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白いツバサ  作者: 透坂雨音
短編集 彼と彼女の探しもの
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EP8 幸運のアイテム(啓区、なあ)



 時計塔 近辺


 それでイフィールに事情を話して、しばらくその迷子の少年……ミケラの両親を共に探す事になったのだが。

 町を一巡りして時計塔の元へ戻って来たも、収穫はなしだった。


「うーん、見つからないねー」

「なあ、悲しいの。ぜんぜん見つからないの」


 迷子少年ことミケラがだいぶ元の位置から移動してしまった影響で、目当ての人物が見つからないでいた。


 イフィールが思案気な表情でに考え込む。


「ふむ、このまま町中を歩き続けるのはミケラの体力的にも辛いだろう。然るべきところに預けるべきだろうな」

「そうだよねー。もしかしたらご両親さんもそっちの方に行ってるかもしれないしー」


 啓区も行き違いになっている可能性を考えれば、そろそろ警吏の詰め所か何かに届けた方がいいと思ったが、それに反対するのはミルストとなあの二人だ。


「でも、なあ見つけるって約束したの」

「そうです。それに知らない人の所にいるのも、ミケラ君にとっては不安に思ってしまいますよ」


 それは確かに一理あるだろうが、だからといってこのまま捜索を続けていたところで、そう簡単に今の状況が好転するとは思えなかった。 

 どう説得しようかと頭を悩ませるうちにも、なあ達とミケラの会話は進んで行く。


「ぼく、ママと約束したんだ。誕生日に見学会に行くって」

「見学会さんなの? なあ知ってるの、見学会さんは何かを見学するところなの」

「うん。鉱石を掘る様子を見せてくれるんだって。良い子にしてたら連れてってくれるって、でもママの言いつけ破って別のお店のとこ見に行っちゃったから……、ぐすっ」


 発見した時の様に、再び泣きべそをかき始めるミケラ。

 こんな少年を、一人にするのは少々酷かもしれないが……。


「約束は大切なの。破っちゃいけないってなあ思うの。でも、それでママさんはミケラちゃまの事嫌いになったりしないと思うの」

「そうですよ。きっと会えないだけで、今も必死でミケラ君の事探してくれてますから」


 啓区は内心で困りながら、イフィールの方を見る。

 今は用事があって外に出ているが、彼女にも城でやらなければならない事は多いだろう。

 そう長くは、他の事に時間を割いてはいられないはずだ。


「困っちゃうよねー」

「ん?」

「いや、こっちの話かなー」


 何事か考え事をしていたらしいイフィールがこちらの言葉を聞きつけて、一瞬首を傾げるのだが、啓区は曖昧な態度で言葉を濁しておいた。


 さらにそこに、時間が過ぎゆく事を知らせる様に、時計の鐘が鳴り響く。

 一定時間ごとに鳴り響くらしい時計塔の音に耳を傾けていた調査隊の隊長イフィールは、判断を下したようだった。


「仕方がない。預けるしかないだろう。我々にはやらなければならないことがあるのだからな。その代わり、ミケラが不安を抱かないようにできるだけの工夫をしてやればいいのではないか?」


 そして、そう妥協案を口にする。


「そうなるよねー」


 可哀想だが、母親と再会するまでの辛抱だ。

 少しの間心細い思いをさせてしまうかもしれないが、時間は有限。

 いつまでも同じ問題につきあっているわけにもいかない。


「なあ、できない事もあるって知ってるの。未利ちゃまが『あれもこれもやろー、でもやっぱりできない!』……って言ってたから知ってるの。できないかもは、すごくしょんぼりなの」

