第11話 フィルドとクローン兵
白い夢の焦りが、判断を鈍らせる――
焦りが全てを水の泡に帰してしまう。
黒い夢への風からの刃。
白い夢の焦りが、その刃を阻む――
【エアロ島 エアロ支部付近 エアロ・フォレスト】
ネオ・連合政府の七将軍ケイレイトが支配するエアロ島のエアロ支部。ここには私の弟子――パトラーが派遣された。だが、彼女は捕まってしまったらしい。
真夏の蒸し暑さに、汗を滲ませながら、私は深い茂みの中からエアロ支部を伺う。日はすっかり沈み、辺りはエアロ支部から発せられる人工の青白い光ばかり。
エアロ支部はネオ・連合政府が管理する大型の軍用施設だ。無数のクローン兵が歩いている。
「さて、どうするか……」
ケイレイトはクローン兵30万人を率いる七将軍。バトル=アルファやバトル=メシェディの数はゼロだが、クローン兵がとにかく多い。
ネオ・パスリュー本部のときはクローン兵60万人、ロボット兵器30万体。ハーピーシティのときはクローン兵10万人、ロボット兵器が30万体。数で言えば、前回・前々回の方が圧倒的に多い。だが、あのときは味方の数も多かった。今回は私一人しかいない。さすがに1人でクローン兵30万人を相手にはできない。
「…………!」
そのとき、すぐ近くを低空浮遊小型器――軍用スピーダー・バイクに乗ったクローン兵2人が高速で通り過ぎていく。この付近を警備しているのだろう。
クローン兵は私の遺伝子を利用して創り出された女性兵士。今やこの世界に何百万人といる存在だ。ネオ・連合政府の前身組織「連合政府」が主に使っていたが、その多くが連合政府から離脱し、クリスター政府に所属している。シリカやコミットらも元々は連合政府所属だ。
そのとき、私の頭にある作戦が思い浮かぶ。
「……クローン兵は全員、私の遺伝子を使っていたな」
私はニヤリと笑みを浮かべ、スピーダー・バイクに乗るクローン兵に向かって、茂みから飛び出した――
◆◇◆
【エアロ支部 最上階 最高司令室】
エアロ支部の最高司令室で、私は栗色の髪の毛をした女性将軍――ケイレイト将軍に今日の報告をする。……といっても、特に何もない。クリスター政府、ネオ・連合政府ともに、大きな動きはない。
「コマンド総統らは脱出を見合わせています」
「そっか。パトラーの引渡しについては何か言ってる?」
「今のところは特に何も……」
ケイレイト将軍の問いに私はイスに座ったまま答える。パトラーはクリスター政府の前身組織「臨時政府」のリーダー。コマンドは彼女を人質に、ネオ・パスリュー本部奪回を考えているらしい。
ただ、ここをフィルドが襲撃し、ケイレイト将軍が殺され、パトラーが奪い返されたらさすがに諦めるだろう。
「引渡しの命令が来たら……」
「分かってます。クローン兵30万人と共にスカイ島へ向かい、コマンドとパトフォーを確実に――」
そのときだった。突然、灰色をした最高司令室の扉が大きな音を立てて、吹き飛ばされる。鋼のそれは、私たちのすぐ目の前に転がる。
「…………!!?」
黒いレザースーツに白いブーツを履き、白いハンドグローブを着けた髪の長いクローン兵がゆっくりと歩いてくる。
「えっ、えッ?」
突然の乱暴な訪問者に、動揺しながらケイレイト将軍は立ち上がる。私も彼女に続いて立ち上がる。
「か、彼女を止めろっ!」
「イエッサー! コマンダー・レク少将閣下!」
私の命令を受けた4人のクローン准将がそれぞれの武器を手に、ゆっくりと歩いてくるクローン兵に向かっていく。
だが、――
「みんな下がれ!」
「えっ?」
ケイレイト将軍が声を上げる。4人のクローン准将たちは戸惑いながらも、クローン兵の通過を許す。彼女は私とケイレイト将軍の前にまで、進んでくる。
「……フィルド、だな?」
「…………!?」
フィルド!? このクローン兵は私たちのオリジナルなのか!?
