第9話 ハーピー王宮の戦い
斬りかかる度に、腕にまでその衝撃が伝わる――
「クッ……!」
コマンダー・プルートは大きな薙ぎ刀で、振り降ろされる私の剣を防ぐ。その度に金属同士がぶつかる高い音が上がり、火花が散る。
連合政府・九騎筆頭のコマンダー・プルートは、黒いフード・コートをはためかせながら、軽快かつ細かい動きで後ろに下がる。私が彼女を追うように、何度も迫り、剣を降ろす。
「これまでのクローン兵とは格が違うな……」
「…………」
コマンダー・プルートは何も言わず、冷たい目で私の斬撃を防ぐ。何度も聞いた金属音と、何度も目にした火花が上がる。これじゃキリがない。
私は素早く後ろに飛ぶと、剣に白い衝撃波を纏わせる。剣を構えると、それを素早く横に振る。コマンダー・プルートとは距離があり、当然のことながら刃は届かない。だが、刃に纏わせた衝撃波が飛ぶ。衝撃波を掛け合わせた斬撃――白い斬撃が飛んでいく。
「…………」
コマンダー・プルートは高速で飛ぶ斬撃を、自身の薙ぎ刀で防ぐ。だが、これは普通の斬撃ではない。斬撃と薙ぎ刀が触れ合った瞬間、激しい爆発にも似た衝撃が起こり、彼女の身体は弾き飛ばされる。私は彼女にトドメを刺そうと、その場から走り出す。
「…………」
コマンダー・プルートは空中で体勢を立て直す。あっという間だった。そして、薙ぎ刀に炎を纏い、それを何度も縦に回転させる。
「…………!」
いくつもの炎の斬撃が私に向かって飛んでくる。真っ赤な灼熱の炎を纏った斬撃。それが間一髪で魔法シールドを張った私に襲い掛かった――!
◆◇◆
【ハーピーの王宮 上層階】
私は魔法で生成した半透明の紫色をした小さな剣を投げ、バトル=アルファを刺し壊す。側にいたハーピーが矢じりに衝撃波を纏い、それを力強く飛ばす。バトル=アルファの胸を砕く。
「ヴィクター准将、もうすぐで女王の間です」
やや疲労の色を滲ませたコマンダー・ウラヌスが言う。彼女の体調はまだ万全じゃない。ネオ・パスリュー本部奪回作戦失敗の件で、コマンダー・ヴィーナスから受けた拷問の傷が治り切っていないらしい。
「ウラヌス中将、ヴィクター中将の“護衛騎”がっ!」
「護衛騎?」
クローン兵の指差す方向から、赤い装甲服を纏い、背中に小型ジェット機を背負ったクローン兵が現れる。だが、それはもはや人間じゃない。半機械のクローン兵――バトル=アサルトだ。
[敵を確認! 排除します!]
ツイン・レーザー砲に改造された両腕。折りたたまれたそれが真っ直ぐになり、私たちに狙いを定める。2本のレーザー光線が放たれ、私たちに向かって飛んでくる。着弾すると同時に、レーザーは起爆し、爆音と炎を上げる。床が揺れる。
片腕から放たれ、僅かなタイムラグを挟んで、もう片方の腕からも2発のレーザーが飛ぶ。それが終わると、また片方の腕から2発のレーザー。ほぼ連射状態だ。
「う、うわっ!」
「やぁっ!」
「あ、ぐぅっ!」
バトル=アサルトの激しい攻撃で優勢だった私たちの進撃は止まる。もはや防戦一方だった。このままでは全滅してしまう――!
