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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第六幕 翡翠の星、輝く
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220 第22章 姉妹の出会い



 姫乃達は、エムが消えたと同時に出現した橋を渡っていく。


「綺麗なの、すっごく綺麗なの。お星さまがわーってたくさんなの」

「世界の姿と違って普通に素敵ですね。どうなってるんですか一体ここ……」


 浮遊大陸同士を繋ぐその橋は、周りの様相と違ったものだった。

 星屑の敷き詰められたガラスのような半透明な橋、金平糖みたいな形のそれらはわずかに輝きを放っていて、柔らかな光で足元を照らしている。


「そんな綺麗な橋だけどー、ちょっと視線をずらすと暗黒がー」

「啓区さん言わないでくださいよ。せっかく考えないようにしていたというのに」

「あはは、ごめんねー」


 だが、橋から足を踏み外せば深い闇の底にまっさかさま。

 視線を向けないようにしていたらしいエアロが啓区の言葉で、見てしまったらしく青い顔で抗議している。


 そんな風にしばらく歩いて二番目の浮遊大地へ。

 浮いているとはいえ土の大地に足を付けて、硬い地面の感触を足裏に感じれば少しほっとした。

 現実ではないのだろうが、足場が安定してないのはやっぱり不安だ。


「うーん、三番目の浮遊大陸に行くにはどうすればいいんだろう」

「とりあえず、向こうまで行けば橋がかかるんじゃないかなー」


 橋を出現させる方法がどうなっているかは分からないが、行かない事には始まらない。

 そんな風に決めて、さっそく端っこから大陸の中央へ歩いてくのだが、時間はそんなにかからなかった。せいぜい数分の距離だった。

 だが、完全には大陸の中央部へ近づく事はできない。

 なぜなら……。


「あれ、襲ってきたりしませんよね」

「どうだろうねー。ひゅんって飛んできて、掴まれちゃったりするかもよー」

「ひっ、怖い事言わないでくださいよ。想像しちゃったじゃないですか」

「エアロちゃまがふるふるしてるの。ネコウちゃまみたいなの。大丈夫なの?」


 闇のそこから無数に伸びてくる手が、姫乃達の頭上を飛び越えて中央付近の大地を押しつぶしていたからだ。その手の下には残骸があった。避けて通らなければならないだろう。


「あれは、家……なのかな」


 よく観察してみると。残骸はところどころ元の形が残っていて、屋根や窓の様な物が見える。


「この下敷きになってるのって……元々は家だったっぽいねー」

「ぴゃ、窓さんとかが壊れてるの」


 取りあえず、早く三番目の大地に向かって、星の塔まで行かなければいけない。


 気になるが考えるのは後だと通り過ぎようとした時。


 小さい頃の姿の未利の姿が目の前に現れた。


 ――あたしはお姉ちゃんの代わりなんだ。誰かの代わりになるのがあたしの役目なんだよ。そうじゃなきゃ必要としてもらえない。


 次の瞬間、映像が目の前で再生されていく。





 羽スズメ 敷地内 『+++』


 見るに、そこはおそらく孤児院のような場所だった。

 たくさんの子供たちが共同で生活している場所。それを示す様に、建物内の各所には、生活用品……布団や衣服や食器などがあった。

 その建物には数人の大人たちが勤務していて、あれこれと子供達の世話を焼いているようだ。……が、彼らの苦労を知ってか知らずが、世話される側は元気いっぱいに走り回っていた。みな、昼時の時間を思い思い過ごしている。

 

 そんな建物の敷地内の一画、木と花々が植えられている庭には、幼い頃の……小学校に入るか否かのころ合いぐらいの歳の未利がいた。彼女は数人の子供たちと共にいる。


「よーし、みんなあそぼー。りゃくだつ! りゃくだつの時間だー。敵対せいりょくと戦いごっこするんだー!」

「「「おー!」」」


 子供たちをまとめあげた未利は、拳を高々と突き上げている。

 今の未利とは似ても似つかない、なあちゃんが分身でもしたかのような無邪気さだ。けれど芯が活発で元気である所は変わらない。

 そんな小さかった頃の彼女に話しかけるのは、同じく小さい姿のなあだ。


「ふぇ? 戦いはいけない事だってなあ思うの。けんかは、めっなの」

「んー? 戦いじゃなくて競争! 競争ならだいじょううぶ。ごーほう的でせいせいどーどーと、戦えるよ」

「そうなの? それなら良い事だってなあ思うの」

「よし、きしゅーだ!」

「きしゅーなの」


 しかし、異議を唱えるのは一瞬だけでたやすく丸め込まれてしまうのは、今も昔も変わらない事の様だった。あの二人は小さい頃からずっとあんな感じで今までやってきたのだろう。


