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白いツバサ  作者: 透坂雨音
短編集 彼と彼女の探しもの
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EP1 状況整理02



 話を再開するが……。

 ここからは互いに詳しく知らない事が多くなってくるだろう。


 アレイス邸にて、未利、コヨミの二名が監禁される事となってからの話。


 重ね重ね言うが、騒動の理由は、コヨミは予知能力がある浄化能力者として、ついでの方の未利は……たぶんおそらくクレーディアの扮装をしていた影響でフォルトに気に入られてだ。それで屋敷に監禁されることになった。


 幸いと言って良いのか分からないが、屋敷での生活は、想像したほど殺伐したものではなかった。


 重要人物であるコヨミに害が与えられないのは当然の事として、フォルトの庇護に入っている未利も普通に扱われていたからだ。

 弓の練習をしたり、文字の勉強をしたりはするくらいには。日常的だった。


 だが、とても信じられない事なのだが、その内容を姫乃達に言えば、それはまやかしの物だと言われる。大体の時間はフォルトに見せられた夢の中での事となって、未利が起きていたのは、最初の方と選達と面会する時、コヨミと会う時、そしてフォルトと共に墓参りをした付近の時間くらいだったのだ(そこら辺の記憶は一度は船の上で思い出したはずなのだが、エムが何かをしたのか再び記憶に呼び起こせなくなっている)。


 監禁され続けていたその間。

 アタシの中にある、姫乃達と携帯で連絡を取っていたという記憶は、アジスティアという人物によって、整合性を保たれていた。実際の会話は、彼女が代わりにアタシの思考通りの受け答えをしていたらしい。


 一方その頃。

 シュナイデル城にいる姫乃達の方も黙ってはいなかった。

 新たに人質とされた町の人々の方の問題をクリアする為に、行動を起こしていた。

 姫乃達は知恵を絞り準備を重ねて、町の住民達にかけられた魔法を一度に解除する為、無限の魔力を内砲するという四宝……紺碧の水晶を回収する作戦を立てていたのだ。


 それは、シュナイデルの町の地下にあるエンジェ・レイ遺跡の攻略に赴き、けた外れの強さを誇るガーディアンを撃破するというもの。


 入念な準備の元、地下遺跡を訪れた姫乃達は、見事これを果たす。

 時間制限の縛りがある中で本来以上の実力を発揮した姫乃達は、遺跡の奥へたどり着き無事四宝を回収する事が出来ていた。

 

 そして、とうとう運命の時。

 限界回廊で見た結末へ向かうかどうか……その分岐点にさしかかる。


 ルーンや兵士達の調査に基づいて、コヨミ達が捕らえられているであろう場所アレイス邸へ辿り着く姫乃達。

 陽動をこなし、漆黒の刃のロザリーと戦闘をこなすイフィール達の背後で、姫乃達は行動していた。


 途中で騙されている様子の選達との戦闘と説得をこなしつつも、未利やコヨミ達が監禁されているらしき部屋まで辿り着く事ができた。


 これまでの流れから考えれば、おそらく間に合っただろうタイミングだ。

 悲劇は未然に防がれたとそう考えても良いはずのタイミングであったが、事はそう簡単には収まらなかった。

 辿り着いたその部屋には、人影があるどころか、使われている形跡すらなかったのだ。


 それは、姫乃達がアレイス邸の本堤ではなく、構造が同じ建物の別邸にいることが原因だった。

 判明したのは、フォルトが残したであろうメッセージカードと、屋敷の構造をよく覚えておけという、奴から選達への指示のおかげ。


 だが、それが分かったところで離れた距離を縮める方法が分かるはずもない。

 おそらくフォルトはその距離を埋める時間も計算に入れて、何らかの対処を取るはずだったのだろうが、それが叶わなかっただろう事は、他でもない未利自身がよく分かっている。


 ともかくそういうわけだったので……。

 その時点での彼女達は遠くにある別邸を見て、足踏みせざるを得なかったのだ。


 同時刻に、姫乃等の到着を察したフォルトが未利を逃がす為の行動をとる。

 同じく他の部屋に監禁されているコヨミの方はルーンが逃がし、途中で囮を引き受けたフォルトを除いてそれぞれ三者は合流。屋敷にいる他の者達の目を誤魔化しながら、何事もなく脱出への道を進むのだが、それは偽りのものだった。結論から言えば、未利達は嵌められていたのだ。


 屋敷の外へ通じるだろう扉まで辿り着くのだがそこは外に通じる場所などではなかった。バルコニーへ通じる為の場所だったのだ。


 当然、進路を変更する暇もなくそこで未利達は追手に捕まってしまい、ルーンの裏切り遭い、追い詰められてしまう。


 声を聞かせた者を思った通りに動かす(その当時はただ動きを止めるだけの魔法だと思っていた)魔法を使った氷裏。無力化された未利はキリヤという人間に致命的な一手を下されるかもしれない窮地に陥った。


