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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第十幕
501/506

第8章 対象感知の方法



 竜骨の内部 『カティサ』


 カティサは背後で言葉を交わす二人をうかがう。


 主従に近い関係だと聞いたが、彼等の事は仲の良い間柄だと思った。


 それに人が良いのも分かる。


 こうして接してみると、害意や敵意のようなものはまるで感じられなかった。


 船内にとどめおく事になっても安心してよいはずだ。


 しかし、カティサの仲間である二人……太陽やローズはどう思うだろうか。


 あの二人は、警戒心が強いため抵抗感がわくのではないだろうか。


 いいや、きっとそれはおそらく、もう抱いている感情だ。


 ローズがここに来た事は確定している。

 彼女は薔薇の匂いのする香水を、いつも持ち歩いているのだ。

 それは、彼女がここに来た証拠として見逃す事の出来ない点だろう。


 カティサの予想通り、別の世界から来た姫乃達を警戒しているようだ。

 太陽は分からないが、外部からの侵入者を警戒している彼が何も知らない可能性は低い。


 だから、ここを出たら、二人と話をしなければならないなとカティサは思った。


「……?」


 そんな風に考え事をする自分の意識に、何かが接近してくるのを感知した





『姫乃』


 特別な事。


 かわらず道が続いている。


 だから、何かしらの、異変が起きる前触れはなかった。

 しかし異変はあったらしく、それが何かしらの行動をとるの前にカティサが動いていた。


 彼女は洞窟の壁に向かってカマイタチを放った。

 一体何にむけて?

 と思っていると、直後にその理由が判明。


 その壁に穴をあけて、巨大な青色のミミズが出てこようとしていたからだ。


 しかし、カティサが先制をとった事が有利に働いたらしく、頭部(?)に傷をつけたミミズは何もせずに退いていった。


 カティサと出会ってからずっとだが、姫乃達が何かをする暇もない。


「驚かせてしまってもうしわけありません」

「い、いえ。今の、出てくる前に気が付いたんですよね」


 こちらを向いて謝罪をするカティサに姫乃は気になっていた事を尋ねる。


 すると、カティサは「ええ」と頷きながら理由を説明。


「常に魔法を使っているためでしょう。空気の流れをほんの少しあやつって、細かな流れを感知できるようにしています。さきほどあの壁のあたりが震えたので、それで」

「そんな事が、できるんですか」


 大した事ではありませんが、と小さくつぶやくカティサだが、姫乃達にとっては大きな事だった。


「その魔法、どうやってやるのか教えてもらってもいいですか」

「必要なのですか?」

「……はい、ちょっと前に色々あって戦いの経験が足りないなと思って」

「そうなのですか」


 カティサは少し思案した後、こちらの表情をしっかりと見つめた。


「戦う事に迷っているわけではなさそうですね。となると心理的な原因ではなく、技術的な問題、でしょうか。過去のトラウマなどから、感知系の魔法が使えなくなる例を聞いた事があるのですが、そういうわけではなさそうです」

