侯爵家令嬢 ヴィクトリア 3
ヴィクトリアが去った生徒会室では侃々諤々と議論が交わされていた。
座席を等間隔に戻した生徒会の面々が囲む円卓の真ん中にはボロボロに引き裂かれたペン入れが痛ましく載せられている。
壊された前のペン入れの代わりにマーチェリッカがバルアトスから譲られたものだ。
この惨状には当のマーチェリッカやバルアトスよりも他の男子3人が憤っていた。マーチェリッカの壊れたペン入れの向こうに犯人がいるかのように憎々しげに睨みつけている。
今の議題は例の事件――マーチェリッカの所持品が次々と壊されたりなくなったりしている事件――についてだった。
マーチェリッカは内心で面倒だと思いつつ、外面だけはカンペキに「不幸に見舞われた気の弱い少女」を演出していた。目に入れたくないとばかりにペン入れからも顔を背ける。
その姿に男子たちはますます激しく議論を交わす。
特に気炎を上げているのは茶色の短髪をカールさせたアルバンだった。
「いずれにせよ、これだけは断言しておくよ。――ぼくはこの犯人を絶対に許さない! 騎士道はおろか人間としてさえ悖る。犯人逮捕のあかつきにはそれが誰であっても決闘を挑むつもりだ」
緑地に黒い帯を走らせたリストバンドの腕を振り回して演説を打つ。伯爵家の息子らしい堂々とした弁舌だ。
「それは――」
「おっと、言いたいことはわかるよ、バルアトス。決闘が私刑のように使われるのは認められないだろうけど、それもやりようだ」
「ふん」
バルアトスは苦々しい顔でアルバンの考えに同意した。
そのとなりでマーチェリッカは「騎士道精神はどうした?」と思いながらも苦笑を維持する。手は止まることなく議事録を起こしていた。
本来この仕事は書記であるアルバンの仕事だが、いつだったか見ていられなかったのでつい交代して以来ずっとマーチェリッカの役割となっている。
「あの、本当にどうかお構いなく……」
区切りのついたところでマーチェリッカはおずおずと口を開いた。
バルアトスのヴィクトリアに対する態度にも見られるように、貴族、とりわけその子女というものは放っておくとどこまでも増長する。それが大義を得たとなれば早さも上がる。
いつもならその手綱を握るのはヴィクトリアの役目だ。ところが彼女は、マーチェリッカに最も近しい女子生徒だという理由で重要容疑者に挙げられ、この会議を外されている。
必然的に平民にほど近いマーチェリッカが制止をかけるしかない。
「任せてくれたまえ。悪は必ず成敗する。騎士の名にかけて」
返答になってないし、褒められたことではないものの悪と決まったわけでもないし、そもそも君はまだ騎士候補生だろ!
というツッコミを心のうちに留める。
残念ながら平民に近いということは貴族に対して影響力が小さいということだ。それを踏まえた発言ができるほどマーチェリッカは老練していない。
どう言おうか迷っているうちにバルアトスが締める。
「では、そういうことにしておこう」
なにがそういうことなのかハッキリしないまま、鶴の一声で会議は終了した。
マーチェリッカは頭痛をこらえるように頭を押さえた。早くヴィクトリアに帰ってきてほしい。
夜にもう一度更新します。