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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第六幕 翡翠の星、輝く
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219 第21章 崩壊世界



 一瞬、瞬きの間に目の前の景色は変わっていて、周囲を覆っていた木々は無くなっていた。

 遠く離れた所に、森があるのが見える。

 姫乃達は森の外へと移動したようだ。


「これくらいは短縮してもいいよね? えへへ、どう?」


 誉めて誉めてと言いたげな自慢げな調子で胸を張るエムの声が聞こえてきたが、それどころではない。

 姫乃達は、目の前にある光景に呑まれていた。


 心の中の世界の全貌が見える。


 その景色を一言で言い表すなら、何という言葉が当てはまるだろうか。

 黒……、闇……、止……、いや終だろうか。


 その世界は全体的に薄暗く、闇に包まれ終わりゆこうとしているような、そんな場所だった。


「暗い世界ですね」

「ぴゃ、あっちもこっちもどよどよってしちゃってて大変なの。なあ、心がしょんぼりしちゃうの」


 終止刻が始まって、一つの世界が終わるかもしれないという時を生きている姫乃だったが、どんなに周囲の人が深刻そうな顔をしていても世界が終わる瞬間なんて想像できなかったし、ぴんと来なかった。


 でも、それがここにある。


 目の前の景色はまさしく、世界の最後だ。

 抗う力を失くし、ただただ枯れ果てるままに存在して、終わりを迎えようとしている。

 そんな世界の姿……。


「ここが、心の中の世界……」


 未利が特殊なのだろうか。それとも、他の者達……姫乃の心の中などもこんな風になっているのだろうか。

 

 と、そんな疑問を呼んだようにエムがこちらの顔を覗き込んで話しかけてくる。


「それは教えられないかな。先入観があると、見える物も見えなくなっちゃうし。ひきょー……とはちょっと違うけど、ふせーは許さないよー。あれ、これもちょっと違う……?」


 彼女からは他の人の事なんかは教えてもらえないようだ。知っているのか、知らないでいるのかも含めて。


 取りあえず、いつまでも景色に圧倒されているわけにはいかない。

 改めて自分達がいる場所を確認する。


 姫乃達は、おそらく先程までいた森の外に立っている。

 そして、その立っている大地は宙に浮く浮遊大陸の上だった。


 途中で途切れた大地が目の前にあるのだから間違いがない。


 そんな闇の中を、浮遊大地はどうやってかは知らないが浮かんでいる。


 そして姫乃達は大地の途切れが見える事から、必然的にその一番端っこにいる事になるだろう。


「……」


 少し怖いが、その端っこの方に寄って行ってみる。


「き……、気を付けてくださいね」

「なあも行くの!」

「あ、なあちゃんは念の為後ろにいてねー。前にいたら、たぶんうっかりこけちゃったりすると助けられないかもしれないしー」


 気後れしているだろうエアロや、好奇心を覗かせるなあ、そのなあを心配する啓区が共についてきて、浮遊大陸の端から改めて他の場所を眺めてみる。





 とりあえず、まず目につくのは、他の浮遊大陸。

 多少の高低差を付けて、浮かんでいるのは四つの同じような大陸だ


 まず一つ、それは今姫乃達がいる……森の存在している大きな大地だ。大きさを比べてみるとこの大陸が一番大きかった。


 二つ目つは、少し離れた場所の少し高い位置に浮かんでいる大陸、建物の残骸の様な物があった。大きさは家が五、六軒並んで立ちそうな広さだ。周囲にレンガや植木が倒れていたりしているので、残骸の周りにあるのは庭かもしれない。


 そして三つめは、割と離れた場所の結構高い位置にある大陸で、大きなホールが立っている大地だった。広さはおそらく、二つ目と同じくらい。


 最後の四つ目は、ちょっと四つ目より低い位置にある一番遠い大陸。中央には塔が一つだけ建っているようだ。少し離れているから良くは見えないが、広さは建物がギリギリ載るくらいしかない。


 その四つで、この世界は出来ているらしい。

 だが……。


「気持ち悪いです。何ですかあれ」


 エアロの声に、つられるように彼女が見ていた物へと視線を動かす。


 浮いている以外は割と普通な見た目をしている世界だったが、明らかにおかしいものも確かにあるのだ。


 視線を下げた先には、それが蠢いていた。


 ……浮遊大陸の下の先。

 

 深い深い、世界のさらに深い底の方には黒い靄の様な物が満ちていて、そこから無数の手が伸びて来ていたのだ。その手のいくつかが、浮遊している四つの大地を掴んで引きずり込もうとしているのだ。


