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白いツバサ  作者: 透坂雨音
短編集 彼と彼女の探しもの
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EP8 黄金の蝶(啓区、なあ)



 世界のどこかには、願いを叶える黄金の蝶がいるという。


 その蝶は黄金色のきらめきを纏ていて、見る者の目を奪う美しい姿をしているのだとか。


 そんな見た目をした金の蝶は、追い求める者の前に気まぐれに表れては願いを叶えていた。


 巨額の富。栄誉。想い人への愛。

 死者との再会や、過去をやり直すなどという高騰無形に思える事でも。

 どんなものであっても……。


 蝶に望む願いを告げれば、どんな夢幻であってもそれはたちまち現実のものとなるのだ。


 故に、蝶を追い求める者達の間では争いごとが絶えなかった。

 多くの血が流れ、屍が山となる程積み上げられるが、しかしそれでも人々は蝶を求める事を止めようとはしなかった。


 何度も何度も繰り返し諍いが起き、やがて……。


 そんな人々の姿に愛想をつかしたかのように、しだいにその黄金の蝶はぱったりと姿を見せなくなったのだった。






シュナイデル城 中庭

 何かイベントが発生したらしい。

 シュナイデル城の中庭にて修行をしている際、対面にいる少女を見ながら、啓区はそんな事を考えていた。


 なぜならそれは、以前お城を訪れたルーン・ウェルスタの「黄金の蝶」の話を聞いていたなあが、その事を啓区に教えた後に拳を空へ突き上げて、唐突に目標を宣言したからだ。


「だから、なあは頑張ってちょうちょさんを探したいって思ったの!」


 セリフはこんな具合に。


「へぇー。そうなんだねー」


 対面にいる啓区は変わらずいつもの笑顔で応答した。

 だが、その中には少々困惑の成分を含めてだ。


 行動動機がとても分かりやすいなあだが、今回の話は首を傾げざるをえない話だったからだ。


 なあは、他の者と比べてあまり富みや名声を求める方ではない。高みを目指すどころか現状で満足してそうな様子なのに、何か叶えたい願いでもあるのだろうか、と思うのだ。


 仲間が昏倒していた以前ならばともかく、今はとりたててなあが気にするような事は無かったはずだったのだが。


「すごい疑問だけどー、なあちゃんはどうしてその蝶を見つけたいのかなー?」


 なので、その疑問をぶつけてみれば、元気な声で返事が返って来た。


 拳をぐっと握って、真夏の太陽にも負けない眩しい笑顔で。


「なあ、ミツバのクローバーさんみたいにしたいの!」

「え、つまり見つけた蝶を本で挟んでしおりにー?」


 耳で聞いた内容をそのまま判断すればそうなる。

 わなわなしながら恐るべき推論を口にすれば違った。なあの意図した所では無かったようだ。


「良いこと起きますようにってするの!」

「あ、幸運のお守りみたいな感じかー」


 ようするにアレだろう。

 虹を掴めたら幸運がやってくるみたいな話を聞いた事がる。

 珍しい物を見つけられたから、運がある。だから、これからも良い事がきっとある、みたいな感じなのだ。

 いやもしかしたら、なあの事だから本当に良い事が起こると信じ込んでいるという可能性もあるかもしれない。むしろそちらの方が高い気がしてきた。


「まあ、僕で良かったらお手伝いするよー」


 特に断る理由もないし、と空いた時間に捜索の協力をする事を約束するのだが……。

 気になるのは、それを実行する場所。

 なあはどこで探すつもりなのだろうか。


「もしかして外に出たいとかご所望ー?」


 望みを叶えてやりたいのはやまやまであるが、その場合は少し難しくなる。

 城から出たい、となると現在の状況を考えれば、少々面倒な事になるのだ。


 例の一件で警戒しなければいけない人物が出てきたため、迂闊な外出は控える様にするというのが仲間内でも共通注意事項だったからだ。

 それでも、毎日飽きもせず外にせっせと出て言っている人間はいるが、まあそれは置いておこう。本当に大丈夫なのかと色々言いたいが置いておこう。


「えっと、とりあえずなの。なあは、中庭さんで頑張ろうって思ってるの。調査さんは、身の回りから地道にコツコツ進めていくのが基本だって、未利ちゃまが前に言ってたの!」

