第12話 ケイレイトの作戦
雨が強くなるエアロ支部。フィルドを前にした私は、腰に装備していたブーメランを手に取る。このブーメランは鋭い刃を持つ武器だ。
「ケイレイト将軍……」
「レクは下がってて……」
不安げに見守るコマンダー・レクは数歩下がる。私たちの周りでは、集まってきた何十人ものクローン兵が武器を手にしながら、
フィルドというのは、戦闘においてはかなり優秀な軍人だと思う。でも、やや感情的なところがある。一度カッとしてしまうと、あまり考えもなしに手を出す傾向にある。今がそれだ。きっと、話して分かってくれることはない。だから、「こうする」しかない。
「来いっ!」
「ハハハ、お前は死にたがり屋だったのか!」
狂気的な笑い声を挙げるフィルド。次の瞬間、彼女は剣を抜き取り、私に斬りかかってくる。フィルドの持つ剣が振り下ろされる。私はブーメランでそれを受け止める。その力の強さに、腕が痺れそうになる。フィルドは何度も繰り返し激しく斬りかかってくる。私は防戦一方だった。
そもそも、フィルドと私では力の差が大きい。フィルドと対等に戦える人はそうはいない。……だからこそ、クリスター政府の中将なんだろうけど。
「フィルド、パトラーを返すから剣を収めて!」
自分の予想よりもあっという間に限界がきた私は、何度目か分からない攻撃を剣で防ぎながら声を上げる。
「そんな戯言で私を騙せると?」
「…………っ!」
やっぱりダメだ。フィルドから冷静さが消えている。……自分の命よりも大切な弟子が捕らえられていると信じ込んでいるんだから当然か。
パトラーがここに来るのは本当だ。コマンダー・レクがさっきそう命令を出した。でも、やや時間がかかる。パトラーのいるエリアから、ここはやや離れている。
「そらっ!」
「…………!」
疲労が限界に達していた私の腕。フィルドの剣でブーメランを弾き飛ばされる。金属音を立てながら、ブーメランはコンクリートの地面を転がる。
フィルドの剣の先端が、私の首に突きつけられる。もう武器はない。私は死の恐怖に怯えながら、震える手を上に挙げる。
「レ、レクっ、パトラーは、まだっ?」
「も、もう少しで来ると――」
コマンダー・レクがそこまで言ったときだった。
「フィルドさん!」
「…………!? パトラーっ!?」
白に青いラインが入った服を纏い、黄色の髪の毛をした女性軍人――パトラーが走ってきた。その側にはコマンダー・クリー准将も一緒だ。フィルドは剣を降ろし、動揺しつつもパトラーの側に駆け寄る。
「パトラー、これはどういうことだ……?」
「…………」
パトラーは俯き加減で中々答えない。どう言えばいいのか迷っている感じだった。それもそうだろう。なぜなら――
「ケイレイト将軍!」
別方向からコマンダー・ルイドと数名のクローン兵が走ってくる。その手には破壊され、斬り落とされたバトル=タクティクス・ファーストの首があった。
「…………!?」
コマンダー・ルイドが持つバトル=タクティクス・ファーストの首を見たフィルド。彼女の動揺は、ますます大きくなっていく。そろそろ気づいただろうか?
「……フィルドさん、実は私が捕まったのは、パトフォーを倒すための作戦なんです」
「…………!?」
「…………」
……私はパトラーと一緒に、クローン兵30万人を使ってパトフォーを倒すつもりだった。ただ、クローン兵30万人を引き連れ、スカイ島に乗り込むには何か理由が必要だった。
そこで、パトラーを捕らえたと正式に発表した。パトラーを護送するために、クローン兵30万人を引き連れていくと言えば、コマンドたちは疑問を抱かないハズだ。彼女にはそれだけの価値がある。
だけど、もう作戦は失敗した。フィルド襲撃のことはバトル=タクティクス・ファーストが報告した。本当は彼女を捕らえればよかったけど、この施設にいる人間じゃ誰も彼女に敵わない。だから、作戦を暴露し、フィルドを止めるしかなかった。そうしないと、私やレクが殺されかねない。
「ケイレイト将軍、パトフォーから通信が……!」
「…………! 繋げて!」
「は、はい」
コマンダー・レクが通信機を起動させ、通信を許可する。
[ケイレイト、久しぶりだな。エアロ支部の監視システムを通して、様子を見ているとずいぶんと面白いことになっているようだな]
「パ、パトフォー閣下……!」
私は下唇をかみ締めながら、すぐ近くの監視カメラに視線を移す。
[もうお前とは10年以上の付き合いになる。まさか、そんなお前に裏切られるとは、な。……俺はお前のことなど、道具程度にしか思っていない。道具に裏切られる不愉快さがお前に分かるか?]