 姫乃の立っている場所にはそれは無いのだが、離れた所を見るとその手が大陸をがっしりと掴んでいるのが。見えてしまう。ホラーだ。


「ぴゃ、おててさんなの」

「何か、似たようなもの見た事あるねー」

「あれって、エンジェ・レイ遺跡で見たよね……」


 そうだ。紺碧の水晶を取りに行く時に遺跡の中で見た物とそっくりだ。


 蠢く手を見つめ手、軽くその姿に恐怖しているとエムが説明してくれるようだった。


「えーと、たぶん啓区は未利の異常を感知して、治療室までやって来たんだよね」

「確かにそうだよ。存在量が急激に減っていったから、びっくりして駆けつけたかんじー。でもあれ? どうしてその事知ってるのかなー」

「外で……現実で起きてた事については、ベルカから教えてもらったー。でね、その時に氷裏(ひょうり)……じゃなくて砂粒がこの世界にやって来て、干渉……つまりダメージを与えてくれちゃってたから、影響が出てるんだよ。だからあの手は砂粒のせいです」


 ダメージ……一体何をしたんだろう。

 存在量が経るって、どういうことなのか分からないけど、良くない事だけは分かる。


 エアロが渡されたリボンって、あの手から私達を守る為の物?

 攻撃してくるのだろうか。

 だとしたら少し怖い。


「分かる分かる。うん、迫力あるもんねー。でも助けに来たんでしょ? 未利を。だったら早めに進んだ方が良いかも。砂粒に先を越されるとまずいと思うから」


 影響を受けたという関連性はよく分からないが、確かにあの人に好き勝手やられたら大変な事になってしまうだろう。

 

 現にいくつかの大地は、端を手に掴まれているし、二つ目の残骸のある大地は完全に上から押さえつけられてゆっくりと、下へ沈んで行っている。

 あの現状、あの得体の知れない砂粒の影響だとしたら……。

 時間をかけてられないと言うのが、分かりすぎるくらいの光景だった。


「なんか、良くない感じなの。なあには、たくさんのえーんえーんっていう気持ちと、辛いよって気持ちがあるように見えるの。ぴゃ、死んじゃった人……なの?」

「な、なに怖い事言ってるんですか、聞こえません、聞こえませんよ私は……」


 なあはなあで、あの手に感じる物があるらしくエアロと話しているのだが、もう一方が恐怖に負けて会話拒否。話になっていないようだった。


 確かに、考えたくないよね……。


 だけど、おかしなのはそれだけではなかったらしい。


「あんまり言いたくないけどー。上も結構あれだよー。驚かないでねー」


 啓区の言葉に顔を上げてみる、何も考えずに。

 周囲の暗さ的に夜の景色なのかと思って、星空があると想像していたのだが、一応夜っぽく暗く存在していたその夜空には、たくさんの目があって、何かを探しているかのようにせわしなく動き回っていたのだ。


「……っ」

「ひっ」

「ぴゃ、エアロちゃまがふらっとしてるの、大変なの!」

「あははー、まあそういう反応だよねー」


 姫乃はかろうじて我慢したのだが、エアロが悲鳴を上げて一瞬倒れかけた。なあちゃんに心配されているが大丈夫だろうか。


「未利さんの心の中どうなってるんですかっ!」


 そんなエアロに話しかけるエムの方は、気にしたような様子はない。


「ホラーだね。すごいね。映画監督さんも真っ青だー」


 案内人と言うからにはずっとここにいると言う事なのだろうし、慣れているのかもしれない。

 

「さて、現状確認も行った事だし、こっちから最速の救出条件を提示させてもらうよ」

「救出条件」

「そうだよ。これをこなせば未利は助かる。方法はもう分かってるんだ。だから後は、それをクリアする為にこの世界を移動するだけ」


 眠り続けている原因も分かっていないのに、いきなり何とかできる方法が分かるとは思えなかったのでかなり驚いた。


「条件は、真実の塔を壊す事! 四つ目の大陸まで辿り着いて、あれを壊せば未利は助けられるんだよ」


 エムはそれだけを言って、その場から消えてしまう。

 代わりに、今いる大陸から、二番目の大陸に渡る為の橋がかかった。


「行こう皆」


 ゴールがあるのなら、尻込みしている時間も、迷っている時間もおしい。


 前へ踏み出しながら決意を固める。


 ……絶対に未利を助けて、またみんなで一緒に色んな事をするんだ。みんなで一緒に元の世界の絶対帰るんだ。



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