「なるほどー、確かにそうかもー。珍しく未利の言葉が、普通に役に立ったねー」


 意気込むなあは、いつもと全く変わらず元気で微笑ましい状態だ。


 しかし水を差すようで悪いが、その前にまずは互いの修行を区切りの良い所まで進めるべきだろう。


「でも、集中を途切れさせると効率が悪いから、探すのは後の楽しみにしよっかー」

「分かったの。一点突破の集中攻撃がだとーの鍵だってなあ知ってるの。頑張るの」

「あー、微妙に今のは違うかなー」


 なあの訓練は、動物を呼び出したりハリセンを出したりしての、空間を操る魔法の練習だ。

 訓練室ではできないので、こうして中庭にやってるところを啓区がつきあう形になったのだ。


「キーッ」「キキ―ッ!」「ウキッ」「にゃー」「みゃー」「ヒヒーン」「コケッ」


 目の前には、待機状態の動物達が様々。

 これらの生き物を、訓練室に呼ぶと掃除やら何やらが大変になってしまう。


「がんばるのっ、なあファイトするの!」

「わー、やる気だねー。その意気だよー」


 なあが頑張るのならば、その横にいる啓区もそれなりに頑張らなければならない。


「とりあえず今日はよく分かんない方は置いといてー、分かってる方を鍛えるとしますかー」


 特殊能力系はそもそもどうやって鍛えるか分からないのが難点なので、あまりすすめられない。


 とにかく伸ばす方法が分かっているとこから、とエアロやイフィールから少し教えてもらった剣や、アルガラたちに教えてもらった雷系の魔法とかを練習する事にした。、






 そんなこんなでしっかり特訓メニューを消化した後は、なあはさっそくあっちこっち動きながら蝶の行方を捜しにかかった。

 それに付きそう啓区もあっちこっちだ。


 本人には悪いが本気で探していない啓区は、なあに合わせて同じように動かなくていいのだろうが、たまに転びそうになるのをフォローをする為には近くにいなければならないからだった。


「まー、まずはそうだろうねー」


 時間が経ったからか、シュナイデル城の中庭には汗ばむ様な陽気が満ちている。

 吹き抜けになっているところと言えど、長時間いたらかなり体力がそがれるだろう。

 本格的に夏の季節になってきているのか、じりじりとした太陽光線が照りつけてくる。


「熱中症にならないように注意しなくちゃねー」

「すいぶんのほきゅーが大事なの」

「そうそうー」


 早め早めの対策を心掛けながら中庭をくまなく探していく。

 だが、目的の蝶は見つけられないでいた。


「なかなか見つからないの」

「珍しい蝶だからねー」


 この場に未利やエアロ辺りがいれば、そんな希少動物がありふれた身の回りで見つかるわけがないと突っ込みを入れていたのだが、生憎といないので誰もそんな事は言わなかった。


「むむむ、なの。なあ達の探し方が悪いの?」

「うーん、そういう問題でもないというかー」


 笑顔のままどう説明しようかと困ったような顔になる啓区。


 そこに通りかかったのは、見たことがある女性ライアと、どこかで視界の隅の方に見た事があるようでないようなよく分からない男だった。


「ふぇ? どこかで会った事がある気がするの」

「ライアさんは分かるんだけどねー」


 誰だっけと、なあとそろって遠くに歩いている人間を見ては首を傾げあう。


 とりあえず誰でも仲良くが特技のなあが手を挙げて、自らの存在をアピール。


「ぴゃ、お城に遊びに来たの? なあ、お話したいの」

「あら、久しぶりね。あの時は良いレースだったわ」


 声を駆ければ、先にライアが気づいて近づいてくる。

 こちらへの好感度は以前会った時から変わっていないようだ。


「なあもコケちゃんも楽しかったの」


 会うなり二人は、意気投合して楽しそうに会話に花を咲かせる。

 同列一位となれば、プロからしたら思う所がありそうなものなのだが、相手を見る限りはそういう負の感情を持っている様には見えなかった。


「でも、どうして貴方達がお城にいるの?」

「ぴゃ。不思議なの。なあ、何でお城になんでいるんだろって思ったの」


 質問に首を傾げるなあ。

 代わりに啓区が答える事に。


「色々と複雑な事情がありましてー」

「そう」


 ライアはそんな返答を受けて、取りあえず深くは聞かないようだった。


「ところで、アテナ室長を見かけなかったかしら」

「ふぇ? アテナさんなの? なあは見てないの」

「そう、おかしいわね。今日は報告の日だったはずだけど」


 そこに、今まで手持無沙汰だったらしい男が割り込んでくる。


「何か急な用事が入ったんじゃないですか。また明日、日を改めて来ましょうよ。その方が俺も得……いや、効率的ですし」


 迂闊な事に心の声を漏らしかけたアピスが、急いで修正するが、気が付いていないようだった。


「それじゃあ、そろそろ行くわ。ここは水はけが良いようだから、心配は要らないと思うけど。昨日は大雨が降ったから、気をつけて」

「はーいなの、分かったの!」


 コケやすいというなあの体質を見抜いたのか、単純に見た目から心配になっただけなのか、ライアはそんな風に親切な注意を残してから、男と共にその場を去って行った。


「そういえば、土砂降りだったねー。朝は中庭にもあちこち水たまり出来てたしー。日陰とかで池ポチャならぬ水たまりポチャしないようにもしなくちゃねー」

「ぴゃ」




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