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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第七幕 果て知らぬ波紋
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234 第1章 夜も眠らない



 中央心木学校に転校してきたばかりの結締姫乃ゆいしめひめのは、ある日唐突に……魔法の存在する異世界マギクスへと召喚されてしまう。


 コーティー女王の治める西領の統治領都エルケにて一人で目覚めた姫乃は、そこで、ルミナリアという少女に助けてもらい、同じ学校に通うクラスメイト、方城未利ほうじょうみり希歳きとせなあ、勇気啓区ゆうきけいくと再会。彼女らの保護者を務める事になった調合士セルスティーの手伝いをしながら、異世界での日々を過ごすことになる。


 それからほどなくして姫乃達は、セルスティーの手伝いで町を出た。世界が終わりゆこうとする時期……終止刻エンドラインに対抗する為に、己にできる事をそれぞれ探す。そう決めて。

 しかし、湧水の塔でみまわれた不測の事態によって、姫乃達はセルスティーとはぐれてしまい、見知らぬ場所に転移。


 東の地へ移動してしまった姫乃達は、頼れる人間が存在しない中でどうにか元の場所へ戻ろうと行動。シュナイデル城の兵士セルスティーとエアロ等に出会う。彼らに身分を打ち明けた姫乃達は、先行していたロングミストの避難組にせまる危機を打破した後、行動を共にする。


 そんななりゆきがあった後、船を使い、中央大陸にあるシュナイデル城へと到着した姫乃達は、自分達が異世界の人間だという事を東領の統治領主であるコヨミにうちあけ、彼女の保護下に入る事に。


 その後氷裏や明星の真光(イブニング・ライト)に捕らえられた仲間の救出をこなした姫乃達は、目前に差し迫ったシュナイデル城への襲撃をなんとかすべく、奔走しているところだった。







 エンジェ・レイ遺跡 

 

 シュナイデルの町の地下。

 姫乃達が、地中にある遺跡を移動していると、先ほど合流を果たしたエアロが話しかけてきた。


「こんなタイミングでなんですが……。では、改めまして……特務隊への臨時入隊おめでとうございます」

「うん。エアロもおめでとう。改めて言われてもちょっとまだ信じられないな」


 祝いの言葉を贈ってきたエアロに、姫乃は控えめな表情で苦笑。

 数時間前、先程シュナイデル城の広間にて簡易的な式が行われたのだが、そこで姫乃達は仮の身分として特務隊へ入隊する事になったのだ。


 城の防衛戦で重要戦力として数えられる事となった現状、何の身分もないままでは支障があるだろうと見越して、今回の授与式が行われた次第だ。


 式自体は非常に簡素で、半時もかからないものだったが、厳かな雰囲気の中とりおこなわれた行事には、かなり緊張した。


 それで、現在はその式の一時間後くらい。

 

「エアロも臨時的に特務隊入りを果たしたんだから、凄いと思うけどな」

「それほどまででもないですよ。思い上がるわけではないですが、私は元から兵士でしたし」


 今の状況は、一足早く式を終えて、他での作業を終えたエアロと合流したところだった。


 この遺跡に来たのは、こなすべき事があるからだ。


 だが……。


「ちょっと忙しいよね。こうして動いてるとそうでもないけど、じっとしてると眠くなっちゃうな」

「そうですね、疲れていると尚更です」


 そう姫乃が眠気の存在を伝えれば、エアロも同意の言葉を返してくる。


 時刻は夜も更けてきた頃なのだが、地下にいるので暗さは分からない。


 健康を考えればそろそろ眠らなければならない時間だろうが、後に控えている大騒動を考えると悠長に過ごしているわけにもいかないので、困りものだ。


「エアロも大変だったね。イフィールさんと一緒に遺跡を見回ってて忙しくなかった?」

「住み着いた害獣達の数が予想以上に多くて、手間取りましたよ」


 彼女の方は、式が終わった後にイフィールと共に先に遺跡へと来ていて、今話した通りに害獣退治をしていたらしい。


 理由は、病人達の避難場所にする為だ。

 町の地下にあるこの遺跡は、今まで秘匿されてきた存在であるがかなり頑丈に作られている。


 何かあった場合に自力で逃げられない人達を、襲撃がある前に前もってこの地下に搬送または移動してもらおうという事だった。


 狙いは城であるという事は分かっているが、何かが起きて被害が飛び火しかねないし、敵が律儀に自分達だけを狙いにくるとは限らない。

 なので、念には念を入れて、避難場所の掃討作業が行われているのだった。

 

