32話 明日からの目標
酒場でのひと騒ぎが大分落ち着いて、皆が酔っぱらってダウンし始めた段階で、
「……ふわあ」
俺の片足を占領していたレインが目を覚ました。
「お、起きたか、レイン」
「え……? あ、す、すみません、ラグナさん! 枕にしちゃってました……」
「いや、いいさ。疲れていたんだろうしな」
ともあれ、片方が起きてくれたのならば、もう動けるだろう。
「レイン。ブリジッドが酒場の二階を宿屋として用意してくれたそうだから、そっちに行ってもいいんだぞ?」
「あ、いえ、もう私は大丈夫です。ラグナさんはどうですか?」
「俺も今はあんまり眠くないな」
考え事をしているせいか、目がさえてしまっている。
「では、もうしばらくここでおしゃべりして、上の部屋に行きますか」
「ああ、そうだな。変に動いてケイを起こすのもかわいそうだしな」
「すーすー」
未だにケイは眠り続けている。彼女も彼女で大分消耗していたんだろう。
なにせ人化して、街に来て即座に大規模戦闘だ。
「本当にお疲れ様だよ、ケイも、レインもな」
「いえ、私はラグナさんの傍にいただけですから。ラグナさんこそ、今日はお疲れさまでした」
「おう。ようやく一日が終わった気がするよ」
今にして思えば朝から晩まで大騒ぎだった。
そして騒ぎながら色々な事実を知ってしまって、頭の中を整理するのが大変だ。何も分からないでいるよりは何倍もいいので、良い事ではあるんだけどさ。
「――レインが伝説の武器だって分かって、それから激動だったなあ」
「あはは……そう、ですね。色々ありましたねえ」
ここ一週間、動きっぱなしだった気がする。
とはいえ、自分の武器がどういう状況に置かれているのか知るのは大切な事だから、全く苦にはならなかったけれども。などと思っていると、
「ふふ」
「うん? どうした、レイン?」
「いえ、そのなんというか、この体でいるとラグナさんとの思い出がどんどん深まっていく気がして嬉しいなって思ったんです」
レインはそう言って俺に微笑みかけてくる。
そういえばこの子は武器で、ずっと人の体に憧れて、俺と触れ合いたかったと言っていたっけな。
「……他の伝説の武器も、レインと同じ状況なのかね」
「それは……わかりませんね。これは私だけの感情ですし。ただ……私たち武器は、ラグナさんに使われる事を待ち望んでいたのは確実ですね。それは武器としての感情でもあり、育成されている時から、ずっと持ちづ受けていた欲望でもありました。」
「欲望かあ。別に使える状況で、使ってほしいっていうんなら、幾らでも使ったんだけどな」
そう考えると、俺はじらし過ぎたのかもしれないな。
「そうですよ。ラグナさんの焦らしのせいで、辛抱たまらないって子は他にもいましたからね」
「マジかー……」
それは申し訳ない事をした。
でも、武器状態の時には意思疎通は無理だったから、丁寧に鍛え上げてやるくらいしか出来なかったからなあ。
こうしてしゃべれるようになったのであれば、色々な武器たちと改めて触れ合って、話し合いをしておきたい気分だ。
「うん……そうだな。とりあえず今回の件で、伝説の武器の情報が一つ手に入るんだよな」
「ああ、ブリジッドが言っていた、伝説の武器の場所ですね」
そう、今日明日で、ブリジッドからその情報を貰う事になっている。
天魔王がドロップ前の状態に戻っていて、レインのような責め苦を受けているのか。はたまたケイのように自由気ままに振る舞える状況なのか。
それはまだ分からないけれども。それでも、もしも困っている武器が、俺が育てた子たちがいるのであれば、
「明日からこの街を拠点に、他の伝説の武器を助けに行きたいところだな」
「ええ、そう、ですね……。探しに行って、助けを求めている子は助けましょう。そして、もちろん、私もお手伝いしますから!」
「はは、心強いよ」
「いえいえ、困った時はお互い様ですから。私の同期が困っているなら助けてあげたいです」
レインは小さく微笑した。
この子のこういうお人好しな部分は、全く変わらないようだ。
「それにラグナさんと一緒に動けば、沢山の思い出を作れますからね。人の体になって、してみたかった事も沢山ありますから。何が何でも付いていきますよ!」
前言ちょっと撤回。自分の欲望に素直な所もある子だったな。
まあ、それでも、思い出作りくらいは、幾らでもしてあげたいと思う。
……今の所、俺には彼女たちを育成するためにマラソンした思い出しかないからな。
だから楽しくて、新しい思い出を作りながら、俺の子たちを助けていこう。
そんな思いを胸に抱いていると、
「ふあ……っと、すみません」
レインが可愛らしくあくびをした。
ふらふらと身を揺らしてもいる。眠気が来ているようだ。
「さて、それじゃ寝たいが、二階上がるの面倒だからここでいいか」
「はい。そうですね……」
と、レインは体をフラフラとさせたまま身を寄せて来た。
そしてそのままカクンと、意識を落としてしまった。
中途半端な覚醒だったんだろうな。とても気持ちよさそうに眠っている。
……ああ、苦しそうな顔をしないで眠っているってのは、とてもいいな。
そんな彼女の寝顔を見つつ、俺も目をつむるのだった。
また明日、自分が育てた娘たちと、どんな思い出を作れるのか楽しみにしながら――。




