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第18話 久し振りの売買

 ブリジットから受け取った馬車に乗ると、引き役の馬は勝手に走りだし、俺達を数時間ほどかけて街まで運んでくれた。


 途中、ポイズンビートルなどのモンスターがいくらか襲ってきたが、問題なく倒して旅路を再開して、そしてたどり着いたのは、


「ここがセインベルグ、なのか?」

「はい。大陸のあらゆる国に繋がる交易の都、セインベルグですよ」

「夢で見てたよりもでけえな……」


 俺が夢の中で見たセインベルグは、とても平面的な映像でしか見れなかったから、そう感じるのかもしれないが、石壁に設けられた大きな門を通って街並みを見れば、夢の中のそれとは比べ物にならない賑やかさをしていた。


「この街は大陸の端っこにありますが、貿易港や、他の街に繋がる街道がしっかり整備されているので。商人がよりつく街になったらしいんです。ブリジットが頑張って整備したそうで」

「なるほどなあ」


 ここでも夢の中の知識と食い違いが出てくるとは。正直びっくりしたが、俺が驚いていても馬はそんなこと気にもせず進んでいく。

  

 ……俺は特に縄を操っていないんだけど、この馬車馬も中々凄いよなあ。


 御者台に座っているが、ほぼ自動的に動いてくれる。

 この馬を見て石壁の門にいた検問の方々も、


『これは……ブリジッド様の魔法馬!? ――ど、どうぞ、お通り下さいませ!』


 と、一礼と共に素通りさせてくれるくらいだったし。

 馬を見ただけでそんな扱いをされるんだから、何かしら特別な存在なんだろうな。そう思っていると、馬はそのまま、石壁の門近くにある馬車の駐留所で止まった。


 徒歩では遠いという話だったが、随分とあっさり街にたどり着いてしまったようだ。


「んー、街ー。せいんべるぐー」


 そして馬車が止まると、幌つきの荷台から、ぶかぶかの服を着たケイが飛び出て来た。


「ケイもこの町を知っているのか?」

「いえす。武器だった頃に、来てた。あの宿屋は、昔のままだから良く覚えてる」

「ああ、そうだな。ここはセインベルグの北西部って所か」


 ケイの言うとおり、夢の中の光景で見た事がある建物も存在していた。

 眼の前にある宿屋などはまさにそれだ。

 扉前の看板には犬の絵と『子犬の宿屋』という名称が刻まれている。それは、夢……というかゲームの中でもあった名前だ。

 

 意外と、変わってないところは変わってないのかもしれない。


「……とはいえ、夢の中と同じ場所に服飾品を売る店が、そのまま存在しているとは限らないからな。適当に歩いて探すか?」

「はい。そうですね。ただ、その前にお金を手に入れませんと」

「あ、まずはそれだな」


 俺達は今の所、無一文だったりする。


 だから、ドロップ品や素材はいくらか持ってきて、店で売り飛ばす算段をしていた。

 モンスターの素材は割と一般的な商材であり、資金の方はそれで確保できるだろう。


 ……あと、問題になるのはどこで売るか、だよな。


 ゲームの中では、どの店でも素材を売却する事が出来たが、値段が各店で違っていた。

 そして、一番割がいいのは鍛冶屋だったが、それが現実でも通用するだろうか。


「ま、とりあえず、やるだけやってみる感じで。鍛冶屋の合った場所に行ってみるか」


 俺はレイン達を引き連れて、夢の中の地図を頼りに街を歩いていく。


 数分後。たどり着いた先に合ったのは、ハンマーの絵が描かれた看板を掲げる店だった。


 店舗の中からは金属を叩くような音が聞こえる。ここで合っているんだろうか、と思いながら、店のドアを開けると、 

 

「いらっしゃいませっすー」


 出迎えてくれたのは、耳の長いエルフの少女だ。


 ……この町の鍛冶屋にエルフなんていたっけか……。


 記憶にはないが、まあ、鍛冶屋の店員である事は間違いないだろう。だから俺はそのまま話を続けることにした。


「素材の買い取りをお願いしたいんだけど」

「はいはい、なんの素材でしょー。今はゴブリンの爪などは豊富に取れてしまっているんで、それ以外であれば適正なお値段で取引させていただくっすよー」

「そうか。それじゃ、これを頼む」


 俺は革袋に入れていたポイズンビートルの角と外殻を、カウンターに乗せた。ここに来る途中にはぎ取った素材だ。


「ええと、どれどれ……」


 エルフの店員は革袋からそれらを取り出して、じっくりと見た。

 本当に、じっくりと見て、そして、


「え?」


 首を傾げた後で、俺達の方を見た。


「これは……。……も、もしかして、ポイズンビートルの角と外殻っすか……?」

「ああ、そうだ」


 頷いた瞬間、エルフの少女はその長耳をピンッと立たせて、背筋を伸ばした。そして、


「――ッ! ちょ、ちょっとお待ちを!!」


 そう言って、あわてた動きでカウンター奥に引っ込んだ。そして、その奥からは、


「し、師匠! 師匠――! や、やばい案件が来ましたよ!」


 なんて声が聞こえてきた。


「……どうしたんだろうな?」

「さて、ちょっと分からないですね」

 

