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白いツバサ  作者: 透坂雨音
短編集 夢が導く絆の証明
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メイドになった夢

姫乃が見た夢の話。



 小さな町の、隅の方。

 そこにひっそりと立っている大きなお屋敷には、大層代わった貴族の少女が住んでいます。


 可愛らしい容姿の、十歳くらいの年齢の金髪の少女。

 しかしその少女「ルミナリア」はそれはそれはとても好奇心旺盛で、長い間じっとしている事がなかなか出来ない少女でした。


 ベッドの上の寝起きそのままといった様子の少女は、寝間着のままで部屋に尋ねて来た少女に話しかけます。


「あーあ、退屈だわ。何か面白い事でも起きないかしら」


 そんな言葉をかけられた人物は、貴族の少女と同じ年頃の、赤い髪の少女です。

 屋敷で働く一人……ヒメノという使用人でした。


「もう、またルミナリアは、そんな事言って。今日はお勉強をする日だから、外に出て言っちゃ駄目だよ」


 ヒメノにとってルミナリアは、雇用主の娘であり、礼儀を尽くさなければならない相手です。

 ですが、敬われる立場であるルミナリアが「固っ苦しいお喋りは嫌なの」と言うので、二人だけでいる時だけヒメノは普通の友人の様にルミナリアに話しかけるのです。


「えー。私、お勉強なんて行儀の良い事あんまり好きじゃないのよね。外で遊んでる方が性にあってるはずよ」

「ルミナリアって丁寧なのは喋り方だけだよね。お転婆って言うか。元気っていうか」

「生まれ持った性質というものね、きっと。私にお淑やかにしてろなんて、無理だわ」

「でも、開き直っても勉強はなくならないから。ちゃんと今日は机に座ってて、外にはいかないでほしいかな」


 二人は小さい頃から共に育ってきたので、互いに互いの事がよく分かっていました。

 友人よりも親しい関係で、慣れた風に会話をこなす二人は、毎朝の日課の身支度を整えたり整えられたりします。


 それでも、身支度が整い終わる頃にはルミナリアの頭もしっかりとしてきます。


「さーて、今日も楽しい一日にしましょう!」






 そうして身支度を整えた後は、朝ご飯の時間です。

 

 朝食のメニューはいつも卓に並んでいるメーメー鳥の卵がなくて、代わりに小さいサイズのムームー鳥の卵を使ったスクランブルエッグ。そして採れたてで新鮮なシャキシャキ野菜のキャベッチを使ったサラ。、切ったらめに染みて涙が止まらないオニオーンのスープです。


