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生産職を極め過ぎたら伝説の武器が俺の嫁になりました  作者: あまうい白一
第一章 記憶と夢と、新たな人生の始まり
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第1話 温かな出会い

「ぅ……」


 俺が息苦しさを感じて目を開けると、俺の隣に全裸の女の子が寝ていた。

 見知らぬ、赤い髪をした女の子だ。

 俺と一緒の毛布に包まっている。


 ……え!?

 

 突然の事態に、俺はこれが夢の中の出来事なんじゃないかと一瞬疑った。だが、

 

「ん……」


 俺の耳に、女の子の息遣いが聞こえてきた事で、現実味が増した。

 更にいえば、鼻先に少々熱っぽい吐息が掛かる。そして、花のような香りまでしてくる。

 目線を下に落とせば、俺の胸元には彼女の手が乗っている。柔らかな彼女の肌からは、しっかり体温を感じられた。それに何より、


「ふ……ぅ」


 彼女の手よりもさらに柔らかい唇が、俺の口に合わされていた。

 

 ……な、んだ、これは。


 女の子の体温が移ってくるような感覚と共に、口内では、ほんのり甘い味がした。

 

 五感がフル稼働して、これが現実だと告げてくる。

 それは分かった。けれども、


 ……この状況は一体、どうなっている……!?


 周囲を見れば、俺がいるのは藁が敷き詰められた簡素な小屋の中だと分かった。

 ドアのない入口の奥には小川が流れているのが分かる。

 けれどなんで俺はこんな所で全裸の女の子に抱きつかれて、キスをされながら横になっているのか。全く分からなかった。


 そんな事を思っていると、女の子は口を離して目を開けた。そしてこちらの目をじっと見て、

 

「あ、良かった! 目覚めたんですね!」


 嬉しそうな、満面の笑みを向けてきた。

 そして彼女は毛布をガバッと開けると、俺の体を少しだけ起こして話しかけて来た。

 

「体の方は大丈夫ですか? 貴方はそっちの川で溺れていたのですが……」

「溺れていたって、俺がか」


 確かに、今にして思えば、体が冷えている。

 髪も体もびしょびしょで、なんだか動きづらい。

 

「服は濡れていませんでしたが、体温が物凄く低かったので。とにかくこの小屋を借りて、私の体温で温めさせてもらいました。《炎の息吹》を使って体内からも温度を上げようとしたのですが……上手くいって良かったです」


 彼女は俺の顔を見て、やや頬を赤らめながら言ってくる。


「あ、ああ、そうだったのか。君が裸なのも、そのせいだったのか。……助けてくれて、ありがとう」

「いえ、こんな所に人が来るのは久しぶりですから。困った時はお互い様ですよ。私も久しぶりに人とお喋り出来て楽しいですし」


 顔を赤くしたまま、その少女は手近にあったローブを羽織った。俺を温める際に脱いだものだろうか。


「え、ええと、それで、お名前を聞いてもよろしいですか? ――私はレーヴァテイン・スルトと申します。レインとお呼びください」

「ご丁寧にどうも。俺はラグナ・スミスって言って……て……?」


 そこまで言って、俺は首をかしげる。

 何故か、名前を言った後に続く自己紹介の言葉が出てこなかったんだ。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ?」

「あ、はい」

 

 俺が女の子と話慣れていないから、二の句が継げないのか、と一瞬思った。

 もしくはキスをされて、頭の中がぼーっとしているから喋れないのか、とも思った。


 だが、頭を動かして考えてみるとそうではない。


 上手く話せない理由はそんなことではなく、

 

「――俺は、誰なんだ?」

「はい?」


 俺の名前以外が、上手く思い出せない。


 女の子と話慣れているとかいないとか、それ以前の問題だ。女の子と喋る場数を踏んでいるか、その記憶すらない。

 

 ――俺は、何なんだ。


 考えても、全然答えが見えてこない。

 どうなっているんだ、と背筋を震わせ、心を逸らせていると、

 

「あの……大丈夫ですか、ラグナさん? そんなに深刻そうに考え込まれて……」


 レインが声をかけて来た。

 その一声で、俺は少しだけ落ちつきを取り戻した。

 

「あ、ああ、そうだ。俺の名前はラグナ・スミスだ。それだけは確かだ」

「はい、ラグナさん、でいいんですよね」


 レインは静かに聞いてくれる。このまま自分だけで悩んでいても仕方がない。

 だから、俺はそのまま話してしまうことにした。


「ああ。ただ、名前以外が、全く思い出せないみたいだ」

「ええ!?」


 そう伝えるとレインは目を大きく見開いて驚いた。


「き、記憶喪失という奴ですか? もしかして、どこからお越しになられたかも分からなかったり?」

「すまん。分からない。川で溺れていたっていう記憶すらない。というか、ここはどこかも分からないんだ」

「アスガルド大陸の端、セインベルグよりもはるか北……と言って、分かりますか?」

「大陸ってことは……地名か? どこかで聞いたことがあるような、無いような……」


 ただ、いくら考えても、はっきりした知識が出てこなかった。

 考えるだけで頭がぼーっとする。


「……すまん」

「いえ、お気になさらないでください。……私とは普通に喋れていますし、大陸という単語も知っています。となると、水を飲んで気絶したことで、一時的に記憶が混濁しているのかもしれません」


 レインは俺の眼をじっと見つめながら、手をぎゅっと握ってきた。


「まだ冷たい……ラグナさん。貴方の事情は分かりました。ただ、とりあえず近くにある私の家に行きましょう、体を冷やしているのにそんな薄着のままでは、もっと衰弱してしまいます」


 言われてようやく認識したが、俺の服装は薄布と、マント一枚だ。それに杖を括り付けたホルスターを装備しているものの、確かに薄着だ。


「寒さは、全く感じないんだけどな……」

「熱があるのかもしれませんね。いくら意識が戻ったとはいえ、このままでいるのは危ないです。私の家には暖炉もありますから。まずはそこで落ち着いてから、話しましょう」


 そう言ってレインはほほ笑みながら、俺の手をぎゅっと掴んで起こしてきた。


「お、おう。ありがとう」

「いえいえ、困った時はお互い様ですから。さあ、付いてきて下さい」


 そして俺は小屋を出る。

 名前以外、満足な過去も思い出せない俺は戸惑いつつも、レインの背に心強いものを感じながら歩いていく。

続きは明朝に更新します!

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