「隊長の方はもう地上に出ているかと思います、もうじき患者さんの搬送作業が始まる頃合いですね。こちらの作業が終わったら、私もまたあちらに向かわなければなりません。大忙しで困ったものですよまったく」

「大丈夫? 私達、手伝った方がいいかな」


 疲労を滲ませる声で喋るエアロに心配になった姫乃は、そう申し出るのだが他ならぬ本人によって、やんわりと断られてしまう。


「慣れてますから。今の姫乃さん達の火力は貴重です。ちゃんと休んで体力を回復させるのも仕事ですよ」

「そっか、うん。分かった。出来る事があったら言ってね」

「ええ、そのつもりですから、ご心配なく」


 様子を見る限りは特に無理している風でもなく自然体で受け答えをしているように見えたので、本当に手助けは必要ないのだろう。


「手伝いって言えば、あの人達にさっき会ったけど、あんまり変わってなかったよねー」


 そこで話に交ざって来るのは、姫乃の仲間達だ。


 このメンバーの中で一番睡眠時間が少ないであろう啓区。


 眠気を感じさせない表情でいつもの笑顔で交わす話題は、少し前に城にやって来た世界の謎研究会という組織に所属する人達の事だ。


「なあ、とってもびっくりしたの。すっごく、驚いたの。また会えたねーってなって、ぴゃってなっちゃったの」


 話題の主はつい先程再会した、クロフトの住人であるドリンとイカロ達の事だ。

 彼らが一体どんな流れで、その組織に入る事になったのかはいまだに分からないのだが、姫乃達の為に駆けつけてきてくれたらしいので、久しぶりの再会ともあってとても嬉しかった。


