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ロスト・パートナー  作者: 葉都菜・創作クラブ
第1章 始の要塞 ――ネオ・パスリュー本部――
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第1話 強襲の侵入者

 幾度となく繰り返された戦い。


 黒と白の戦い。


 だが、それは間もなく終わりを迎えようとしていた。


 最後の戦いの始まりは、黒の拠点からだった――

























































 ――SC 2015年08月05日 【ネオ・連合政府本部要塞 ネオ・パスリュー本部】


 黒い大型の軍用銃――アサルトライフルを手に、私たちは殺風景なコンクリート製の階段を勢いよく駆け上がっていく。


[B2ブロック及びA3ブロックにて。侵入者あり]


 けたたましく鳴り響く警報音を耳にしながら階段を駆け上がり、広い廊下に出る。床は相変わらず灰色のコンクリート。左右の壁も黒に近い色をしたコンクリート。


[侵入者を直ちに排除せよ。繰り返す。B2ブロック及び――]


 当たり前だけど、ここは普通の施設じゃない。ここはネオ・連合政府という一大軍事国家の本部要塞――ネオ・パスリュー本部だ。


「まもなくB2ブロック。侵入者のいるブロックだ」


 私たちの先頭を走っていたルーテナント・ロール大佐が声をかける。

 侵入者がいるらしい。それも数人。それでこの騒ぎになっている。正直なことを言えば、いくらなんでも騒ぎすぎだ。侵入者殺害に向かっているのは私たちだけじゃない。他に数十の部隊が動いている。

 このネオ・パスリュー本部は地上600メートル、地下1400メートルにも及ぶ巨大要塞だ。兵力は“クローン兵”だけで80万人。ロボット兵器を含めれば更に膨大なものになる。

 それなのにこの騒ぎ。一体なにを恐れているのか、私には全く理解できない。


「ロール大佐!」


 誰かが前の方で声を上げる。斜め下を向いて走っていた私は、はっと顔を上げる。


「…………!?」


 “誰か”がロール大佐に斬りかかっていた。大佐は腰に装備した剣を抜き取る前に“誰か”によって斬られていた。

 私たちは一斉にアサルトライフルの銃口をその“誰か”に向ける。発砲。おびただしい銃弾が、ロール大佐を斬り殺した者に向かって飛んでいく。


「…………」


 ロール大佐の血が付いた剣を握った者――侵入者は、その場から地面を力強く蹴って宙に飛び上がる。早い――!


「う、うわっ!」


 赤茶色の長い髪の毛をした侵入者(女性か?)は、私たちの頭上にまで飛んでくると、右手の手のひらを私たちに向ける。まさか、超能力の斬撃――!

 私は素早くその場から飛んで離れると、隊の後方に着地する。思った通りだった。その場にいた数人のクローン兵の身体が斬れ飛び、真っ赤な血が噴き出す。

 超能力は高度魔法の一種だ。ああやって、斬撃を飛ばすこともできる。その効果は剣で人体を斬るのと大差ない。


「あぐっ!」

「いやぁっ!」


 侵入者は床に着地しながら、その付近にいたクローン兵たちを斬撃で斬り殺していく。


「ひぃ、ルーテナント・レーズ中佐、助けてっ!」


 片腕を斬りおとされたクローン兵が、私に助けを求めてくる。その斬り口からは真っ赤な鮮血が灰色のコンクリートの床に流れ出ている。

 私は彼女を抱き締め、片手でアサルトライフルの銃口を侵入者に向けようとする。だが、侵入者は素早い動きで私のすぐ側を駆け抜け、階段を飛び降りる。あっという間だった。


「うっ、ぁ!」

「痛いよぉ……」

「……ぁ、ぐ」


 私はそのままの状態で動けないでいた。15名いたクローン兵は、私を含め僅か6名にまで減っていた。階段したからは銃撃音が聞こえてくる。侵入者と仲間たちが戦っているんだろう。

 このときになって、ようやく私はネオ・連合政府上層部がここまで騒ぐワケを理解した気がした。



◆◇◆



 【ネオ・パスリュー本部 最高司令室】


 俺は灰色をした金属製の扉をくぐり、ネオ・パスリュー本部の最高司令室へと入る。広い部屋の中では大勢のクローン将官たちが慌てふためいていた。


「コマンダー・マーズ中将」

「はっ! パトフォー閣下!」


 赤色の装甲服に白いマントを羽織った女クローン――コマンダー・マーズはきびきびとした動きで俺に敬礼する。


「侵入者の正体は掴んだか?」

「はっ! 侵入者は我が国と敵対するクリスター政府の人間であると思われます!」

「具体的に誰なのだ?」

「1名はフィルドで間違いありません。残りは――」


 コマンダー・マーズがそこまで言ったときだった。


「パトフォー閣下っ! C1ブロックとF7ブロックにも侵入者が確認されました!」


 近くで大型のコンピューターを操作していたコマンダー・ウラヌス中将が声を上げる。


「か、閣下! H5、G1、V9にて侵入者ありとの報告!」

「閣下! J3からJ8全ブロックで――」


 俺は下唇を噛み締める。ふと、近くのシールド・スクリーンに目がいく。このネオ・パスリュー本部要塞内部の映像だ。


[い、いやぁっ!]

[う、撃てっ!]

[ひぃ!]


 数人のクローン兵が僅かな時間で撃ち殺される。彼女たちが倒れると同時に、アサルトライフルを手にしていた“4人”の侵入者が一瞬だけ映像に映る。


「コマンド、“準備”をしておけ」


 俺は側で怯える初老の男性に指示を出す。


「じゅ、準備ですか?」

「さっさとやれ!」

「は、はい!」


 コマンドは慌てて無線機を使い、どこかと連絡を取る。

 俺は再びシールド・スクリーンに目を移す。映像には“数十人の侵入者”と我が軍のクローン兵たちが撃ち合っていた。こちらの方が明らかに負けている。


「か、閣下……」

「なんだ?」

「侵入者は全ブロックで確認されました……」


 声を震わせながらコマンダー・サターン中将が俺に言う。チッ、かなりの規模で来たようだな。“準備”が終わり次第、急いだ方がよさそうだ。

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