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白いツバサ  作者: 透坂雨音
短編集 夢が導く絆の証明
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アーク・ライズの冒険譚02



 鈴音達があやしげな連中から逃げこんだ先、そこはまったく予想だにしない場所だった。


「何か洞窟の先がおかしな事になってるぅっ!」 


 目の前には遥か彼方まで広がる美しい自然の光景。

 花畑や、森林などが広がっている。

 視線を遠くへと投げればそこには巨大な隔壁があり、人工物だと考えるにしても巨大すぎる……空の果てまで届きそうな壁が存在していた。


「い、異世界……っ!」


 そこは鈴音がいた世界とは全く別の世界だった。

 メタリカという高層建築物が立ち並び、空を飛ぶ鋼鉄の乗り物が存在する世界でもない。

 マギクスという、魔法の存在する文明の発達がメタリカほどではない世界でもない。

 まったく別の世界。

 心の旋律の力が超常の現象を発生させる、アーク・ライズという世界だった。


「あ、有栖がいない。何でだ……。姉ちゃん、見てないか」

「え、あっ。本当だ、どうしてだろう」


 異郷の地に放り込まれてすぐ、鈴音達はしばらく有栖の姿が見当たらない事で困惑するのだが、その内に一人の女性が現れて二人に手を差し伸べた。

 その人物の名前は、クレア。

 アーク・ライズの守り神とも言える存在だった。


 それから鈴音と雪高は、その世界で一番の権威者であるクレアの庇護下に入れてもらい、キャロンディール・フローレシアという女性と、オルタライズ・バンカーチェイスという男性に、その世界の事を色々と教えてもらう事となる。


 アーク・ライズは世界を失った世界だった。


 その世界に住まう者達は、燃え尽きる大地……業火と呼ばれる現象によって自分達が住まう地を失ってしまう。だが彼らは、無となってしまった空間に無理矢理「狭間(はざま)」という空間を作り出し、短くない時をそこで生活し続けていたのだった。


 空間を作り出しているのは守り神であるクレアであり、その作業は負担がかかる為に命を削る様な厳しい行為だった。

 アーク・ライズにはクレアの他に狭間を作り出せるものがいないので、住人たちは緩やかに滅びを待つのみであり、逃れようのない死を受け入れる空気が蔓延していた。


 キャロンディール(キャロン)とオルタライズ(オルタ)からの説明を受けた鈴音達は、そこで決断した。


 有栖を見つけ、元の世界へと変える方法が見つかるまでは、手伝える事が合ったら協力するという事を。


「ありがとう。アンタ達にそう言ってもらえると助かるわ。実は見慣れないよそ者の姿に敏感になっている人達もいるから」

「そういう奴等を安心させてやるためにも、進んで手伝って俺達を楽させてくれよな。当てにしてるぜ。ついでに、近所の商店の方も手伝ってくれると助かるんだが」

「ちょっと、オルタ。そう言ってさぼるつもりじゃないでしょうね! そうはいかないわよ」

「まさか。キャロンには俺がそんな風に見えるのかよ」

「見えるから言ってるんでしょう!」

「ひっでぇ」


 それからしばらくの間鈴音達は、キャロンとオルタのおかげで、鈴音達が想像したほどの不自由な生活を送らずに済んだ。


 だが、アーク・ライズの世界を滅ぼしたと言う業火の現象が進行していくにつれて、鈴音達は危険な状況に巻き込まれる事が多くなった。


 業火の現象は、人々の負の心を具現化した化け物が出現する事であり、狭間の世界であってもそれらは絶え間なく日常を浸食し続け、世界の全てを焼きつくさんとばかりに猛威をふるっていた。