 だが、こうして無事に姫乃達と会話している事が示す通り、助けの手は間に合った。

 

 黒いツバサという、空中を移動する反則的な手段を得た姫乃が、本邸に駆けつけて、特務隊の服装を証に啖呵を切った。動揺する敵達に向かって盛大に火炎放射をぶちかまして大暴れ……とまではいかないが、炎の魔法で相手を脅して、仲間達が駆けつけてくるまで時間を持たせて、どうにか事なきを得たのだった。

 が、残念な事にそれだけやっても、人質を助ける事で手一杯で、結局は首謀者らの大半を取り逃がす事になってしまったのが痛い所だ。

 

 とにかく予想されていた悲劇は覆す事ができたのだ。

 一度、は。


 それで、みな安心してしまったのだろう。


 だから、後に続く悲劇を許してしまった。






 そこで、二つ目の区切りを話し終えた姫乃達と共に息をつく。

 一度にたくさん喋ったので、のどが渇いたし疲れたかもしれない。


 辛党を自任する身ではあるが、今は何か甘いものを食べたい気分だった。


「それなら……」


 と、そこで気を利かせたらしいコヨミが胸を張った。


「選君達に連絡を入れるついでに、厨房から何か甘いものでも持ってくるわ。何が良いかしらね。そうだ、今日は良いお勧めがあるって言ってたわね」


 そういって彼女は、機嫌良さげな様子で、鼻歌なんかを歌いながら部屋を出ていく。

 その後に、うっかり姫乃達と共に見送りかけたエアロが、はっとした様子で慌ててついて行った。


「あ、私も行きます手伝わせてください。というか、慣れすぎです私」


 彼女は早足になって、そうと知らない人間ならば誰も王女だとは思わなそうな小柄な少女の後ろ姿を、慌てて追いかけていくのだった。


「慣れすぎって……?」


 何が慣れてるんだと思いながらそう呟けば、姫乃が意味ありげな笑みを浮かべて説明してくれた。


「それは二人から聞いた方がいいかな。でも悪い事じゃないよ。未利のおかげ」

「えぇ? 何それ」

「そういう垣根の超え方とか、平等に気にかけられるところ、未利の良い所だと思うな」

「そういう話? いや、何の話かよく分かんないんだけど」


 色々と聞いてみるのだが、そればかりは「二人に聞いて」と言われるばかりで、人の良い姫乃でも詳しく教えてくれないようだった。


 そんなやりとりをしていれば何を思ったのか、なあが己の意思を表明。


「未利ちゃまは優しい子だって思うの。なあとも、ちゃんと一緒に遊んでくれるの!」

「いや、なあちゃんを無下にする奴なんてそうそういないでしょ。ていうか、そう変な事言わないでよ。なんかかゆいし……」


 見た目は微笑ましい空気が流れている様に見えるのだが、当人が何一つ理解できていないので、それがマイナス点だと思う。話の内容がまったく掴めない。


「そういえば……アイツ、フォルトの事で何か知ってるやついる? 結構とんでもない事件起こしたと思うし、身辺情報とか調べられてもおかしくないと思うけど」


 そんな空気の中、ふと思った事を問えば、温かみのあった部屋の空気が何故か少しだけ固まってしまった。


「え、何。アタシまた空気読めない事言ったとか?」

「ううん、そういうわけじゃないよ。そこは心配しなくても大丈夫、いつか伝えなくちゃいけない事だったし……」


 なあは相変わらずよく分かっていない様な表情だが、姫乃と啓区は沈痛な面持ちだった。


 フォルトについて分かった情報は何かあるのだろう。

 けれどそれはあまり喜べるようなものではなかったらしい。


「フォルトさん……ううん、古戸零種(ふるどれいしゅ)さんは私達と同じ世界の人だったの……」


 知らされた事は驚愕のものばかりだった。


 フォルトは未利の産みの親二人と知り合いだったらしい。

 未利の事も、生まれたばかりの時の事は知っていた様だ。

 会ったのは、生まれ日。祭りの時だけ。


 あと分かったのは進んで犯罪集団に協力していたわけではなかった事くらいか。

 

「なにそれ、アイツ……ほんとばか」


 知っている人間が見つかったと思ったら、ほぼ死亡確定だなどと笑えないにも程がある。


 悪事をしようと思っていたわけではないのは、素直に良かったと思えるが。


 いなくなってしまったら、聞きたい事も聞けないではないか。

 両親の事とか、彼らがどんな人間だったのか、フォルトがその二人とどんな風に知り合ったのかとか。


 とりあえず、それについては後で本をもらうか、解読したエアロかに聞くしかないだろう。



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