第42話 終わらないラグナディス
【コスーム大陸 クリスター政府首都ポートシティ】
暑かった決戦の夏が終わり、涼しい秋の風がポートシティにある私のオフィスを吹き抜けていく。私はオフィスの椅子に座り、ぼんやりと秋の空を見ていた。
連合七将軍と連合九騎の壊滅、パトフォーの死によって、ハーピー諸島での戦いは終わりを告げた。私はフィルドさんと一緒にコスーム大陸のポートシティに帰る事が出来た。
――ありがとう。
フィルドさんはポートシティに戻って来たとき、私に一言、声をかけた。それが指すのは、パトフォーの最期の攻撃から守ったことだろうか? それとも、それを含めた今までのこと全部だろうか? はたまた、私の全く想像しないことだろうか――?
パトフォーとの戦いは本当に長かった。フィルドさんは13年、私は8年間戦い続けた。かつて、私もフィルドさんも「国際政府」に所属しながら、パトフォーと戦い続けた。でも、それは彼の手のひらで踊っているにすぎなかった。
ラグナロク大戦のさ中、「国際政府」の一部を半独立させる形で「臨時政府」を作り、やがて「臨時政府」を完全に独立・発展させて「クリスター政府」を作った。パトフォーの手のひらから徐々に抜け出ていった。そして遂に、黒い夢を打ち破った。
黒い夢の敷いたレールを、世界は進み続けた。「国際政府」も「連合政府」も、黒い夢の道具でしかなかった。でも、最後は脱線することができた。そして、自由に新しい道を進んでいる。
「パトラーさん、フィルドさんがお呼びです!」
「了解、ヴィクター!」
私は椅子から立ち上がり、部屋を後にする。……私の机に1枚の紙が置かれていた。――『ラグナロク大戦終戦宣言について』
◆◇◆
【クリスター政府首都ポートシティ 防衛省 ポート本部 防衛大臣執務室】
日の沈んだクリスター政府首都ポートシティ。今日の夜空には星ひとつない。私は座ったまま、執務用の机に背を向け、縦長の大きな窓ガラスに身体を向けていた。
明りの付いていない防衛大臣執務室の扉が開かれ、コミットと1人のクローン兵が入ってくる。彼女たちは机の前まで歩いてくる。
「クラスタ前防衛大臣閣下、命令を受け参上いたしました」
「…………」
私はゆっくりと椅子を彼女たちの方に向ける。黒いフードをゆっくりと被る。
「フィンブル、ネオ・連合政府の動きはどうだ?」
フィンブルと呼ばれた黒い装甲服を纏ったクローン将官が顔を上げる。彼女は元々はパトフォー親衛隊を率いていたクローン将官だ。パトフォーが死んだこと、どう感じているのか気になるな。
「はい、コマンド総統らはもはや単独でクリスター政府に勝てぬと悟ったようで、シリオード帝国と同盟を結ぶ気です」
「……だろうな」
私はニヤリと笑みを浮かべる。ハーピー諸島の戦いでネオ・連合政府はその勢力の大半を失った。シリオードにいる連合政府系組織と合流しても、クリスター政府と戦うことすらままならないだろう。となれば、シリオード帝国と同盟するしかなくなる。
「コミット、クリスター政府軍の再編を開始するぞ」
「えっ? ぐ、軍の再編ですか?」
「なにを驚いている? パトフォーは死んだが、まだネオ・連合政府は健在。それに、シリオード帝国と“ネオ・ヒーラーズ政府”の息の根を止める必要もある」
私は『クリスター政府特殊軍再編案』と書かれた小さなシールド・メモリを手に取り、それをコンピューターに挿入する。すると、机の左斜め前にシールド・スクリーンが現れ、私の作成した特殊軍再編案が表示される。
「えっ、えっ……?」
「ソフィア大将率いる一般部隊、シリカ大将率いる精鋭部隊、そしてこの私が直接率いる特務部隊。軍を3つに再編する」
「し、しかし――」
「特務部隊主要メンバーはフィンブル、パトラー、ケイレイト、メタルメカ、サレファトだ。また、一般部隊の兵力・将官の人数を大幅に増員せよ」
唖然とし、立ち尽くしているコミット。一方のフィンブルは冷たい目で再編案を見ていた。興味なさそうな目でもあった。まぁ、そうだろう。彼女の目的は“シリオード帝族の抹殺”なのだからな。
「ク、クラスタ前防衛大臣、シリオード大陸に攻め込む気ですかっ……!?」
「当然。黒い夢を完全に抹消するまで戦いは終わらない。私の故郷を焼き尽くした夢を完全に討ち滅ぼす」
パトフォーは死んだ。だが、まだ黒い夢の生き残りがいる。「ネオ・連合政府」、「シリオード帝国」。この弱小2勢力を滅ぼすまで、本当の意味でラグナロク大戦は終わらない。
雨が降り始める。真っ暗な空に雷鳴が轟き、部屋に雷の光が入ってくる。閃光はコミットの悲しそうな顔とフィンブルの僅かに浮かんだ笑みを露わにした――