 などとレインと話している間に、エルフ少女は、眼鏡をかけたドワーフの中年と共にカウンター奥から戻ってきた。


「し、師匠、こちらです!」

「ここでは師匠ではなく店長と呼べと何度言ったらわかるんだ。それに、鍛造中に呼びつけるとは何事だ」

「い、いや、その、ポイズンビートルの素材ワンセットで売りに来る人が出て来たんですよ……!」

「はあ? ポイズンビートルって言ったら、レベル三十以上の、一流の冒険者じゃなきゃ倒せねえ化物だぞ? 早々、本物が出てくる訳は――」


 と、ドワーフの中年は喋りながらカウンターの上に乗っている物を見た。

 その瞬間、目の色が一気に変わった。


「……こ、これは……! 本物じゃないか!」

「だから言ったんすよ、師匠ー」


 素材の偽物というものがあるのかは知らないけれど、この店は真贋の目効きは出来るようだ。とりあえず正当な値段を付きそうで何よりだが、


「んで、買い取りは出来そうなのか?」


 聞くと、ドワーフの視線が一気にこちらに来た。


「あ、ああ、兄ちゃんが持ち込んだのか。――勿論出来るぞ! いくら欲しい?!」


 いくら、と来たか。

 夢の中では売値が出てくれたのでこういう交渉はしなくて済んだんだが、これは現実だ。交渉しなければならないらしい。


 夢の中での売値は、ポイズンビートルの角が五百ゴルド、外殻が千ゴルドだった、

 

 ……とはいえ、夢の中の売値がここでも通じるとは思わない方がいいよな。


「ここでの相場は幾らくらいになる?」


 だからこうして尋ねてみたら


「この辺りの相場はワンセット五万だが……ウチで買わせてもらえば……六万までは出せる」


 夢の中の価格よりもかなり高めに買ってくれることが分かった。

 

 ……ただ、夢の中と物価は変わってないよなあ。鉄の剣一本百ゴルドだし。

 

 となると、純粋に素材が高級品になったのかもしれないな。なら、迷うことはない。


「そうか。じゃあそれでお願いするよ」


 売れるというのならば売ろう。そう思って頷くと、ドワーフの中年は眼を丸くした。


「兄ちゃん……ワシの値段付けに文句を言わんのか?」

「え? なんで?」

「ワシが言うのも何じゃが、商人側の言葉を疑わず、イチャモンも付けず、そのまま信用する人間はここじゃ珍しいと思ってな」

「そうなのか? まあ、でも、ここで疑ったら時間が勿体ないだろ」


 他の店で売ればもう少し高くなるのかもしれないが、この程度の素材ならば幾らでも取れる。

 なら今は、そんな少しでも高く売れる店探しに時間を使うよりは、服を買う事に時間を使いたいと思う。


「兄ちゃんは何だか、効率的っていうか……変わりもんだな。ワシみたいなエルフを雇う偏屈なドワーフの言葉を信用してくれるのは嬉しいけどよ」

「いや、気にしないでくれ。もしも相場を誤魔化されてるなら二度とここを使わないって思うだけだからさ」

「……そうか。そうだな。信用されなくなるのは怖い事だ。……兄ちゃんは上客になってくれそうだし、嘘はつかねえように気を付けるさ。今後ともよろしくな」

「ああ、また金が足りなくなったら寄らせてもらうよ」


 そうして、鍛冶屋のドワーフと握手を交わしたあと、俺は金を受け取り、服飾を取り扱う店へと足を運んでいく。



 エルフの少女はカウンター上の素材を撫でながら、にこにこと笑顔を浮かべていた。。


「店長ー。これ、本当にやばい素材が来ましたね」


 レベル三十越えの素材は、この町でも貴重だ。まさかこんなものが手に入るとは思わなかった、とドキドキしながら素材に触れていたのだが、


「……馬鹿野郎。本当にヤバイのはあの兄ちゃん自身だろうが」


 師匠であるドワーフは、顔に汗を浮かべてそんな事を言ってきた。


「えっと……あのお客さんがやばいんですか?」

「分からなかったのか? あの兄ちゃんが入ってきた瞬間、店の剣が全部ざわついただろ。ありゃよっぽど武器に愛された戦士だぞ」

「そ、そうだったんすか? た、確かにポイズンビートルの素材を獲ってきたのは凄いと思いますが、そこまで……!?」

「さっきの余裕が見える喋り方を見ればわかるだろうが。これくらい何てことないって態度だぞ、ありゃ。せめて客の腕前くらいは判断付くようになってもらわねえとこの店を任せられねえぞ……」


 言いながら、ドワーフは、深いため息を吐いてきた。

 

「うう……申し訳ないっす」

「というか、腰に付けた剣と杖なんか、明らかに異常な力を持っていただろ。それも気付けなかったのか?」

「あ、いや、た、確かに奇妙な力は感じましたが。店長がそこまで言うモノなんすか……」

「そこまで、とか言うレベルじゃねえ。長く武器ギルドの方にも顔を出しているが、あれほどの品は見た事がない。そしてあの兄ちゃんの鍛えこまれた腕もな」

「そ、そんなやばい人が……この町に何をしに来たんすかね……」


 エルフの少女は、カウンターに残された素材を見ながら、思わず体を震わせていく。


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