「ちょっと意味が違うけど、まあそんな感じかなー。でも、ほらまだ僕達にできる事はあるんだし、頑張らなくっちゃねー」


 そういうわけなので、クエスト達成失敗だ。


「出来ない事に悲しんでたら、これから出来る事もできなくなっちゃうよー」

「それは駄目だって思うの。なあ、分かったの……」


 しょぼしょぼという効果音が尽きそうなくらいの様子で落ち込むなあを励まして、迷子少年を警吏の場所まで連れて行こうとするのだが……。


 そこに、向こうから見慣れた顔が歩いてくるのが見えた。


 未利と、エアロと、そしてその傍らには一人の女性がいる。


 例の用事は済ませて来たのか、彼女達はいくつかの荷物を手にしているようだった。

 お菓子屋さんの包みは、何となく察していた例の件の謝罪だろう。

 後は、見慣れない弓と、紙切れを入れる様な業務用らしい飾り気のない封筒を持っているが、それらはフォルト・アレイス所有の隠れ家を探索した収穫なのかもしれない。


 そんな風に観察していれば、彼女たちの方にいたエキストラらしい人物が反応を示した。

 女性は、啓区達の連れているミケラを見て「あっ」という顔。


「あ、もしかしてー。この流れってあれだよねー。ギリギリ達成だねー」

「?」


 首を傾げているミルストと、なあ。

 イフィールは「なるほど」と、勘を働かせたようだ。

 気付いていない二人の疑問を解消する様に、女性がミケラへと走り寄った。


「ミケラ、良かった。無事だったのね。こんな事ならレフリーさんのところに預けてくれれば良かったわ」

「ママだ! ママ!」


 未利達も未利達で、啓区達と同じような迷子の捜索のクエストをしていたらしい。

 ひょっとしたら、そのせいで両者が共に動き回ってすれ違い状態が続いたのかもしれないと思うが。

 一人にさせる前に、引きあわせる事が出来ただけ幸運だと思うべきだろう。


「ミケラ、大丈夫? 怪我してない? 不安で泣いてたりしなかった?」

「大丈夫だよ! お姉ちゃんたちがいてくれたから」


 本当はかなり泣いていたし、嘘だという事は見た目で分かるはずだが、母親が何も言わないのだから啓区達がいう事でもない。


「そう、偉いわね……」

「ママ、ごめんなさい。約束破っちゃって」

「いいのよ、気にしないで。こっちこそ、ごめんね。いなくなった事に気が付かなくて」


 母親にしがみついて、べそ掻きから嬉し泣きになっているミケロは、これで不安な時間を余計に過ごさなくてもよくなった。

 感動の対面を見ていると、横でなあとミルストが感慨深げになっている。


「良かったの。なあ、良かったって思うの」

「うう、良かったです。会えてよかったです。ミケラくん」


 二人共そろって、感情移入しやすいタイプの様だ。

 心模様が真っすぐと言えばいいのか、精神構造が近いといえばいいのか、似た者同士なのだろう。


 とりあえずは、母親サイドのイベントに関わっていただろう未利達に近づいてく。


「久しぶりー」

「……って言う程でもないでしょ」

「まあねー」

「……」


 すかさず突っ込みが入るが、それ以上話題が続かない。

 例の件を引きずっているようだった。

 だがそれは、こちらも同じ。


 普段はいつも通りなのだが。

 たまにふと、こうやってバグると困る。

 自分の知らない思い出が出来ていたかと思えば消えてしまったのだから、無理もないところなのだろうけど。

 他の誰もできていない貴重な経験をしていると思えば……。


「いや、気休めにならないよー」

「何いきなり?」

「こっちの話―」


 内心に一人突っ込みしていただけだ。


 なあ達にお礼を言っている母親の姿を見ながら、エアロが話しかけてくる。


「啓区さん達も探してたんですね。散歩ですか? 隊長に付いて?」

「まあねー。そんなとこー。ミケラ君の方はー、なあちゃんが見つけたから放っておく選択はなかったかなーって」

「それは……、断ると大変そうですね」

「ねー」


 これが姫乃や未利ならまだやりやすかったのだろうが、なあが相手となると、途端に難しくなるから不思議である。

 純粋な子供相手に、サンタクロースがいないと現実を突きつける並みにやりにくい。


「なあちゃんみたいな子って、心から何とかしてあげたいって思ってるから猶更だよねー」

「苦労してますね」

「そうかな。それは姫ちゃんに言ってあげてよー」


 いや、姫乃には言わない方がいいかもしれない。

 逆に気になってストレスにしそうだから。


「貴方も相当だと思ったから言ってるんですけどね」

 

 そんな風に会話をしてれば、ひとしきり感謝を伝え終わった母親に代わって、復活し終えたミケラが言葉をかけていた。


「お姉ちゃん、これ」

「ぴゃ?」


 少年が差し出したのは小さな花の栞だった。


 慎ましやかな小さいサイズの黄色い花で、淡い色合いのもの。


「すごく珍しい花なんだって。宝物だけど、あげる!」

「ぴゃ、宝物は簡単に人に上げちゃ駄目だって思うの!」

「大丈夫だよ。この宝物くれた人は、あげたいって思った人に渡してつないでくのがいいって、そう言ってたから」


 どうやら不幸の手紙の逆バージョンみたいなものらしかった。

 シュナイデには、そういうおまじないみたいなものがあるのかもしれない。


 それを聞いたなあは、安心したようにその栞を受け取った。


「そうなの? だったら、なあもらうの。大丈夫だから、ミケラちゃまに、ありがとうって言われるの」


 なあはもらった押し花をひとしきり眺めた後、大事そうに抱えてしまった。


「良かったねー、なあちゃん。珍しい蝶さんは見つけられなかったけど、珍しい花が見つけられたよー」

「ふぇ? そうだったの。なあちょうちょさん探したたんだって、思い出したの」


 どうやら迷子クエストに集中するあまり忘却していたらしい。なんともなあらしい事だった。

 ゲームで言えば、途中で別イベント発生で、派生分岐してという感じだろうか。


「何、アンタ等そんな事してたの?」

「まあねー、なあちゃんがどうしてもやりたいって言ってたからー」

「そちらは暇そうですね。ちゃんと訓練してるんですか?」

「さすがに心外かなー。してるよー。僕はともかくなあちゃんは特にー」


 色々と互いの状況を話し合いながらも、その後はミケロ達と別れていく。

 

 手を振る少年と、その手をひく母親の姿を見送る形で、一件が落ち着いた形になった。


「臨時バイトの目的は達成できたみたいだねー?」


 なので、啓区は未利の腕の中で大事そうに抱えられている大きめの袋をみて、精神的につついてみた。


「こいつにもバレてる! 何でさ、何でなのさ。アタシに隠し事はできないって事? そういうのは姫ちゃんの得意分野でしょ!?」

「今夜のご飯が楽しみだねー」

「そうだけど! やるけど! 見透かされると腹立つ!」


 いつもの光景だ。

 

 姫乃達が望んで、そして努力して掴み取った今日が目の前にある。

 その事実に頬が少し緩むような気がしたが、素から笑顔装備なので、対して見た目は変わらないだろう。




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