28 第27章 ひたすらに逞しく
統治領中央都シュナイデ カララギ動植物園 園内 『華花』
世界の東端に位置する、統治領都シュナイデという町。
その中にある動植物園には、無数の動物や植物が存在し、たくさんの人々の目を楽しませていた。
時刻は昼頃。
その動植物園にある無数の檻の中の一つの前、ハミングバードという名の七色の羽を持つ鳥を眺めながら華花は立っていた。
「檻の中は少し窮屈そうですね」
目の前にある織は人部屋ぶんくらいしかスペースが存在していない。
飛ぶための羽を持った動物にはさぞかし窮屈だろうと思ったのだが……。
どう見ても、七色ではなく空色にしか見えないの羽の鳥は華花の言葉に反応してか、首を少し傾げて見せた。元々は虹色で、その色が変わってしまったのだろうか。よく物語などではストレスのせいで髪の色が真っ白にかわってしまうなどと描写されているが、そのような事が起こったのだろうか。
この動物園の従業員でもなければ動物の生態に詳しい物でもないので、結局の所は分からないが。
「そうでもないですか? あなたはもしかしたらこの檻の中で生まれた子なんでしょうか……」
本来はここではない他の土地でしか芽吹かない植物や、生活できない動物たちなどを集めて市民達に観覧させるという目的の施設がこの動植物園らしい。
創設者の商人のケラース・エンディゴという男が、元はただの野原だった土地に手を加え、財力に物をいわせてたったの数ヶ月で作り上げたという話だ。(今は周囲に建物があったりしているが昔はそうではなく、この動植物園があった辺りはまだ何もなかったらしい)
それで、そのありあまる財力の証拠というか印というのか、園内のところどころに設置してある腰掛けイスや手すり、灯り台などは、動植物園というイメージからは外れていて、場違いなのではないかと思ってしまうような、華美な見た目になっていたりする。正直言って、混沌という言葉を表現してを当てはめた方がいいかもと思わせる程だ。
シュナイデの町には、このように周囲の景観にそぐわない奇妙なオブジェがいくつも存在している。
この町は、それなりに芸術と人々の生活が密接に関係しあっているらしいのだ。
だが人間達が気になる様な事はそんな事は檻の中の動物達にとってはおそらく些末な事なのだろう。ハミングバードはさえずる事もせずただぼんやりとした様子で、人間によって檻の中に運び込まれただろう木の上に、じっと留まっている。
「そうじゃないとしたら、やはり窮屈じゃないですか? こんな友達もいない見知らぬ所につれて来られてしまって」
独り言が多いな、と華花は思う。
自分達の今の状況と照らし合わせてしまっているのだろう。
いつも元気な姉やちょっと心配になるくらいそそっかしい妹、それにいつも自分達姉妹と一緒にいてくれる幼馴染の男の子、普段はそんな三人の賑やかさの中にいたから忘れられていた不安が出てきてしまったらしい。
……でも、だったらなおさら皆と合流できて良かったですよね。
何事も考え方次第だろう。
プラスとマイナスがあるなら、できるだけプラスの方で考えればいい。
『そーそー、わざわざ状況が困難だからって律儀に暗くなってやる義理なんてどこにも無いんだから』なんて、緑花のクラスの担任である雪菜先生も言っていたのだし。
そんな様子で時間を潰している内に、見慣れた人影がこっちに向かってきた。
「緑花、選。おつかれさま」
汗だくになって集合場所にやって来た二人を、手ぬぐいと飲み物をもって華花は迎えた。
「お手伝いの方は……、うまくいったみたいね」
「ええ、ばっちりね。次困ったときも呼んでくれるって言ってたわ」
「って言っても、もう猛獣の檻を内部から直すのはな……」
この間の隊商の馬車を護衛したときに知り合いになった、あの男性のツテで紹介された仕事だったのだが、中々危険な仕事だったらしい。
「手伝えなくてごめんなさい。結構大変だった?」
華花が問うと、そうでもないという感じで緑花は答え、選は心配をかけた事で負い目を感じたらしく説明を付け足した。
「んー、作業自体は別に何でもなかったわよね。ただちょっと、場所がデンジャラスなだけで」
「まあな、内部って言っても天井に張り付いてたし……ちゃんと命綱もあったわけだからな」
二人の表情を窺うが、特に嘘をついたりしている様ではない。
普通の人から見たらそれでも大変な部類に入ると思うのだが、そこは目の前の頼れる姉と幼馴染にとっては何でもなかったの範疇に収まってしまうらしい。
「華花こそ、午後から仕立て屋の手伝いがあるじゃない。そっちこそ大変じゃない?」
「大丈夫。まかされるのは破れとかほつれの修復だし、いつもやってる事だから」
「うう……、その節はお世話になってます」
「わ、悪い」
取っ組み合いやケンカに巻き込まれてや、選の家でもある獅子上道場で組み手をしては花華の裁縫の腕にお世話になっている二人は、そろって気まずそうにする。
というのも二人が原因でその技術は上達したといっても過言ではないからだ。
「そ、そうだ。水連、ちゃんとお留守番してるといいんだけど」
「お、おお……おとなしくしてろって言っておいたけど、抜け出してねーかな」
あらかさまに話題がそらされたが、花華は戻そうとはしなかった。
緑花も選も好きで服を傷ませてるわけではないだろうし。
「この間みたいに迷子になって、アムリさん達みたいな人の世話になってなきゃいいんだけど」
記憶に新しいこの間の出来事、親切な老夫妻に保護されて半泣きになっている水連の顔を思い出し三人とも表情を曇らせた。
好奇心が三兄弟の仲で特に強い水連は、困った事に道が覚えられないのに、先に進みたがるタイプだった。
収入がそこそこになって安宿をとれるようになった現在の状況だが、そのせいで連日留守番役しかもらえない水連には退屈な日々を強いる事になってしまったのも原因だろう。
「前みたいに手伝い先に連れてくってのもな……」
「それはそれで気になっちゃうのよね」
額をつき合わせて困り果てる三人をよそに、園内はいたって和やかだ。
珍しい動物にはしゃぐ子供の声。その様子を微笑ましそうに見守る両親。
可愛らしい花を前にして、なんだかいい感じの空気になっている恋人達。
「ま、とりあえず後で考えればいっか」
「そうだな。その時はその時だ」
その雰囲気に影響されてか、二人はそうそうに悩む事を取りやめた。




