第15話 新たな出会い
いつものギルドハウスで、俺が自分の武器を鍛え直しているとマーシャルが声をかけて来た。
「あれ? レーヴァテインとケリュケイオンのセッティングし直しているの?」
「おう、最近、もうちょっと効率よく狩れるなって思ったんだよ。ボス狩りも出来るセッティングにしておけば、そのままボス突入できて楽になるしな」
この鍛え直しのお蔭で、一狩りにつき一分は縮まるだろう。
だから、この鍛え直しに三十分くらい使っているが、三十回狩りにいけばすぐに元が取れる計算だ。
「うわあ、ほんっとに効率重視で細かいねえラグナは……。この前のでも十分強かったと思うんだけど。ボスの討伐最速レコード更新してたよね?」
「いや、まだ早くできる。そして、早く出来れば育成できる時間も増えるからな。良い事づくめだろ?」
「い、良い事なのかなあ。でもまあ、ラグナは武器を弄っている時が一番イキイキしているように見えるよ」
「そうか? まあ、確かにこいつらを鍛えている時は楽しいけどさ」
自分で鍛えた武器がどれだけの性能を発揮するのか、想像するのは本当にワクワクする。
「……よし、とりあえず、これでケリュケイオンとレーヴァテインの設定は終わりっと。試し打ち行くか。相手は――最近、セインベルグの方に出て来た新しい天使型でいいか」
「ああ、あの特性が面倒で手間が掛かる奴ね。ボクもいくよー。あの面倒な奴の最速レコード更新する所を見てみたいしね。なんなら動画に取って自慢したいし」
「何の自慢だよ。でもまあ、多分上手くやれると思うから、見ててくれよ」
「わーい」
そして俺は、剣と杖を装備して、ギルドハウスを出ていくのだった。
●
朝、俺は柔らかな布団の中で目を覚ました。
そして夢の内容を反芻する。
「……今日の夢は、ちょっと長めで、細かかったな」
いつも通り、ギルドでマーシャルと喋る夢ではあったが、今回は武器のスキルがいつも以上にはっきりと見えた。
普段はここまで細かい部分を見る事はないのだが、
……昨日、シた事が影響しているのかな。
思いながら、俺は自分の隣を見る。そこには、
「ん、おはようございます……ラグナさん……」
俺の体に抱きついている、横になっているレインの姿があった。
ほんのりと顔を赤らめる彼女のふわふわした部分が体に当たってくるのだが、そのお陰で、昨日した事の記憶が蘇ってくる。
これまで致した記憶は無かったのだが、何故か知識はガッツリあったため、色々な事が出来た。
というか、色々と何度もしてしまった。
「体は大丈夫か」
「え、ええ。大丈夫です。ただ、まだ少し腰が抜けていますね……」
「……おう、そうか。今日はもうちょっと休んでからベッドから出るといい。朝飯も俺が作るし」
「あ、ありがとうございます」
礼を言いながらもレインはシーツで体を隠し始める。
レインもレインで夜を思い出しているらしい。
気恥ずかしそうに喋るレインの顔色が、どんどん赤くなっている。
……昨日の夜も可愛かったが、朝も朝で凄く可愛いな。
シーツで体を隠しながら下着を付けていく彼女を見ると、なおさらそう思った。
「うん、朝から良いもの見させてもらったし、朝飯作るか。レイン、何か食べたいものはあるか?」
「あ、ええと……お肉の入ったスープが食べたいです」
「おう、そうだな。昨日から激しく体力も使ったし、朝からしっかり食おうな」
そう言ったら、レインの顔は更に赤くなった。
レインは割と感情が表に出るタイプだ。こういうところもまた愛らしいと思いながら、俺はベッドから体を起こす。
「まあ、夜の一件もあったけれどさ。それ以外にも、今日はレインの能力確認と馬車の使い心地確認をしたいからな。やる事多い分、朝からがっつり食べて体力付けようか」
「あ、は、はい。そうですね。今日からラグナさんの育成が始まるのですから、途中でバテないようにします!」
昨夜話した通り、今日からレインの再育成が始まる。
そのついでに、馬車で周辺を移動して、移動速度によっては近隣の街にも顔を出そうとも思う。
やる事もやれる事も増えたので、まずは美味い朝飯をしっかり作って食べよう、と俺がベッドから出ようとした。その時だ。
「んむぎゅ」
ベッドから出ようとした太ももが、毛布の中の『何か』にぶつかった。
そしてぶつかった『何か』が声を発した。
「……え?」
俺は思わず動きを止めた。
そして、やけに盛り上がった状態で俺に掛けられている毛布をめくった。
するとその中には、
「んあ、おはよ」
黄色い髪をした小柄な娘が、こちらを見て挨拶してきた。
全裸で、髪の毛には天使の羽のようなものが付けた少女だ。
「ええと、おはよう?」
思わず挨拶を返してしまったが、何故か同衾していた目の前の少女に、見覚えは無い。
「あの、君は誰だ?」
だから問いかけた。すると、
「ケイは、ケイだよ?」
恐らく名前らしい答えが返ってきた。
「そうか。それは分かったけどさ」
結局、誰なのかは分からずじまいだ。
そしてどうして俺たちのベッドで寝ているんだろう。と沈黙の中で考えていたら、
「ますたー。どうしたの? 起きて、ケイと、もっと喋ってくれるの?」
彼女は俺の目を見返しながらそんな事を言ってきた。
「マスターって……俺の事か?」
「そうだよ。ケイのますたーは、一人しかいないから。ケイを使いこなせる人はますたーだけだから」
そう言って、ケイと名乗った黄色い少女は、ベッドの脇に立てかけてある杖を指さした。それは俺が頼りにしている伝説の武器で、
「君はもしかして、ケリュケイオン……なのか?」
「そう、ケイ、はケイだよ。ますたーが育ててくれた、ケリュケイオン、だよ」
どうやら伝説の武器がもう一本、人化していたようである。