 被害を食い止めるためにも、鈴音達は定期的にキャロンとオルタが所属する討伐すつための組織「勇む者達(ブレイブス)」に協力する事になる。


「戦わせてください。わ、私だってやれば出来るんだからっ」

「俺だって。こんなの……っ」


 状況の変化、世界の浸食が増えるに従い、危険に晒される事が多くなった鈴音達。

 そうなれば当然、命に危険が迫る場面も出てくる。


 ある時、いつもと同じように戦闘に出た鈴音達は、トラブルによって仲間達と分断され、見知らぬ場所へと迷い込む。

 そこは普段は立ち入る事の出来ない場所。

 そんな場所で鈴音達が見たのは、二人が探し続けていた少女。行方不明になっていた有栖の封印された姿だった。


「知られてしまったからには仕方がない。ここで死んでもらう」

「まさか、貴方達が有栖ちゃんをこんな所に閉じ込めていたんですか?」

「何だよ。何でこんな事を……」


 実は有栖は、クレアの代わりとしてこの世界にやってきた当初から隠されていた。狭間を維持する為の次の人間として。

 鈴音達はずっと、アーク・ライズの住人達によって騙されていたのだった。

 そして仲間であったキャロやデルタもそれに加担していて、鈴音達に疑惑を持たれない為に色々と世話をしていたと言う。


 仲間であった者達に追い詰められる鈴音達であったが、説得を試みてアーク・ライズの者達も迷っている事を突き止めた。


「きっと、こんな事誰も望んでないんだと思う。だったら皆が助かる様に何とかできないかな」

「それが一番だけど。そんな方法、見つかると思ってるのか」


 悩んだ鈴音はかねてから訪れていた心域で、マツリ達にその内容を相談。

 話の末に解決方法を得た後は、アーク・ライズの住人たちにこう提案するのだった。


「ファイナライズ:グランドパージ:チェインシード」


 それは、狭間の空間を切り離しエネルギーとする事で動力を得て、住民達を全て情報化するという方法だった。

 情報化された住民達はエネルギーとなり、心域内で冬眠状態となる。


 鈴音は彼等に約束した。


「信じててください。必ず皆が暮らせる様な、そんな場所を見つけて見せるから」


 そうして、全住民の情報化を終えた鈴音達は、最後にクレアの力を借りて元の世界へと帰還したのだった。







 お茶をすすったエムは、話終えた後の鈴音に向かってにこやかに言い放つ。


「なつかしくなってきたよー。鈴音が泣きついてきた時のー」

「あ、あううぅぅぅ、あの時は必死だったんですよぅ」

「ふーん。でも結論は出てたんでしょー? どうすれば良いのか分かってるのに、悩んだフリしてくるからだよー」

「だ、だってぇ……。嫌われてるのに助けようとするのって相当勇気がいるんですよ」

「まあ、確かにね。ごめん、ちょっと言い過ぎたかもー」


 テーブルに突っ伏したり、真っ赤になったり、情けない顔になったりと百面相に大忙しであった鈴音は最終的には、元の状態に戻ってお茶菓子の一つをかじった。


「この先ちゃんと見つけてあげられるのかな、皆の住める場所」

「さあ、それは鈴音の頑張り次第じゃないー?」

「うぅ、こういう時くらい優しい言葉をかけてくれたっていいじゃないですか」

「必要だったらねー。今日は愚痴を言いたいだけなんでしょ?」

「むぅぅ」


 心の底をみすかされたらしい鈴音がぐうの音も出ない。頬をむくれさせてお菓子をかじるしかできなくなった。

 その内、鈴音の皿の中身は空っぽになってしまう。

 対面に座るエムは、やれやれと言った調子で肩をすくめて自分の分のお菓子を相手に譲る。


「まあ、こっちも保管場所を引き受けたんだから、できる事だけ頑張るよ。危険な人達にうっかり住民達を吸い出されないように管理しとくから」

「ほんとに、ですか。アーク・ライズの皆の生命力があれば、このマギクスの世界の寿命が延びるってこの間、えーと……おもてうらさんが言ってたんですけど」

「おもてうらじゃなくて氷裏(ひょうり)だからねー。漢字からでも違うでしょ、それー。でも、……へぇー、見ないと思ったらそっちに。ふーん……」


 鈴音の言葉に一瞬、恨みがましい顔つきになったエムだが、一息ついて間をおいた。

 家の扉、おそらくその向こうの外の事を考えながら、言葉を紡いでいく。


「それ、おそらくこっちにも来るだろうね。もうそろそろ……。鈴音は当分ここには来ない方が良いかも。ミライが立ち直るのは間に合うかな……」

「エムさん?」

「そろそろ帰ったら? ……ってことー。雪高くんによろしくねー。あの子には、別の場所で色々お世話になったから」

「あ、はい」


 そう言って、雑談と愚痴まじりのお茶会が終わった後、鈴音が帰るのを見送ったエムはため息をついた。


「やだなー。これから忙しくなりそう。姫ちゃん達の為に、コース考えとかなくちゃー」



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