 命を頂いてしっかり栄養を補給したルミナリアは、恵みに感謝しそれからの午前の時間はお勉強に使います。


 勉強の時間は、お部屋の机に座って、家庭教師としてやって来たセルスティー先生から、色々な事を教えてもらう時間です。


「でも、集中しようとしても今日はいつものメーメー鳥の卵料理が食べられなくて、元気がそんなに出ないのよ」

「そう。それで本心はどうなのかしら」

「ぶっちゃけお勉強って行儀よくしてなきゃいけないから、とっても退屈だわ」


 けれど、ひとところにじっとしてられない性格であるルミナリアは。半時もしない内にそんな愚痴をこぼしだします。


 お勉強を教えるセルスティー先生は呆れた顔になってしまいました。


「まったく、いつも途中で集中をとぎれさせるのだから。貴方の悪い癖ね」

「はーあ、つまんないのー」

「つまらなくても面白くても時間は早く過ぎ去ったりしないわ。勉強に戻ってほしいのだけど」

「だってー」


 止まらない愚痴を聞かされ続けるセルスティーはややげんなりした面持ちで注意をします。

 セルスティーは頭脳明晰で冷静沈着な優秀な家庭教師ですが、怒ると少し怖くなります。


 それがルミナリアも分かっているので、気が乗らないままでも渋々勉強へと戻って行きました。


「魔石の種類と使用方法、適切な扱い方……。むぅ、これってこの前もやらなかったかしら」

「この前教えたのは基礎よ。これは応用。基礎がちゃんとできているのなら、悩む時間も少ないだろうし、かかる時間も少しですむわ。良かったわね、ルミナリア」

「それ、私がちゃんと勉強してないって分かって言ってますよね」

「ええ、だって嫌みだもの」

「うわー」


 ああ言えばこう言う、こう言えばああ言うを繰り返しながら、ルミナリアはそんな様子で午前中の数時間を使い勉強に励んでいきます。


 やがて定められた刻限がやって来て、ルミナリアは解放されました。


「じゃあ今日はここまでね。明日までに今回分の事を復習しておく様に」

「はーい」

「返事は、はいよ」

「はい……」


 セルスティーが部屋から出ていくのを見送ったルミナリアは力尽きたかのように、机に突っ伏します。


 よれよれのくたくた。

 着古された洋服の様になっていました。


「ルミナリア? 勉強終わったよね。入るよ?」


 そこに、使用人であるヒメノが入室してきます。

 それと共に、いつもの香りが部屋へ満ちます。

 ヒメノは「お勉強が終わった後に持ってくるもの」と決められているもの……良い香りにするお茶とお菓子をお盆に載せて持ってきていました。


 匂いに気が付いたルミナリアは、数瞬前まで枯れた植物だったのが嘘のように元気に飛び起きます。


 それは疲れた頭に糖分がしみこませるために、事前に頼んでいたものでした。


「さすがヒメちゃん! ナイスタイミング! そしてナイスセレクト! 私の好みを完璧に把握してるし、来る時間も完璧だわ!!」

「大げさだよ」


 ヒメノが持ってきたそれはルミナリアの好きなお茶と好きなお菓子その物でした。

 匂いで分かったルミナリアは、感激を隠さず表現。ヒメノに抱き着きます。


「わわ、こぼしちゃうよ。火傷しちゃったら、大変だからもう離れてって」

「あはは、ごめんなさーい」


 それからは、二人でのんびりお茶をして、お菓子を食べながらゆっくりとお昼の時間を過ごしていきました。


「ふふ、刺激的な時間も、強烈な出来事もないけど、こんなゆったりとした時間も中々良いわね」

「そうだね。何も変わった事はないし。危ない事とか起きない方が私は結構好きだな」

「むぅ、ヒメちゃんはもっと冒険心を持った方が良いと思うの」

「ルミナリアはもうちょっと落ち着いた方が良いと思うんだけどな」






 お昼を過ぎた後は、ルミナリアは屋敷を出て町へと向かいます。

 もちろんそのお共には、使用人であるヒメノをつけて。


「今日は何をして遊ぼ……過ごそうかしら」

「今更言い換えても聞こえちゃってるよ……。昨日は大変だったから、今日はのんびり過ごしても良いと思ううなぁ」

「ノンノン、人生は有限よヒメちゃん。限りある人生を最大限に楽しまなくちゃ損じゃない」

「うーん、ルミナリアはただ楽しみたいだけのように見えるんだけどな……」


 深い考えなどなさそう、とそう述べるヒメノですが、しかし本心から反対しているわけではなさそうでした。


 元気はつらつと言った様子で積極的に楽しそうな出来事を探し歩くルミナリア。

 その様子を横で見つめるヒメノも、もなんだかんだと言ってとても楽しそうでした。


「そういえば、この前はあんなに大きな蜂の巣を退治する事になって、大変だったよね」

「大変だったわね! でも楽しかったから良いじゃない」

「ルミナリアって大きくなって成長してもずっとこんな感じなのかな」

