第7話 とあるクローン兵の反逆
【ハーピーシティ 中央市街地 広場】
夜のハーピーシティ。誰一人として出歩く者はいない。それもそうだろう。連合政府がこの国を支配して以来、コマンダー・ヴィーナスは戒厳令を敷き、夜に外出することを禁じている。もし、違反すれば「処刑場」に送られてしまう。
私は建物のカゲから広場の様子を伺う。アサルトライフルを持った数十体のバトル=アルファが歩き回っている。そして、磔にされている上半身裸の女性。その身体には酷い傷があった。……コマンダー・ウラヌスだ。
「…………」
私は黒いフードコートをしっかりと被ると(暑いなこれ)、腰から1本のライフルを取り出す。スコープで広場の中心に狙いをつける。震える手で標準を合わせると、その引き金を引いた。
乾いた音が鳴り響き、弾丸が空気を切り裂きながら飛ぶ。それは正確に広場のど真ん中に着弾する。コマンダー・ウラヌスを拘束していた右腕の手枷が砕け散る。私は素早く続けてもう1発撃つ。今度は左腕の手枷が弾け飛ぶ。
[な、なんだ?]
バトル=アルファたちが動揺する。たった一瞬の出来事。まだ何が起きているのか処理できていないのだろう。
私は更にもう1発撃つ。両足を拘束していた足枷が弾き飛び、コマンダー・ウラヌスの身体は広場の地面に倒れ込む。
私は背中に背負った小型ジェット機でその場から飛び出す。脚に白い魔法――衝撃波を纏い、素早い動きで数体のバトル=アルファを蹴り壊す。
[敵だ、殺せ!]
[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]
[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]
周りにいたバトル=アルファたちが銃撃してくる。銃弾が飛んでくる。私は自身に物理シールドを張り、銃弾によるダメージを軽減する。
コマンダー・ウラヌスの側にまで飛ぶと、すれ違い様に彼女を抱きかかえる。そのまま夜のハーピーシティに飛び上がる。
「だ、誰っ?」
「私だ、サターンだ」
「コマンダー……サターン?」
私は小型ジェット機から発せられる火で、空中で八の字を描き、素早く市街地に潜り込む。市街地を飛んでいく。そのとき、あちこちから爆音が鳴り響く。
「侵入者だ!」
「北部エリアへと飛んで行ったぞ!」
「コマンダー・ウラヌス中将を誘拐し、逃げるつもりだ!」
今度はクローン兵の声が上がる。私はそのまま南へと飛んでいく。北部の方で爆音が鳴り響く。恐らく、北部城門が爆発した音だろう。
飛んでいく方向にあるレンガ造りの建物の扉が開いていく。コマンダー・ウラヌスを抱きかかえたまま私はそこに飛び込む。素早く扉が閉められる。私は衝撃波を纏った脚で空中を蹴り、その場で速度を落とし、その場に転がり込む。
「はぁ、はぁっ……! どう!?」
「は、はい、恐らく見つかってはいないと思います」
建物の中にいたクローン兵が数人、私たちに駆け寄ってくる。全員、ネオ・連合政府に所属するクローン兵だ。
「そう、よかった。……コマンダー・ウラヌスの手当てを――」
「ま、待ってっ! コマンダー・サターン、どういうつもり――」
「後で話す!」
私はコマンダー・ウラヌスの疑問を保留し、黒いフードコートと小型ジェット機を投げ捨てると、扉を開けて外に飛び出す。しばらく走り、騒ぎが起きている市街地へと出る。
「なにがあった!?」
[コマンダー・サターン中将、敵襲です。コマンダー・ウラヌス中将を誘拐し、北門より逃げたそうです]
「なんだとっ!?」
私は燃える低空浮遊戦車を視界の端で捉えながら、バトル=アルファやクローン兵と一緒に北門へと走っていく。
「こ、これはっ……!」
北門は炎上し、完全に崩れ落ちていた。熱風を受ける私の側にクローン兵が数人、走り寄って来る。
「……閣下、こちらの作戦は成功です」
「……私の方も成功だ。ウラヌスを助け出した」
「では、――」
小さな声で言うクローン兵たちに対し、私は無言で頷く。
一連の爆発は、全部私たちの仕業だ。今夜、市街地に出る低空浮遊戦車と北門に爆弾を設置し、私が空中で八の字を描くと同時に爆発させた。これも全てウラヌスを助けるためのものだった。
私は元々はネオ・パスリュー本部所属。ウラヌスも同じだ。彼女とは仲が良かった。彼女を見殺しになんてできなかった――
もう、連合政府は終わりだ。パトフォーの黒い夢は崩壊する。フィルドたちの所属するクリスター政府が世界を統治する。連合政府が支配する最後の土地――ハーピー諸島で、連合政府は崩壊し、黒い夢は終わりを告げる。それを私は悟っていた。いや、私だけじゃない。多くのクローン兵たちも同じだ。
私は暴力と圧力のネオ・連合政府をとっくに見限っていた。そこで、私は部下たちと共に、ネオ・連合政府からの分離を画策していた。ハーピーシティ外部にいるハーピーのレジスタンスに情報を流し、協力し、ネオ・連合政府にダメージを与え続けていた。
それも、もう間もなく終わりを告げる。フィルドたちがハーピーのレジスタンスと合流した。このハーピーシティ攻撃の日も近いだろう。そのときになったら、私たちは――