一般のクローン兵のように見える彼女は、ニヤリと笑う。……そういえば特徴が一致する。雰囲気も私たちのオリジナルそのものだ。
「パトラーを返して貰おうか」
「ちょ、ちょっと待って。これは――」
ケイレイト将軍が話そうとしたが、それを無視してフィルドは飛び掛ってくる。衝撃波を纏った拳が、将軍の腹部にめり込む。一瞬のことだった。
「あっ、ぐっ――!?」
ケイレイト将軍の身体が吹き飛ばされ、大きな窓ガラスに叩きつけられる。あまりの衝撃に窓ガラスは割れ、彼女の身体は雨が激しく降る外に放り出される。
「ケイレイト将軍!」
フィルドが追い討ちとばかりに飛び出す。私も飛び出す。
「クッ……!」
私は両足に衝撃波を纏い、空中を蹴りながら、その衝撃でケイレイト将軍を追いかける。だが、スピードはフィルドの方が速い。
彼女はケイレイト将軍に追いつくと、衝撃波を纏った脚で彼女を蹴り落とそうとする。だが、ケイレイト将軍は震える手をフィルドに向け、紫色の電撃を繰り出す。電撃に弾き飛ばされるフィルド。その間に私がケイレイト将軍に追いつき、その身体を抱き留める。
「ケイレイト将軍っ!」
「レ、レクっ、ありがとうっ! ……でも、これで“アレ”は――」
私たちは水溜りのできた地面に降り立つ。下唇をかみ締めながら、私は右手首に装備した小型通信機を起動させる。
「コマンダー・クリー准将、パトラー=オイジュスをP4-24エリアへ」
[イエッサー!]
「コマンダー・ルイド准将、バトル=タクティクス・ファーストはどう?」
バトル=タクティクス・ファーストは最上級の指揮ロボットだ。このロボットはコマンドが派遣したもので、常にエアロ支部の様子を送信している。
[残念ながら、今の出来事をパトフォーらに報告しています。]
「……破壊して」
[イエッサー!]
命令を出し終えると、私は通信機を切る。それとほぼ同時にフィルドが降り立つ。ケイレイト将軍を追ってきたんだ……
<<組織の変遷>>
◆ネオ・連合政府
◇前身組織:「連合政府」
◇前身組織詳細
――複数の大企業や国家を中心に形成された国家。今は亡きティワードという男が表向きのリーダーだった。なお、現在では連合政府はすでに滅亡した。
◆クリスター政府
◇前身組織:「臨時政府」
◇前身組織詳細
――以前、世界を大部分を統治していた「国際政府」によって設立された国家。パトラーがリーダーだった。国際政府から分離・独立してクリスター政府を名乗った。なお、現在では国際政府はすでに滅亡した。
<<登場人物>>
◆ケイレイト
◇ネオ・連合政府七将軍の1人。
◇人間女性であるが、風を操る特殊能力を持つ。
◆コマンダー・レク
◇ネオ・連合政府の少将。ケイレイトの側近。
◇フィルドのクローン。
◆コマンダー・クリー
◇ネオ・連合政府の准将。ケイレイト軍に6人いる准将の1人。
◇フィルドのクローン。
◆コマンダー・ルイド
◇ネオ・連合政府の准将。ケイレイト軍に6人いる准将の1人。
◇フィルドのクローン。
◆コマンダー・フレイロ
◇ネオ・連合政府の准将。ケイレイト軍に6人いる准将の1人。最高司令室にいた。
◇フィルドのクローン。
◆コマンダー・ソクト
◇ネオ・連合政府の准将。ケイレイト軍に6人いる准将の1人。最高司令室にいた。
◇フィルドのクローン。
◆コマンダー・ロート
◇ネオ・連合政府の准将。ケイレイト軍に6人いる准将の1人。最高司令室にいた。
◇フィルドのクローン。
◆コマンダー・プレイド
◇ネオ・連合政府の准将。ケイレイト軍に6人いる准将の1人。最高司令室にいた。
◇フィルドのクローン。




