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白いツバサ  作者: 透坂雨音
短編集 彼と彼女の探しもの
279/516

EP1 状況整理01




『+++』


 ――光が一つ瞬いた。


 真空の闇の中、周囲の全てを塗り潰すような暗闇の中。


 深い深い闇の中で、翡翠色の星が光を放ち、瞬き続ける。

 闇はどこまでも広がって。

 果てなく、世界の彼方まで。


 どこでもあり、どこにでもないその場所。

 光は、やがて果ての地にて一つの揺らぎを形作る。


 揺らぎは、徐々に大きくなり。

 波紋のとなり、果てまで広がっていった。


 凪いでいた湖面を揺らすそれは、とある思いだった。

 苦しみの果てで、安らぎを見出そうとする。

 嘆きの中で安息を得ようとする。

 そんな感情を含んだ思いで……。


 今いるそこではないどこか、誰かに向けて、その思いを伝えようとする声。


 存在するはずのない思いが、声を上げ、遠くで輝く星へと必死に何かを伝えようとしていた。


 その声は届く。


 告げられた思いは時を超え、世界を超えて、翡翠の星の元へ。


 受け止めたその思いを前にして、星は煌めきの光を増していく。

 思いが、確かな形へ……力へとなろうとしていた。





 シュナイデル城 『未利』


 それは、心域での戦いを終えた後すぐらしい。

 方城未利は、アタシは目覚めた。


 目が覚めてあんなにも煩くされたのは人生で初めてだった。


 まどろみの世界から意識を浮上させ、瞼を開けて眩しさの中に見慣れた顔を見つけた時、彼女達がどんな思いでいたのか、見ただけで分かってしまいそうだった。


 姫乃と、啓区と、なあ、そしてエアロとコヨミの顔がそこにはある。

 選達の姿は無いようだった。


 ごめん?

 ありがとう?


 色々言いたい事はあったのだが、叶わない。

 長期間発声していなかったせいか、のどがかすれて喋りにくかったから。


 目覚めの混乱が抜けた後は、仲間達から色々な事を聞かれた。

 

 まず最初に分かったのは、

 眠る前。意識が途切れる前からそれなりの時間が経ってしまった様だという事。


 体を動かそうとしたのだが、怠けていた反動で上手く動かせない。


 自分の体だから、その事はよく分かった。


 鈍い反応を返すばかりの体に嘆息すると、ふと思い出す事がある。

 そう言えば、屋敷でもそんな事があった。


 動けないで、どこにも行けないで、ずっと。

 それで夢の中に。


 いいや、違う。

 そうだっただろうか。

 あれは気のせいだった事……?


 暗闇の中にいた。

 そんな記憶があったような気がするが、あくまでも気がするだけで、詳しい事は何も思い出せなかった。


 確か屋敷の中では、弓の練習をしたりしてて、比較的自由に動き回れたはず。

 そう思うのだが


 そんな事を目の前にいる仲間達に向けて話せば、なあを除いた面々がそれぞれ「ん?」という顔で首を傾げた。


 そして、その中から代表して姫乃が疑問を言葉にしたのだった。


「え? 覚えてないの? 未利はフォルトさんの魔法で夢を見せられてたんだよ」


 彼女達の話す情報は心域で得たもので、彼女達は後夜祭最後の記憶を見てその事実を知ったのだと言った。


 付け加える様に伝えられたのは、フォルトの最後の行動、言葉など。


「アイツ見つかってないの?」

「それは……、うん」

「……ばっかじゃないの」


 フォルトは、沈みゆく船から海の中に身を投じたという話で、行方不明のままだという。

 未だ発見されていないという状況から見て、おそらく死亡していると考えるのが妥当だろう。


「死んだら、何にもなんないのに……」


 そこで終わり、それで終わりだ。


 確かにフォルトは悪い事をしたのかもしれない。

 けれど、それは命を懸けて償わなければいけない事だったのだろうか。


 それともフォルトがしたのは、償いではなくただ現実から逃げただけなのか。

 後者だとしたら、タチが悪い。

 残された人間がどう思うか、まるで考えていないのだから。


 他にも色々話したのだが、心域とやらの場所の事はほぼ未利は覚えてはいなかった。

 覚えているのは、きっと一番大事なものだけだ。

 自分の名前と、確かに愛されていたという事実。産みの親との別れの記憶だけ。


「あ、ごめん話遮っちゃって。とにかく続き聞かせて」


 とりあえず、まだ話が途中だった事を思い出し、自分が眠っていた間に起きた事を聞き出していく。


 色々あっただろうと想像していたが、本当に様々な事が起こっていたらしい。


 聞いているだけで、よく今この場面で全員顔を合わせられたなと思うくらいの量だ。


 思い返すにあたって話がややこしくなってきたので、事件が起こる前までさかのぼって情報を整理する事にした。


 まず初めに話すのは、一番最初に不穏の気配を掴んだ時の事。

 






