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ロスト・パートナー  作者: 葉都菜・創作クラブ
第7章 陰の都市 ――暴風都市ストームシティ――
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第22話 不可視の本音

 【ストーム城 浴場】


 ストーム城の浴場。大きな浴場とは言えないが、それでも5人ぐらいなら一斉に入れそうなところだ(どうでもいいが、浴場まで石造りだ)。私が湯船に浸かっていると、身体を洗い終えたコミットが入ってくる。


「ひとまず、これでストーム島の件は一件落着ですね」

「……どうだか」

「フィルド中将は、ウィンドシアの降伏は偽りだと思いますか?」

「たぶん偽りだろう」


 ウィンドシアは水面下で連合政府と交渉を進めたという。そして、高度な科学技術を有する連合政府にハーピー王国を任せたらしい。

 だが、そもそも水面下で交渉を進める必要はあったのか? 交渉中にも連合政府との戦いは続き、その結果として「シールド島」と「スカイ島」が陥落している。このときにハーピーも相当数死んだと聞いている。その一方で連合政府勢力も多く兵を失っている。

 ウィンドシアがハーピー王国を裏切ったのは「ストーム島」に連合政府勢力が攻撃を仕掛けたときだ。恐らく水面下で交渉を始めたのはこの頃で、どちらかというとハーピー王国の為じゃなくて、自身の為に始めたようにも見える。


「確かにストーム城はウィンドシアの根城ではありますよね……」

「そう。根城を奪われるのを恐れ、ウィンドシアは連合政府と交渉――自己保身を始めたのだろう」


 ハーピー王国軍隊長のウィンドシアはベーチェルらには戦い優勢との報告を続けていた。当然、「シールド島」や「スカイ島」陥落のことは報告していない。後にも引けないからこそ、交渉をする意味はあった。

 そして、ウィンドシアは裏切り、「ストーム島」は陥落した。突如としてハーピー王国軍の大半を失ったハーピー王国は混乱に陥り、僅か数日でベーチェルのいる「ハーピー島」も陥落した。そのとき、道案内をしたのはウィンドシア本人だ。


「ウィンドシアの道案内で、連合軍はかなり助かったらしいですね」

「ハーピー王国軍は決して弱くなかった。シールド島とスカイ島を失いつつも、善戦した。もし、ウィンドシアの裏切りがなかったら、連合軍は被害拡大を恐れて軍を引っ込めただろう」

「そんなときにウィンドシアが“交渉”を持ちかけたんですよね……」

「ベーチェルにウソ偽りの報告を続けていたからな。絶対に“交渉”する必要があったのだろう」


 ハーピー王国崩壊後はウィンドシアはハーピー諸島の支配とネオ・パスリュー本部の建設を任され、ベーチェルは王宮に軟禁された。連合政府勢力は諸島から去り、しばらく戻って来ることはなかった。

 連合政府勢力が戻ってきたのは、「臨時政府」によって中央コスーム大陸から追い出された時だ(この時に連合政府は分裂し、ネオ・連合政府が出来た)。


「たぶん、それはあっていると思います。ベーチェルの話やネオ・パスリュー本部で見つけた資料にもそのようなことが書かれていましたからね。でも、ウィンドシアの降伏は――」


 偽りじゃない可能性もある。まず、ウィンドシアは自己保身でハーピー王国を裏切った。今度も自己保身でネオ・連合政府を裏切る可能性は高い。

 だが、ネオ・連合政府を裏切り、私たちに付くと当然、ウィンドシアはベーチェルの下に付くことになる。ベーチェルが以前のように彼女を部下にするとは思えない。それに、多くのハーピーたちはウィンドシアを裏切り者と見ている。

 こうなってくると、ウィンドシアはもはやストーム城どころかハーピー諸島にもいられないだろう。連合政府に付いた後も、彼女はハーピー王宮ではなくこのストーム城配属を強く希望した。連合政府が求めた城の改築も断固反対したという。

 そう考えると、ウィンドシアの降伏は偽りかも知れない。今のところ、ウィンドシアから希望や要求は何もない。……もしかしたら、シリカに“水面下で交渉”しているのかも知れないが。


「ふぅ……。ウィンドシアの考えていること、分かんないですね……」

「……そろそろ出るぞ」


 のぼせてきたらしいコミットと一緒に、私は湯船から出る。浴場から出ると、用意されていたタオルで身体を拭く。

 ウィンドシアの降伏。その真偽はまだ分かりそうにない。だが、ここでゆっくりしている時間はない。もうすぐ「スカイ島」から連合軍が北方大陸(シリオード大陸)に向けて出発するらしい。

 すでに連合七将軍の5人を失っている(ウィンドシアで6人だな)。九騎も8人を失った。ハーピー諸島の戦いでネオ・連合政府に勝機はない。



「フィルド中将、パトラー中将からメッセージが来ています」


 部屋に戻ると、私の弟子――パトラーからメッセージが来ていた。彼女はケイレイトと共にメタルメカをネオ・パスリュー本部に送り、そのままネオ・パスリュー本部にいたハズだ。


「出してくれ」

「イエッサー!」


 コミットは通信機を操作し、立体映像を表示させる。パトラーの姿(といっても全身じゃなく、胸から上だけだ)が現れる。……どうでもいいが、彼女は数少ないクローンじゃない人間女性だ。シリカもコミットもみんなクローン。こうなってくると、純粋な人間の方がレアな存在に見えてくる。


[フィルドさん、これからシールド島にあるカオス支部に向かいます]

「なんだと!?」


 私は背筋が凍りつく。「シールド島」は「スカイ島」よりも東にある島だ。ハーピー諸島最西部の島。なぜ急に……!?


[ビックリしたと思いますけど、ケイレイトから色々聞いちゃって……。必ず戻ってきますから心配しないでください。一緒にパトフォーを倒しましょうね! それではっ!]


 そう言うと、パトラーの姿は消える。メッセージはこれで終わりのようだ。


「シールド島ですか……」

「パトラーはなにを考えているんだ!?」

「ちょっと分かりませんが、幸いにして連合軍は大半がスカイ島に集まってます。パトラー中将でしたらきっと大丈夫だと思いますけど……」

「…………ッ!」


 確かにそうだが、それでも不安だ。なぜ急にシールド島に行く気になったのか、不思議で仕方なかった。私の心に、更に心配事という名の雲が湧いてきたようだった。

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