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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第八幕 掴み取った明日へ(上)
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277 第8章 エンジェ・レイ遺跡防衛戦



 エンジェ・レイ遺跡 『ウーガナ』

 つい先日、コヨミ姫の救出のためにガーディアンとの戦闘を繰り広げた場所には、大勢の人間が身をよせあっていた。


そこにいるのは自力で避難するのが難しい病人や怪我人ばかりであり、自由に動けるのは彼等に付き添っている看護師や医師、そして彼等を守る為に配置された兵士達のみだ。


 意識のない者や、意思主張の出来ない者もいるのでそういう人間はこの状況をどう思っているのかよく分からない。

 が、大抵の人間は町の地下でひっそりと長い間存在してきた遺跡の内部に来た時は、不思議そうな様子をみせていた。


 中でもつい先日、領地の暗黒面を見たとかで被害妄想を強めていた小心者のあやしい玩具店の店長が、色々騒いだりもしていたが、それはとりあえずどうでもいい事だろう。


 ウーガナとしても、そんな空間がある事は初耳で、事前に話を聞かされていたとしても、目の前の奇怪な情景を受け入れがたかったりするのだから、ある程度は理解できる。地下にいるはずなのになぜか、空が見えるという不可思議な場所など他には知らない。


 その中で特に……。

 強制的につれてこられた事実を思い返し、もともとしかめていた表情を一層しかめた。


 元海賊の自分がこんな所にいるのは、おかしな事でしかないが、最近身をもって体験した理不尽な出来事は、常識で語って通るようなものではない。


 例によって例のごとく強制的にラルドやらイフィールやら、領主やらに言われて巻き込まれてしまったウーガナは、眉間に刻まれたシワをいっそう深くしながら、視線の先にある物を睨みつけた。


 広い草地にあぐらをかくようにして腰を落としているこちらは、同じく草地に横たえた武器の細部を見る。


 多様な機能をそなえた、あらゆる状況に対応する事を見越して、職人魂とかいう意味不明な要素を追加して作られたらしいその特注品だが、そんな凶器を挟む様にして左右に小さな兄弟達が座っていて、それぞれがそれぞれの指で思い思いの場所を指さしながら、喧しく喋っていた。


