうな。
そんな思いと共に光に包まれたと思ったら、
「到着しましたよ、ラグナ様」
ブリジッドからそんな声を掛けられた。
どうやら、トラベルゲートの移動は一瞬で行われたらしい。
先ほどまでの地下空間とは異なる景色が目の前に広がっていた。
「湖の街……別名リゾート街、ストロムです!」
「ん……リゾート?」
そう、先ほどまでとは打って変わって、華やかな街の風景が広がっているのであった。