「えっと」


 なにやら、こちらの分析が始まっているようだ。

 とくに間違っているわけではないので、余計な口は挟まないでおく。


「相手に対する容赦がある、というわけではない。ならばローズさんに鍛えてもらうのが理想でしょうか。レミィさんも適していると思いますが」


 新しく人物名らしき名前が出てきたので、姫乃は聞き返す。


「ローズさん、ですか?」

「ええ、私の友人です、花の髪飾りをした女性で、性格は少しきつく感じられるかもしれませんが、良い人ですよ」

「そうですか」


 カティサが言うのならば、本当に良い人なのだろう。

 うまく言えないが、人を見る目に関してはしっかりしているように感じられる。


 そんなこちらの話を聞いてか、ディークが少しだけ瞳をかがやかせていた。


「鍛えてもらう事ができるっていうなら、俺もお願いしていいですか。俺、別の世界の修行ってどんなのか興味あります」


 彼はひょっとしてそういうのが好きなのだろうか。

 その言葉を聞いたカティサは苦笑して、頷く。


「同じ人間ですから、とくに珍しい事ではないと思いますが。意欲が高いという事なら私からお願いしておきましょう」

「よっしゃ」


 穏やかに微笑むカティサは、そのままの様子で足元にカマイタチ。

 すると、足元の地面から出てこようとしたミミズ(先ほどの個体とは違う様だ)に傷ができて引っ込んでしまった。


 姫乃達は思わず無言になった。

 ディークなどは口をあけて固まっている。


「「……」」


 姫乃達は早急に元の世界に戻らなければならないのだが、短期間で彼女の様にはさすがに慣れそうにないなと思った。








 長い時間をかけて、洞窟を歩いた後、ようやく出口が見えてきた。


 光が差し込み、骨にあいた大きな隙間から日の光が漏れてくる。


「こちらが出口になります。ここを出たら少し休憩いたしましょう。この後は骨の表面を通って上を目指しますので」

「うえぇ、結構歩いた気がするけど、まだあるのか」


 朗らかに微笑むカティアについて、骨の内部から出ると、太陽の光がまぶしく感じられる。

 姫乃と同じく目を細めるディークが辟易したような様子で愚痴をこぼした。


 目線の先で適当な場所を見つけたカティサは、そこにどこからか取り出した敷物をしいていく。


 それだけでなく彼女は、空間のゆらぎのようなものに手を入れて、水筒やら小さな袋やらととりだしていった。


「どうぞ、こちらに。長い間動き続けていては疲れてしまいますので」

「あ、お邪魔します」

「お邪魔します」


 あの空間のゆらぎは、かまくらのようなものなのだろうか。

 あれもまだよく分かっていないが。


 目をまるくしつつも、敷物の上にお邪魔して、ふるまわれた物を口にしていく。


 冷たいお茶をのむと、体に染み渡るようだった。


「ぷはっ、うまっ。そういえば、体感時間的に言うと、もう朝……になるのか? こっちの時間は分かんないけど」

「そういえば夜、色々あってからこっちに来ちゃったから、眠ってないよね」


 シュナイデル城攻防戦の時も思い出す。

 あの時も、なれない夜更かしをして、翌朝に泥の様に眠ったのだったか。

 そう考えたら、眠気のようなものが押し寄せてきた。


 いくらなんでもここで眠るのはまずい。

 あわてて、目をこすった。


 それを見てか、カティサが小さな包みを差し出してきた。


「どうぞ、手作りの焼き菓子です。こんなものしか用意できませんが」

「いいえ、ありがとうございます」

「あっ、ありがとうございます!」


 空腹の方も自覚したら存在を主張してきそうだった。

 お中の虫が鳴るのははずかしいので、断らずに受け取った。


 包みを開けると、おいしそうな匂いが漂ってくる。

 お店の品と思えるような形の整ったクッキーがいくつか入っていた。


 星の形やハートの形など色々ある。

 その中で姫乃は、星の形のクッキーをつまんで口の中に入れた。

 ココア色だ。


 さくさくとした食感があって、その少しあと控えめな甘さが舌に届いた。


「うまっ、うまいなこれ。未利様のとこのお店くらい美味しい。すげー」

「うん、凄くおいしい。まるでプロの人が作ったみたい」


 だから、姫乃達は正直な感想をカティサに伝えた。

 すると、カティサは頬を染めて、照れ臭そうに視線を落とす。


「ありがとうございます、数少ない特技なので。褒めていただけると嬉しいですね」


 自らの敷物の上にのって、正座の姿勢をとる彼女は、自分の膝に視線を落としたまま言葉を続ける。


「あなた方を見ていると私の、友人の事を思い出します。彼女達も私のお菓子を口にして、こうしてほめてくださいましたから」


 それは本来なら良い事のはずなのに、カティサの口調は悲し気なものだった。


 過去系で語られることの意味を思って、姫乃はどういう言葉をかけていいのか分からなくなる。


「目を閉じると、今でも彼女達の様子が目に浮かぶようです。剣の話が好きな少女に、その少女の事を好いている少年、猫の様に気まぐれな少女、心穏やかで優しい少女、正義感の強い少年、それに警戒心が強い猛獣のような人、他にもたくさん」


 ただ一つ分かるのは、カティサがその人物達の事を大切に思っていると言う事だ。


「カティサさんはその人達の事がとても好きだったんですね」

「はい」


 姫乃の言葉に対する答えに、迷いはなかった。


「とても好きで、大切な人達でした。ですが……」


 カティサの瞳がうるみはじめた所で、自分が悲しい話をしている事に気が付いたのだろう。

 はっとした様子でこちらに頭を下げてくる。


「もうしわけありません、こんな話をされても迷惑ですね」

「そんな事、ないです」


 姫乃は首をふって、否定する。


「すくなくともカティサさんが友達を大切にしている人だって事がわかりましたし、私はそんなカティサさんの事をしって好きになりましたから」


 同意するようにディークに視線を向ければ、「俺もです」と大きくうなずきが帰って来た。


「ありがとうございます、お二人とも」


 目じりに浮かんだ小さな水の雫を指でぬぐった彼女は、にこりとこちらに微笑んだ。



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