◆◇◆
炎の斬撃に襲われ、大きなダメージを負った私は黒い煙の中に転がった剣を素早く拾い上げ、座り込んだ姿勢のまま、すぐ後ろにまで迫っていたコマンダー・プルートの薙ぎ刀を防ぐ。彼女は薙ぎ刀を回転させながら、何度も攻撃を繰り返す。
「…………ッ!」
一瞬の隙を見て、私は後ろに飛んで立ち上がる。だが、体勢を整える時間はくれなかった。コマンダー・プルートはすぐに追いつき、再び激しく何度も斬りかかる。
私は剣で攻撃を防ぐ合間を使い、衝撃弾を飛ばす。衝撃弾は私とコマンダー・プルートの間で爆発し、双方とも弾き飛ばされる。
床に転がった私は素早く立ち上がると、剣にラグナロク魔法を纏っていく。真っ白な刃が、黒い煙によって暗黒色に染まっていく。
ラグナロク魔法は危険な魔法だ。強力な威力を発揮するが、それは使用者の生命力を消費して生み出される力。つまりそれは、自身の命を削っているに等しいのだ。
「…………」
コマンダー・プルートが、刃にべっとりと血の付いた薙ぎ刀を手に、私に向かって走ってくる。私も彼女に向かって走って行く。
走りながら剣を振り上げ、射程範囲に入ると同時に剣を振り降ろす。コマンダー・プルートが薙ぎ刀で防ごうとする。だが、その刃は砕け散る。
「…………。……死ぬ気か?」
「…………?」
私の剣が、黒い服に包まれたコマンダー・プルートの身体を斬り裂く。鮮血がほとばしり、連合政府の筆頭中将は血の付いた薙ぎ刀を床に転がす。
だが、倒れたのはコマンダー・プルートだけじゃなかった――
「…………ッ!!?」
私の腕から剣が落ちる。音を立てて、床を転がる。腹部に鋭い痛みが走る。――血が出ていた。
私の脳裏に血の付いた薙ぎ刀が浮かび上がる。――あの時、衝撃弾を爆発させたとき、コマンダー・プルートは薙ぎ刀で私の腹部を……!
深く斬られた腹部を抑えながら、私もまた血の広がる王宮の床に倒れ込んだ――
◆◇◆
【ハーピー王宮 上層階】
私の投げた剣が、バトル=アサルトのツイン・レーザー砲に刺さる。レーザーを飛ばそうとしたツイン・レーザー砲が内部で爆発を起こし、バトル=アサルトのバランスが崩れる。
私の反撃と共に、コマンダー・ウラヌスが右拳に衝撃波を纏い、バトル=アサルトの腹部に拳を叩き込む。
「ぁぐっ!」
ただでさえ弱っている身体。コマンダー・ウラヌスは口から血を吐く。身体に衝撃波やラグナロク魔法を纏うのは、実は大きな負担になる。
コマンダー・ウラヌスに殴られたバトル=アサルトは、衝撃波の威力も手伝って、後ろへとすっ飛んでいく。女王の間の扉を砕き壊し、室内で機能を完全に停止させる。
私たちはコマンダー・ウラヌスやコマンダー・サターンと一緒に女王の間へと雪崩れ込む。
「…………!? バトル=アサルトっ!?」
護衛騎バトル=アサルトの敗北に驚いたコマンダー・ヴィーナスは衝撃弾で女王の間の窓ガラスを割り壊す。そして、背中に背負った小型ジェット機を使い、外へと飛び出す。――逃げる気だ!
私が追おうとすると、コマンダー・サターンが手で止める。彼女は持っていたライフルで遠のきつつあるコマンダー・ヴィーナスに狙いを定め、あっという間に発砲する。
ライフルの弾丸は、正確にコマンダー・ヴィーナスの小型ジェット機を撃ち壊した。彼女の身体は戦闘の終わりつつあった市街地へと消えていった――
◆◇◆
私は剣を杖代わりにし、その場から立ち上がる。傷に気が付かず、ラグナロク魔法を使ったのは迂闊だった。だが、斬られたところが腹部で幸いした。これが胸なら、傷は心臓に達していただろう。
「……まだ死ねないな」
私は剣を鞘に戻し、廊下をゆっくりと歩いていく。
まだ死ねない。あの黒い夢を倒すまでは。
パトフォー。黒い夢の根源。
それを倒すまでは、私はまだ死ぬワケにはいかない――
<<登場人物>>
◆コマンダー・ウラヌス
◇ネオ・連合政府の中将。
◇コマンダー・マーキュリーと共にネオ・パスリュー本部を奪回しようとしたが失敗。コマンダー・ヴィーナスに拷問された。
◇フィルドのクローン。
◆コマンダー・サターン
◇ネオ・連合政府の中将。
◇ライフルを武器にしている。
◇フィルドのクローン。
◆コマンダー・ヴィーナス【死亡】
◇ネオ・連合政府の中将。
◇九騎では最も弱いが、本人はコマンダー・プルートに次ぐ強さを有していると信じている。
◇フィルドのクローン。
◆コマンダー・プルート【死亡】
◇ネオ・連合政府の中将(筆頭)。
◇薙ぎ刀を武器にする九騎最強のクローン中将で、その実力はネオ・連合政府の大将クラス。
◇フィルドのクローン。




