嵐の夜の来訪者
『???』
――。
星の雨が降り注ぐ。
そこは遥か地上から遠く。
空の果て。
真空の海の中だった。
足元を見れば、透明なガラス板。
それはどこまで続いているか分からない。
境界は曖昧で、限りが見通せなかった。
手を差し出せば、無数の光屑がそこに落ちてくる。
淡いきらめきを纏ったそれは、わずかな温もりを残して、ゆっくりと宙にとけるように消え去っていった。
その場に立っていた『――』は、溶けた光屑の残滓、その一粒が消え去るまで眺めていた。
果ての方から声が聞こえる。
遠くの方。
手を伸ばしても決して届きはしない。
どこかの彼方から。
それはひどくなつかしく、
そしてひどく悲しくて、
胸の奥をじんわりと温めていくものであって、
とても儚ない声だった。
『もうすぐ会えますよ』
『――』の声が聞こえる。
それは待ち望んでやまなかったという、そんな感情を含めた声色。
「誰に?」
その声に彼女は応える。
「……」
けれど彼方から応じる声はなかった。
見つめるそこにあるのはただの、真空の闇だけで……。
その日、世界は確かに歪んで、その歪みの中から新しい可能性が出現した。
それは過去と未来が結ばれてできたもの。
望んだ明日を紡ぎ出す為の……儚き明日への可能性。
??? 『???』
荘厳な装飾があちこちになされる巨大な建物の中。
その内部の一室にいるのは、手紙を書き綴る赤毛の少女。
「できた」
彼女は、文字を綴ったそれに封をして、少し離すように距離をあけて眺める。
「不幸の手紙、……そっくりさんと、不意の事故、不幸な強盗さんに……、強欲な人売りさん達……」
くすくすと笑いながら。
その自らが書き綴った手紙を眺め続ける。
「空き巣もたまにあったかな、賭博場でのデスゲームなんかも。今回は何をしよう……。でも、そっちに気をとられていちゃ駄目だよね。別の方も進めなくちゃ。世界の種を芽吹かせて、彼も予定調和に戻す。あの人は面白かったけど、やっぱり消えてもらわないと」
笑みを浮かべた少女の表情は、幼い。
「ルーンは捕まっちゃったからもう使えないな。誰に届けてもらおう。私達の旅に貴方は連れてけないの、だからごめんね……なんて。私、ひどい事書いたなぁ。でも、しょうがないよね。目的の為だもの」
十代くらいの歳の事が窺えるその少女は、手紙を持ってどこかへと歩き出した。
「シュナイデルは今夜は嵐だったかな? ふふ……もう会えるよ、あの人に。楽しみに待っていてね」
そしてその少女イブ・フランカは……そう、ひどく楽しそうに呟いたのだった。