第19話 変化しつつも変わらない場所
服飾品の店はすぐに見つかった。
街の大通りから一本外れた路地に面して、その大きな服飾店は建っていた。
……見慣れない場所もあるとはいえ、夢の中の通りだな。
この街の夢はたくさん見た。
サブイベントがとても多かったし、それ以外にもマーシャルの技を覚えるためや、この地方限定のアイテムを集めるときも、探索しまくった。
だから、意外と見知った場所も多いんだよな、と思いながら、店に入る。
店内には、いくつもの衣類がきれいに陳列されていた。
その中の一つ、目の前にあった白いワンピースに少しだけ触れてみた。すると、
【上等な絹のワンピース レベル十 状態:良】
との表記が出てきた。
鍛冶師のスキルで見る限り、ダメそうなものはおいてないようだ。
……ゲーム時代から、この店は上質な衣服素材を取り扱っていて助かったんだよな。
だからここに来たというのもある。
ただまあ、値段はその分、張るようで、
「わ、このワンピース、……五千ゴルドもするんですね……」
レインが目を見開いていた。
「高い方、なんだろうな」
「はい。高級店に分類されると思います……」
鉄の剣一本が百ゴルドなんだから、その評価は間違っていないんだろう。
何せ、店内は広いが、俺たち以外の客は二人しかいない。
この店に来る最中にちらりと見たのだが、周りの店にはもっと客が入っていた。
客入りが少ないのは、この周辺ではこの店だけだ。
ただまあ、そのほうが買い物がスムーズに済むし、商品の確認もし易くていい、とも思う。だから、
「ケイ。なんでも好きなものを選ぶといい」
そう言うと、ケイは店内を見渡してから、いい笑顔で俺の顔を見た。
「いえす、ますたー。じゃあ、行ってくる!」
そしてブカブカなシャツを揺らしながら、嬉しそうに店内の衣服を見始めた。
元気がよくて微笑ましいな、と思いながら、俺は隣にいるレインを見た。
「んで、レインは買いに行かなくていいのか?」
「わ、私はたくさん持っていますから」
そう言うレインは先ほどから、俺が最初に触れた絹のワンピースをじっと見ていた。
じっと見ながら、触ってもいた。
「……気に入ったのか?」
聞くと、レインはぎくりっと肩を震わせた。
そして、苦笑しながら俺を見た。
「え、ええと、ほ、ほんの少しだけ。きれいだなって思いまして」
誤魔化すような言い方だから、興味があるのがバレバレだ。
「うん、まあ、買えばいいと思うぞ。レインに似合うと思うし」
「ほ、本当ですか?」
「嘘を言ってどうするんだよ」
お世辞抜きでレインにはよく似合うと思う。
生地が薄目だから、夜に着られるといろいろと目のやり場に困りそうだが。まあ、それはそれでいいものだ。
「そうですか……。で、では、お言葉に甘えて少しだけ……」
「ああ。どんどん甘えてくれ。これまで世話になった恩返しを少しでもしたいから、ほかにも外にも欲しいものがあるかどうか、見てくるといいぞ。金はまあ、足りなかったらまた素材を売ればいいんだしな」
「は、はい! ありがとうございます!!」
そんな感じで、レインやケイと共に店内を見回ること数分。
いくつかの装備を選んだあと、俺たちは店員のもとにそれらを持って行った。
そして、会計となったのだが、
「はい。合計で五万ゴルドですね。お支払いの方はどういたしましょうか?」
店員はそんなことを聞いてきた。
「えっと? どう、とは?」
「いえ、どこのギルドにツケましょうか。在籍されているギルド名を告げていただければ、そちらで登録しておきますが……いかがしますか?」
どうやらツケシステムなんてものが存在しているらしい。だがあいにくと、俺はギルドに在籍してはいないし、そもそもツケなんてものを使う気はなかった。だから、
「いや、現金払いで頼むわ」
そう言ったら、店員はぎょっとしたような視線を俺に向けてきた。
「げ、現金ですか!? ご、五万ゴルドになるのですが……」
「ああ。そうだな。はい」
俺は、先ほど鍛冶屋で換金した金の入った袋をどさりと置いた。すると、店員はまたも目を見開いてから、俺を見た。
「こ、これは……すべてお金、ですか?」
「ああ、六万くらいあるから。適当に数えてくれればありがたい」
「か、かしこまりました。しょ、少々お待ちください」
店員は慌てながらも丁寧に袋の中身の硬貨や札を数え始めた。そして、
「た、確かに五万ゴルド、頂戴いたしました」
袋の中から札の束と硬貨数十枚を取って、恐る恐る俺に袋を返してきた。
……この反応はいったい何なんだ?
明らかに驚きようだが、それを見ていると、疑問に思った。
「この店はツケで払うのがが一般的なのか?」
だから尋ねてみると、店員は困ったような表情で頷いた。
「ええ、困ったことにそうなのですよ。この街では、たくさんの商人が様々な組合を作っておられますので。当店のような一度に支払う金額が多い店だと、組合にツケて、後払いということが多く。ただ、それだと回収しきれないこともあるので。……本当に現金で払っていただいて、ありがとうございます!」
そして、普通に買い物をしただけなのに、頭を下げられてしまった。更には、
「またのお越しを、ぜひともお待ちしております!!」
店から出るところまで見送りされてしまった。
かなり感謝されたばかりか、上客と見られたようだ。
……まあ、結構買ったからなあ。
俺のとなりでは嬉しそうな顔をしている少女二人の姿がある。
……この顔を見れたのなら、買った甲斐があったってもんだよな。
そんなことを思いながら、俺は、街並みを眺める。
街が大きくなっているわ、ツケで買い物できるようになっているわ。
変わっている部分はあるけれども。
夢の中でいいものを売っている店は、現実でもいいものを売っていた。
……ああ、この店は俺が知っている通りの場所にあって、知っている通りのものを売っていたんだよな。
だから、夢とは合致しない部分はありつつも。
この街は、大体は俺の知っている場所なんだ、との実感を得るのだった。
あけましておめでとうございます!
新年あけ、初の更新となります。
そして、本年もどうぞよろしくお願いいたします。