「……10年分の忍耐が水の泡になって、私も不愉快です。パトフォー閣下」
[この調子だと、お前の恋人――おっと、連合七将軍の一角を担うメタルメカも怪しいな]
「えっ……?」
パトフォーの思ってもいなかった言葉に、私の背筋に冷たいモノが流れ込む。メタルメカ――グラディウスは確かに私の恋人だ。でも、彼はこの作戦に関わっていない。それに、――
「ご冗談を。メタルメカは、あなたに逆らうことはできないハズですよ? 頭に埋め込まれたコントロール・チップとやらで」
グラディウスは脳内にコントロール・チップが埋め込まれている。それのせいで、パトフォーの命令に逆らえない。命令に逆らえないだけで、普通の生活を送ることはできるし、意識もちゃんとある。
[ああ、そうだったな。……では、俺の奴隷同然の七将軍に――お前を殺させよう]
「…………!?」
パトフォーの冷たく、何の慈悲もない言葉が、私の胸に突き刺さる。グラディウスに私の殺害を命じる……!? 意識のあるグラディウスが私を殺す――
[メタルメカも嘆くだろうな……。勝手に動く自らの身体を止められず、ハッキリとした意識のまま、お前を殺す。哀れな奴隷人形だ。ククク、ハハハハ!]
パトフォーは笑いながら、通信を切る。私は何の言葉も返せず、呆然とするしかなかった。がっくりと地面に手を突き、目から流れ出る熱い液体に頬を濡らすしかなかった。
「……メタルメカを捕らえればいいんだな?」
「フィルドさん……!?」
「それぐらい簡単だ」
私とパトラーの作戦を壊し、グラディウスに私の殺害命令を出させる原因となった張本人は、居心地の悪そうな顔つきのまま、その場から去っていく。私はそれを涙の溢れる目で見送ることしかできなかった――
<<『オペレーション:ラスト』とネオ・連合政府軍>>
◆オペレーション:ラスト・01【成功!】
◇派遣メンバー:フィルド中将、ヴィクター准将
◇派遣エリア:ハーピー島(鳥人都市ハーピーシティ)
◇ターゲット:コマンダー・プルート筆頭中将、コマンダー・ヴィーナス中将、コマンダー・マーキュリー中将、コマンダー・ウラヌス中将、コマンダー・サターン中将
◆オペレーション:ラスト・02【成功!】
◇派遣メンバー:パトラー中将
◇派遣エリア:エアロ島(エアロ支部)
◇ターゲット:ケイレイト大将
◆オペレーション:ラスト・03【遂行中】
◇派遣メンバー:アーカイズ中将
◇派遣エリア:ウェポン島(ウェポン支部)
◇ターゲット:メタルメカ大将
◆オペレーション:ラスト・04【遂行中】
◇派遣メンバー:シリカ大将
◇派遣エリア:ブラッド島(ブラッド支部)
◆オペレーション:ラスト・05
◇派遣メンバー:未定
◇派遣エリア:ブラッド洋館
◇ターゲット:コマンダー・クロア大将
◆オペレーション:ラスト・06
◇派遣メンバー:未定
◇派遣エリア:ストームシティ
◇ターゲット:ウィンドシア大将
◆オペレーション:ラスト・07
◇派遣メンバー:未定
◇派遣エリア:カオス支部
◇ターゲット:パトフォー、コマンド総統、コモット副総統、ネストール筆頭大将