 ここ最近見慣れてきてしまった妹と兄が、交互に口を開き休みなく喋りかけてくる。


「で、こっちが新しく付け加えたパーツで、こっちは取り換えたパーツ」

「蒸気機関は便利だけど、長期利用できないから注意するんだぞ、分かったなウーガナ」

「うっせぇ、一気に説明すんじゃねぇ呼び捨てにすんじゃねぇ偉そうに喋んじゃねぇ、分かる様に説明しろや」

「ウーガナわがまま」

「これくらいちゃんと聞いてなくちゃだめだろー」


 繰り返される甲高い声に、耳を抑えたくなる。

 しかしそうやって、聞こえないふりをするには、重要な要素を含み過ぎているため、結局はため息を堪えながら額に青筋を浮かべるしかないのだった。


「うぜぇ、やかましい。いいから、俺の質問にだけ答えてろ」

「ウーガナ怒った」

「おーぼーのごんげ!」


 これで怒ったように見えてなかったら、そっちの方が困る。


 ともあれ、騒々しい解説を聞きながらも、武器の変更点などを頭に入れていく。


 時間を無駄に使うつもりはなかったが、地下にいるからかつい気を抜きがちになる。


 ここに集まった者達は、できるだけ不意の強襲にそなえて出入口から離れた所にいる。

 遮蔽物もない開けた草原の真ん中に寄り集まる様にしているのも大きいだろう。


 ともあれ、今の所は何か不穏な事が起きる気配はしなかったが、できることは全てこなしておくべきだ。


「殺気立ってる所を宥めてやりたいところだが……十中八九、仕掛けてくるだろうしね」


 こちらの思考を呼んだように男の言葉がかけられる。

 頭上から降って来た声の主は、涼しい顔をしながら、今までと変わらない表情だ。

 ラルドだろう。視線を向ける前に誰が喋ったのか分かるのが、苛立ちになる。


「はっ、無事に今日が終わるなんて夢にも思わねぇよ」


 むしろ何かが起こらなければおかしいとさえ思っている。

 脅威がこちらを害しに来るのは、ほぼ確実だ。


 城うんぬんや、憑魔うんぬんは知らないが、人間の率いている組織は、面子を大事にしている。

 ウーガナも朝起きた事はそれなりに把握している。

 あんなケンカを売るような真似をされて、何もしないでいるわけがない。


 そんな風に結論付けたのが自分一人でないから、大がかりな状況になって、こういう事になっているのだ。


 警戒を高めるべく、頭の中で脅威になりうる人間の情報をおもいだしていたところ、不意に言葉がかかって、考えを中断。


「結界の中には、人は転移してこられない」

「あん?」

「こちらが独自に得た情報だ。結界の外から中へは、魔法で移動してはこれないらしい」

「そうかよ。それがどうかしたか」


 もたらされた情報は、気休めにもならない。

 その言葉が本当にこちらを安心させるために吐かれたものではないと分かるから、なおさらだ。


 こちらの様子をじっと見つめるラルドの目は、ウーガナがどういった反応をとるか観察している様だった。


 それに乗ってやる義理も、付き合いもないが、無能をあえて演じるほど頭が回るわけでもない。

 小難しい会話をしながら腹のさぐりあいなどは、もっとも苦手な分野だ。


「初めから中にいりゃあ、外も中も関係ねぇよ。そんな事も見越せねぇような奴、とっくにどっかの領主か組織に潰されてんだろ」

「それもそうだろうね」


 漆黒の刃とやらは、そんなに簡単な組織ではない。

 どこかの路地裏でたむろっている様な小悪党と同レベルで語れるような存在だったら、ここまで誰も彼もが手こずらされてはいないだろう。


 ウーガナ個人や、こちらの近辺をうろちょろしている兄弟達にも、因縁や繋がりはあるが、この町には他にも様々な餌があるようだから。

 その辺りは、今に至るまでに改めてラルド辺りが勝手に喋ってきた事だが……。


 遺跡の防衛に、協力(強制的にだが)する際に……。

 聖堂教と漆黒の刃の繋がりの関係性が疑われていることから、可能な限り生け捕りにしてくれても言われている。

 情報が欲しいという事なのだろう。


「ケンカになったら、相手を気遣ってる余裕なんてねぇ。()った後で文句言うんじゃねぇよ」

「そこは心配してないさ。もしろ自分の方が斬り殺してしまわないか心配だからね」

「おい」


 それは、協力してやってる(同意した覚えはないが)人間の前で、言うセリフじゃない。

 つまり何か、ウーガナを制止の当てにしてるのだろうか、これは。


「自分の始末くらい自分でつけろや」

「面目ない」


 ラルドは肩をすくませるのみだ。

 そういう理由があって、そうなのかは知らないし、進んで知りたいとも思わないが、肝心な所で何も言わないの所が人の悪さを騙っている。

 そもそも……。


 ラルドが嫌いな人間(ウーガナ)にどうしてこうも構ってくるのかも、理解しがたい。

 イフィールがこちらに過剰な期待を寄せたり、身の覚えのない恩を押し付けて来たりするのに、何か関係があるのかとも思うが、生憎心当たりがまるでない。


 このままずっと、このとんちんかんな連中に悩まされるのかもしれないかと思うと、原因を知っておいた方がいいのではないかと思いもするが、そうすると逃げ出せないくらいの底なし沼に、自分からはまって行きそうで嫌な気分だ。


 そう、思っていたところで、ずっと放置されていた兄弟達が不機嫌になっているのが見えたが、次の開設を聞くのは当分後になりそうだった。


 なぜなら、来たからだ。


 ウーガナはその場から立ち上がり、遺跡の出入り口に視線を向けた。

 そこにはロングミストの町長であった、男性クルスと……いくつもの人影。


 表からは出てこれない人間だと思っていたので、もう少し地味な登場をしてくるかと思ったが、意外にも真っ向からご登場なさったようだ。

 

「来やがったな」


 姿を隠す意味なんてそもそもなかったのだろう。

 ここにいる人間達を全滅させれば、隠れて行動する意味もなくなるのだから。


 この遺跡内なら、開けた町中を逃げ回られる心配も、戦闘音が他の場所にひびくような可能性は少ない。


 そういう意味で言えば、守りやすい場所は、相手にとって戦いやすい場所になるのだから。



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