「あ、ヒメちゃんもしかして今呆れた!? 私呆れられた!?」


 二人はとても楽しげに会話をしながら、町のあちらこちらに立ち寄って面白い事がないか探していきます。

 そうして歩き回る事、小一時間。


 ルミナリア達はひょんな事から朝の食卓に、いつもと違う卵料理が出て来た原因を知る事になりました。


 町の中で、まんまるとした体のメーメー鳥がコケコケと元気に鳴きながら、走り回っていたからでした。


「えーとつまり……?」


 首を傾げるヒメノに代わって、全ての状況を察したルミナリアは一言。


「脱走しちゃったわけね」


 その後は当然の様に、ルミナリアの朝のお食事メニューを這えた犯人、脱走犯であるコケトリーを捕まえる事件に手助けする事になりました。


 あっちへこっちへ。

 行ったり来たり。


 体格に見合わず意外と足の素早い鶏との追いかけっけはとても大変です。


「こらー、待ちなさーい」

「そんな風に叫びながらじゃすぐに逃げちゃうよ」


 一生懸命に追いかけますが中々捕まえられません。


「あー、もうどうしよう」


 町中の住人達も協力して、鶏さん達を追い詰めていきますが。半日経っても全体の半分も捕まらない有様でした。


「このままじゃ埒が明かないわ。何かいい案ないかしら」


 このままの調子でとらえていくのはさすがに時間がかかりすぎると考えたルミナリアは、もっと効率のいい方法がないかと頭を悩ませます。


 そもそもの原因は、鶏牧場で鶏に飼育をしている人が、餌題を節約するために一段落低い物に変えたのが原因でした。

 ご飯が変わってストレスを貯めた鶏たちは、脱走してしまったというわけです。


「他の人達もうまくいってなさそうよね」


 今のペースで夜を迎えてしまえば、メーメー鳥捕獲作戦は、人間達の敗北で終わってしまいそうでした。


「うーん、このままじゃきっと皆の明日のご飯、違う卵料理になっちゃうね」

「それどころじゃないわ。野放しにしている鶏さん達が他の作物を食べて荒らしちゃうかもしれないのよ。そんな事になったら大変、何とか早いうちに捕まえちゃえれば良いんだけど」

「そうだ」


 ルミナリアと会話をしている最中に何かを思い付いた様子のヒメノは声を上げます。


「私達のご飯が大変なら、鶏達にご飯を用意してあげればいいんじゃないかな」

「??」


 言われた言葉の意味が分からなかったルミナリアは、首を傾げるのみです。

 なので、つまりどういう事なのか教えてほしいと言えば、ヒメノは快くその方法を話し始めました。


「ええとね……」


 グレードダウンした朝ごはんに、抗議をすべく集団脱走した鶏たちは、当然のごとく朝ごはんを食べていません。

 なので今までルミナリアたちは、畑や食べ物屋のお店の近くで多くの鶏達を捕まえてきました。

 だから、お腹を空かせているだろう鶏達を手っ取り早く捕まえるために、気前よくもっと良いご飯を置いてしまおうと、ヒメノはそう言ったのです。


「なる程。さすがヒメちゃん。餌で釣る作戦ね。分かったわ。さっそく用意しましょう」


 そうしてルミナリア達は、町中に散らばっていった鶏を集める為に、町の各所にとっても美味しい鶏の餌を置いて置く事にしました。







「ふぅー、今日はとっても疲れたわね。でも、頑張ったかいはあったわ」

「町の皆も「明日の朝の食卓は無事に守られた」って喜んでたね」

「鶏農家さん達もケチってないで、最初から美味しい餌を与えてあげれば良かったのよ」


 鶏全部を捕まえて、一日中町の中を駆け回ったルミナリアとヒメノは、鶏捕獲作戦を無事に終えて、屋敷へと帰って来ていました。


 体力を使ったので、もうくたくたのボロボロです。


 ベッドに倒れ込んだルミナリアはそのまま眠ってしまいそうな様子でした。


「ルミナリア、着替えてからにしなくちゃだめだよ」

「すぴー」


 もう、寝てました。


「もう。小さな子供じゃないんだから」


 そう言いつつも、ルミナリアが頑張った事をしっているので、しばらくはそっとしておこうとヒメノは思いました。


「明日もまた、一緒に楽しい事さがそうね」


 眠っているように、小声で姫乃はそう言って他の仕事をする為に部屋を後にしていきました。







 ……。

 ……。


「ふぁあ……、何だろう今日はいつにもましてよく眠れた気がするな。何だかいい夢を見た気がするけど、もしかしたらそのおかげかも」


「そういえば、ルミナリアは今頃何してるんだろう」


「最後に会ってからどれくらい経つのかな。早くまた会いたいな……。なんて、もしかしたら夢で会ってたりして。そんなわけないかな……」




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