 そんな風に、別の子供たちが組織したらしい敵対集団を求めてそこらをさすらい行く未利達なのだが……その前に一人の少女が現れた。


「可愛い女の子はみんな私の妹だよ!」


 栗色の髪の少女。

 可愛らしいレースやフリルのあしらわれた服を着こんだ、未利よりおそらく三つくらいは年上だろう少女が庭に現れたのだ。


「私の名前は、織香おりか。方城さん家の織香。よろしくね」

「んー? へんじん?」


 未利は当然、未だかつて遭遇したことのない珍妙な生き物に対する反応をした。

 子供たちも同様に訝しがって未利の背中にひとまとまりになっていた。


「怪しい人がいる?」「いるね」「あやしい」「へんじんだ」「変な人だ」「変な態度」「ちぢめてへんたい」


 それでも好奇心はあるのか、その人物の方を伺いながら、感想を囁き合うことは止めなかったが。


「おいでおいで、おかし有るよー。お姉ちゃんが甘やかしてあげるからおいでー」

「あたしねー、そんな怪しい奴についてく人は、いないと思います」


 小動物でもおびき寄せるようなことばに未利は何故か真顔になって丁寧語で正論。

 おそらくそれは、織香という少女と未利が初めて出会った瞬間なのだろう。


 後に関わりを持つ事になるなど知る由もない二人は、ただその場で出会っただけの相手として話を進めていく。

 その様子は決して仲良しとは言えない光景だったが、険悪では決してなく、二人からも互いに対する嫌悪感などはまるで感じられない出会いだった。





 それから幾日かの時が流れる。

 織香は、いつもではないがたまに羽スズメに訪れるようになっていたようだ。慣れた様子でお菓子屋やらゲームボードやらを持ってきた彼女は、室内遊びが得意らしくて、それらについて自慢げに子供達へと教えるようになっていた。


「そういうわけで、チェックメイトだよー。やった、また私の勝ちだねー。正義と愛の使者オリガヌ・ビューティー様は無敵だよ」

「負けた!」「完敗だ!」「あまりの負けっぷりに乾杯したくなる」「むしろケイイを払うレベルだなっ」「うぅ、織姉ちゃんがラスボスやると強すぎ」


 ボードゲームをやっていた織香を中心とした集団は、王手(チェックメイト)の勝者宣言に湧いて歓声やら悲鳴やらを上げて反省会に入っている。


 そこにどこからから戻って来たらしい未利と、未利率いる一集団が部屋の中へと入ってくる。その体にはたくさんの葉っぱが付いてたり、土で汚れてたりと散々な見た目だった。


 そんな見るも無残な姿をして集団を率いていた未利が、織香の姿を見つけて親しげに声をかける。


「あ、また来てる。織香ちゃんだー」

「織香ちゃんじゃないよ、織香お姉ちゃんだよ。みーちゃんはまた外に出かけてきたの?」

「外でりゃくだつごっこしてきた! でも、みーちゃんじゃないよ。ねこちゃんみたいだし、やだぁー」


 そんな姿を見た織香は、一目散に走り寄って、頬ずりだ。


「えー、こんなにちっちゃくて可愛いのに。みーちゃんかぁいい。あーん、可愛い可愛い。女の子はやっぱりいいなぁ」

「ひゃわっ。えー、それやーだー。なんかやだぁー」

「すりすり、うりうり」


 ご満悦の表情で、未利を餌食にした織香は「ハーレムだよ!」とか言いながら、他の女の子を次々と手にかけていった。その内訳に含まれていたらしいなあちゃんが、織香の腕の中で白くなって燃え尽きていく。


「なあちゃんが真っ白になって、燃え尽きてるー! 少年まんがだ」

「ぴゃ、織香ちゃま……お目目がクワッてして、キラーンになってたの」


 そんなふうに賑やかしく騒ぐのが、幼い頃の未利の日常だった。


 だが、そんな微笑ましい光景も長くは続かなかった。

 時間は否応なく過ぎ去って行く、立ち止まらずに。決して歩みを止めることなく、未来へ、明日へと。


 望む望まないに関わらず、たとえ幸せが待っていても不幸が舞っていたとしても、その日はやって来る。


「こほっ……」


 僅かな異変。

 それはきっと日常に紛れた、些細な変化だった。


 後に思えばそれが彼女の、今へと繋がる一つのターニングポイント。咳をして、倒れた織香の存在が、未利へ未来への選択を余儀なくさせたのだ。


「織香ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫、ちょっとした風邪だか……」

「先生! 大変なんだ。織香ちゃんが……」



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