 そう言えば、素直じゃないセリフで同意するのが未利だ。


「ほんとほんと、こんなとこに来るなんて物好きな連中だし。まあ、そのおかげで助かってるんだから、おおっぴらには言えないけどさ」


 ぴゃっと、驚いて飛び上がったなあちゃんがもう一度飛び上がらないようにしているのか、その頭に手を乗せながら言葉を話す。


「町が潰れたからどうなってるかと思ったけどね」


 その言葉に反応するのは、未利の手を頭に乗せている状態のなあだ。


「なあ、びっくりしてぴょんってちゃったの。でも、未利ちゃまはありがとうって思ってるから、そのままありがとうって言った方が良いと思うの」

「うぐっ。最近なあちゃんの成長が著しすぎて言葉が出てこない」


 彼女はそんな風に、力説。

 なあから言われたもっともな指摘に未利は呻くしかない様子だった。

 姫乃も少し同感だ。


 実際クロフトの住民達と話をして、何とかやってるというのを聞いた時は少し嬉しそうだったし、的外れな事ではないだろう。


 それに加えて、彼等を運んできたエルバーンの主の兄弟……ユミンとカミルの事についても、姫乃も色々とじっくり話がしたかったのだが、例によって多忙なのでおあずけだ。

 今はこちらを優先するしかない。


 ただ、彼等との話の中で出た話題の一つ……。


「ルミナリアが知らない間に指名手配されてて、解除されてたなんて……」


 分かった事がそんな事実だ。

 その驚きの内容を口にすれば、彼女の事を知っている未利達が、三者三様の反応をした。


「一体何したんだか」

「あー、さすがに僕もびっくりだよー」

「ふぇ?」


 呆れと苦笑と疑問。

 かなり指名手配の内容についてものすごく気になる所だったが、こらえるより他ないだろう。


「でも、聞いた話だと元気そうじゃん」

「あり余ってますって感じだったけどー」

「ルミナちゃまが元気でなあ嬉しいの」


 彼女は大人しくていられるような人間ではないと思っていたのだが、相変わらず予想を超えて色々動いているらしい。


 そんなやり取りを近くで見たエアロは、疑問をこぼすが……。


「たまに聞くけどルミナリアさんって一体どんな人なんですか……」

「分かりやすく言えば雪菜先生みたいな人かな」

「同感」

「だねー」

「そうなの、雪菜先生とルミナちゃまは似てるの!」

「……そうですか」


 という答えで、大体分かったようようだった。


 その話の当人の雪菜といえば、今へイカロと大魔導士達と共に、町の外周をウロウロしながらきたる襲撃への備えをしているところだ。


 彼らのやっている事に関しては、話が難しすぎてよく分からなかったが、町に被害が飛び火しないようにする為の、必要な作業だという事だけはあらかじめ聞いていた。






 そんな風に会話しながら、遺跡の中を進んで行くと、

 途中で、おそらく病院からの患者搬送の護衛しているらしいイフィール達と会って、挨拶をする事になった。


 彼女の方もかなり忙しいらしく、移動しつつも手に持った書類の様な物を確認しながら、周囲にいる人間の数人と打ち合わせをしているようだった


 彼女は軽く手を上げて挨拶しこちらとすれ違おうとするのだが、途中で何かに気が付いたのか立ち止まって声をかけて来た。


「ああ、済まない。すっかり忘れていた。例の場所に行くのなら、彼女を連れていってもらえないだろうか」

「彼女?」


 こちらの疑問を声に応じるイフィールが視線で示すのは、オレンジ色の髪の少女……ではなく機械人形だった。

 よくできた飾り物の様に整った顔をした、少女姿の人形。彼女は少し前に閉じ込めれたいた魔石から出されたもので、用心のためにその場に居合わせたイフィールを最初に見たきり、すっかりなついて(?)しまって、彼女にくっついて動く様になっていたのだ。


 普段なら大人しくさせておく所らしいのだが、曲がりなりにも今の彼女達に必要な能力を持っているので、猫の手も借りたい状況で仕方なく連れて歩いているらしい。


 彼女は石から出た時に、機会音声で自らの事をクレーディアを元にしてエマー・シュトレヒムに作られた機械人形だと告げていた。


 それ以外の事……プログラムされている事以外は話さないままなのだが、これから姫乃達の向かう場所を考えれば、状況の助けになる可能性は大きかった。


「何か現状の助けになる者が見つかれば幸いだ。この子の面倒を頼む」

「分かりました」


 イフィールがその機械人形に姫乃達についていくように言うと、その子はこちらの背後に付き従うようになった。


 そのまま忙しそうにしながら去っていくイフィールの姿を見送って、姫乃達の視線は新たなメンバーに集中。


「可愛い子だよね」


 最初に魔石から出てきた時も見たが、改めて眺めてみても、外見がとても整っていると思った。

 背は自分達より低めだが、愛らしい顔立ちをしているせいか、少し幼げにもみえる。

 装飾用につくられてた子供の人形だと言われても、違和感はないだろう。


「こんな手間暇かかってそうな人形だし、あえて不細工に作る奴はいないでしょ」

「でも、クレーディアさんと違って自意識みたいなのはないんだねー」

「なあ、機会にんぎょーさんとお友達さんになるの! ふぇ、でも機械にんぎょーさんは名前じゃないと思うの、なあ気づいたの。名前が呼べないととっても困るの」


 姫乃は新たに加わった人形のあれこれについて話すのだが、エアロだけが若干視点が違った様だ。


「わざわざ美『少女』の人形を作るなんてエマー・シュトレヒムはひょっとしてそういう……危ない人なのでしょうか。いいえ、きっとそうですよ。でなければ、あんな非道な人間が……そうですか、ふふふ、そうですか。ええ分かりましたとも。要するに全員危ないって事ですね。片っ端から片付けて差し上げようじゃありませんか。受けて立ちますよ。お掃除の時間です、ふふふふ……」


 なんかちょっと笑顔で危ない事を口走ってて、怖い。


「エアロ?」

「はっ、何でもないですよ。何でも。ええ」



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