 事の始まりは、シュナイデル城に着いて数日が経った時だ。


 いなくなったなあを探しに限界回廊へ入った時の事。


 限界回廊は、常識がまるで通じない不可思議空間だ。

 なあを見つけるべくそんな場所にやってきたそれぞれ……未利、姫乃、啓区、当人のなあはそこで奇妙な体験をする事になる。


 取りあえずまず自分の話。

 記憶の中、過去の景色を再現した空間を見せられて後に、砂粒に遭遇した。

 そんな感じだ。


 そして、姫乃。

 過去のシュナイデル城、星詠み台にて、クレーディアという人物の最後を見る。後に魂だけになった状態(?)で、エンジェ・レイ遺跡でツバキと遭遇。


 次に啓区。

 異なる可能性。異なる未来の光景を見て、最悪の結末が起こりうる可能性に気づく。


 それらは……。

 アレイス邸、屋敷の部屋に辿り着き、意思を奪われた未利と対面するという未来の可能性。


 紺碧の水晶を得ずに屋敷へ向かって、屋敷にいたコヨミが人質を救おうと魔法を使い、魔法使用のリスクを未利が負う事になって倒れる可能性。


 そして最後に、推測になるがおそらくフォルトの日記を読んだ未利が、フォルト・アレイスを庇って倒れる可能性、……だ。


 後に、観察者を名乗るベルカに出会い、本来辿るはずだった流れとこの歴史が逸脱している事を伝えられる。


 最後になあ。

 曖昧な説明だが、幽霊らしき存在ハルカと出会ったらしい。その人物は、心域にてエム(アタシの本音)が助力を得ているらしい。


 彼女達三人、それぞれの限界回廊の出来事がそもそもの事の始まりだった。

 そこで、危機を察知した事が後々の行動に影響を与えていった(ちなみにそんな摩訶不思議空間に足を踏み入れる事になった原因のなあは、もちろんちゃんと無事だ。発見した)。


 そこから時間を飛ばしてその日の夜。


 状況が動いていくのはここからとなる。


 星詠み台にてコヨミを交えて啓区、姫乃が会話。

 シュナイデル城の危機と、方城未利の危機の可能性を共有し、対策に動き出す。


 結果。

 かねてから準備が行われていた水礼祭が開催してからは、エアロを護衛として未利につけて警戒に。


 後夜祭では不穏な事に自殺したらしいクレーディアの衣装が用意されていて、未利がまんまと着てしまうという一幕があった。(犯人は絶対氷裏に違いない)


 しかし、姫乃達の警戒の努力のかいなく、悲劇の結末へ向かって事態の引き金が引かれてしまう。

 アタシは、水礼祭の後夜祭にて、明星の真光イブニング・ライトという組織の者達にコヨミと共に拉致されてしまうのだ。


 彼等の目的はこうだ。

 彼らはコヨミ(コヨコ)を未来を知る事ができる特別な人間だと思い込み、浄化能力者だと勘違いをしていた。だからその為に、無能だと考える統治領主を引きずり降ろし、代わりにコヨコをその座に就かせようと画策していたのだ。


 言い方を変えれば、

 コヨミ(統治領主)=コヨコ(一市民を演じるコヨミ)だと気がつかなかったために起きた、間抜けな騒動ともいえる。


 だが、その騒動がつけた爪痕は馬鹿にできない。


 大いに混乱する市民達は、彼等のせいで魔法を仕掛けられてしまう。シュナイデル城の兵士達がコヨミ救出の為に動かないようにと、人質にされてしまっていたのだ。


 そうして、二人は彼等を支援するフォルト・アレイスの屋敷へ連れていかれ、監禁されてしまう(その前に色々と、町中を逃げ回ったりした一幕もあったが、漆黒の刃ロザリーの関与が分かっただけで、無駄に終わってしまった)。


 こうして、当初姫乃達が危惧していた悲劇の結末への材料は、思わぬ形で揃ってしまったのだった。


 予想しろというのは、無理であった事だろうし、そうなってしまった事は誰にも責められない。


 あの時、あの場所でそれぞれがあんな風に事態が動いていくなどとは、きっと誰も予想できていなかっただろうから。






 そこまで話して、ひと休憩。


 何とはなしにベッドの近くに置いてあるネコウのヌイグルミに気が付く。

 その傍に子ネコウが呑気な顔して眠ってる。

 ありふれた村にいそうなありふれた顔つきの、平凡そうな子ネコウが。

 とりあえず、それは後で聞こう。


 ネコウのヌイグルミは、祭りの時にフォルトが押し付けていったものだ。


 こんな玩具が誰かへの最後の贈り物になるなんて、奴はあの時考えられたのだろうか。


「まあ、そこまでは大体皆知ってる事か」


 聞いた話はおさらいの様な感じだったので、取り立てて質問するような事は無い。


 不思議に思う事も首を傾げる様な事も無いのだが、その代わりに言いたい事は山ほどあった。


 目の前に勢ぞろいするメンバーから、一人を……万年笑顔をチョイス。


「ちょっと……」

「あ、僕ー?」


 啓区を手招きして近くに来るように身振りで示す。


「アンタ、何でアタシに何も言わなかったの」

「あはは、だよねー」

「何で、何も言わなかったのさ。アンタ達だけで抱えて、アタシが今どれだけ悔しい思いしてると思ってんの」

「あー……ごめん」


 まず一番初めに言いたかった事は、危険について何も話されなかった事だ。


 能力的に劣っている事も認めるし、隠し事なども得意ではないという事も知っている。

 だが、それでも話してほしかったのだ。

 仲間外れになどしないでほしかった。


「アンタの考えそうな事は少しだけど分かる。アンタはいつだって、何か考えてて隠してるような感じで、それを誰にも見せないようにしてたし。それも、きっとそういうものだったんだなって事ぐらいは分かる。けど……、自分が関われない事がどれだけ悔しいことか分かってんの……!」

「ごめんね」

「ばか」


 ばか。あほ、まぬけ、ばか。ぶさいく……ではないか。


 目の前にいる人物の胸を一回叩いた。

 それで終わり。


 これ以上言ったって仕方ないし、絶対後でまたチクチクやるから今は良いのだ。


 ひとしきり心の中で罵ってから話題を変える事にした。




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