第40話 フィルド復活
【クリスター政府軍大型飛空艇 とある部屋】
…………。ここはどこだ? 白い天井が見える。口と鼻に何か覆いかぶさっている。絶えず送り出される空気が心地いい。何かコンピューターの音もする。……ここは病室か?
私はゆっくりと身体を起こす。身体が重たい。なぜ、こんな所で寝かされている? なにがあったんだ? ――いや、覚えている。スウィーパーの戦いの途中で、エナジーの欠乏で気を失ったんだ。
「…………ッ」
スウィーパーに噛み付かれた右肩に、鋭い痛みが走る。羽織らされた病衣をめくると、上半身を中心に包帯が巻かれていた。
そう言えば、パトラーはどうなったんだ? それにパトフォーは……? 私はカオス支部に来た目的を思い出し、口と鼻を覆うプラスチック製の呼吸機器や点滴の針を無理やり外し、そっとベッドから降りる。裸足のまま、部屋の扉に近づく。扉は電子ロックされていた。横に小型端末がある。
「……出ていかないようにするためのモノか」
私は苦笑いしながら、扉に向かって手をかざす。斬撃を飛ばし、扉が斬れ崩れる。私は灰色の壁と床をした廊下に出る。
廊下にはほとんど誰もいなかった。時々、白地に青いラインが入った装甲服を纏ったクローン兵が歩いてくる。私は壁の出っ張りや道を変えてやり過ごしていく。……しかし、この病衣は大きくて動きにくい。
しばらく歩いていると、前から誰かが歩いてくる。マズイな、この辺りには出っ張りや曲がり角がない。……仕方ない、あの部屋に隠れるか。
私は近くの扉を開け、部屋の中へと入る。だが、そこには1人のクローン兵――オリーブがいた。おっと、マズイな……。
「フィ、フィルド中将!?」
「…………?」
中にオリーブがいたことに驚いたが、よく見れば彼女は傷だらけだった。何かと戦ってきたのは一目瞭然だった。
「オリーブ、なにがあった?」
「あ、あのっ、これはっ……」
動揺するオリーブ。……今まで気が付かなかったが、彼女の後ろには別のクローン将官――ハーブが寝ていた。生きてはいるみたいだが、すでに重傷だ。……そういうことか。
「パトフォーと戦ったんだな?」
「…………! いえ、あのっ」
私は病衣を脱ぎ捨てると、ベッドに置かれていたオリーブの白い(と言っても、少し汚れているが)コートを羽織る。そして、彼女の剣を手に取り、オリーブの制止を振り切って部屋から出ていく。
扉を開けると、そこにはさっき前から歩いて来ていたクローン兵――レベッカがいた。彼女は治癒のパーフェクターだ。
「フィルド中将!?」
「オリーブとハーブを頼む」
「いや、あなたも重症で――」
私は重い身体に鞭打って廊下を走って行く。この人の少なさは、パトフォーを討つために出払っているからか。パトラーも戦っているのかも知れない。寝ている場合じゃない。
しばらく走っていると、すぐ近くで大きな音が上がる。僅かに床が揺れる。今度はなんだ……? 私は音のした方へと足を進める。
やがて私は音のした場所へと辿り着く。廊下の壁が崩れ、何かが撃ち込まれていた。砲弾か? 煙が少しずつ晴れていく。
「…………!!?」
穴の開いた側とは逆側の壁を背に、気を失った1人の女性軍人がいる。白地に青いラインの入った軍服を纏う黄色い髪の毛の女性――パトラーだ!
私は彼女を抱き起そうとする。だが、不意に穴の方から強い殺気を纏った何かが凄い勢いでやってくる。何かは見なくても分かる。
私は右腕にラグナロク魔法を纏い、穴に向かって拳を振り降ろす。拳は穴から出ると同時に彼の頬に叩き込まれる。殴られた黒い装甲服の男は、何度も床に叩きつけられながら、廊下の奥へとすっ飛んでいく。
「パトラー! パトラー! しっかりしろ! 私だ!」
私は気を失ったパトラーを何度も揺さぶる。返って来たのはかすかな呻き声。死んではいないが重傷だ。当然だろう。普通の人間なら、もはや跡形もないハズだ。
「フィルド中将!」
「なッ、アイツは……!?」
私の後ろから数人のクローン兵たちが走ってくる。逆側では何か激しい戦闘が起きている。銃撃音と悲鳴が聞こえてくる。
私はやってきたクローン兵たちにパトラーを任せると、彼女たちの制止を意に介さず、鞘から剣を抜き取り、その場から走っていく。
「がッ、はぁッ……!」
「……フィルド、弟子は生きていたか?」
「た、たすけ、てっ!」
私はクローン佐官の胸倉を掴み、その身体を持ち上げるパトフォーに飛びかかり、その頬を再び殴りつける。彼の身体はその場から窓ガラスを割り壊し、外に飛び出す。
「す、すいませんっ、フィルド中将、おかげで――」
私は数人のクローン兵の死体を乗り越え、窓から飛び出す。外では口から血を滴らせるパトフォーが待ち構えていた。その身体からはおびただしい量の流れている。
「ククク、そろそろ戦いも終わりのようだな。……ケイレイト、メタルメカ、アーカイズ――」
「…………」
私はチラリと周りに目をやる。空を飛んでいるクローン兵が何百人かいた。全員が怯えたような表情で遠巻きに私たちを見ていた。
「――シリカ、オリーブ、ハーブ、ヴィクター――」
私が寝ている間に、相当激しいの戦いがあったらしい。その戦いの中でパトフォーは狂気的、驚異的な力で何百、何千のクローン兵を殺したのだろう。
「――サーラ、コミット――」
“パトフォーがかつて使い捨ててきた者たち”からの激しい逆襲。その怒りの猛撃を彼は黒い力で返り討ちにした。そんなところか。
「――パトラー、サレファト。哀れな道具たちの復讐。その最後がお前というワケだ」
私は剣をしっかりと握り締める。パトフォーはもはや満身創痍だ。だが、それは私も同じだろう。これで決まる。最後に勝つのはアイツか私か。これで“最後”だ――




