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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第六幕 翡翠の星、輝く
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215 第17章 失われた町からの襲撃者



 世闇に沈む港に現れた人物。

 クルスはウーガナ達を見つめている


 相手の見た目は頼りなく実際もひょろい体格をしているのだが、その手に持っているのは、男の身長の半分はあろうかという大きさのモーニングスターだ。


 凶器だ。

 どう見たって、見間違い様がないはっきりとした凶器。

 人を殺す為の道具を人が持っている。そんな事に狼狽えるウーガナではないが、一つの町の町長がそんな狂気を持っていると言う事実に対しては、さすがに驚いた。

 

「おいおい、いつから腰の低いヘタレ町長が凶器を持つお決まりになったんだぁこの世界は」

「ははは、さすがにそんな滅茶苦茶な気町は存在しないよ……ああ、すいません偉そうなこと言ってホントすいません。さーせんっす」


 ウーガナの言葉に対するクルスは乾いた笑い声を発しながら、しきりに頭を下げてくる。

 凶器を持っていても、腰の低さは変わらないようだ。性格も。


 こうして面していて分からる事だが、最初の攻撃の時以外まるで殺気を感じない。

 あり得ないとは思うが眼の前の人間は、凶器を持ったまま町中を歩いていたとしても何か別の作業に使うのだろうと、そんな風に周囲の人間に思わせてしまうような、そんな雰囲気を持った人間だった。


 道端を這う虫、路傍の石ころ。

 あるのが当たり前で、決して脅威になりえぬもの。

 その人物は、そんな不自然な自然さが存在自体に強固に塗りこまれれているかのような、気持ちの悪い人間だった。


 似たような事は、前にも感じた事がある。

 漆黒の刃の人間に会って、死にかけた時だ。


 思い出したくもない過去の話。


「テメェは……、また厄介な奴が出て来たじゃねぇかよ。こんなチビ狙ってくるなんざ暇過ぎんだろ。遊んでんのかよ」

「いえいえ、まさか遊んでいるだなんてとんでもない」


 目当てはウーガナではなく、チィーア。それは最初から分かっていた。

 殺気の行先が、そちらだったからだ。

 こんな年端も行かない子供を追い回す理由は思い付かないが、仕事の目撃者を口止め……だなどと簡単な事だとは思わない方が良いだろう。


 そんな風に相手の出方を探っていると、クルスはこちらをじっと見つめた後、何かを考え込む様に目を細めた。


「ええと、貴方は確か……ああすいません。あっしとした事がお得意様の顔を忘れるなんて。武器の密輸を依頼した人間の一人でしたね」

「あ? 誰だぁ、そいつはよ」

「えっ?」


 賭けられた声に適当に応じる。ウーガナ達の会話を聞いて、チィーアが驚いた声を出して何か、小声でぼそぼそと言っているが気をまわしている余裕はなかった。


「しらばっくれなくてもいいでしょう。報酬を三倍に釣り上げた事覚えてますよ、ええきっちりと。貴方の運んだ武器はさぞかしこの町の人々の不安を癒す手助けになったでしょうね」

「煽ったの間違いじゃねぇのかよ、はっ! テメェ等が、この町の騒動に一枚かんでんのは分かってんだ」

「おやおや、そんな濡れ衣ですよ。私達はそんな大層な事してませんし、少し困った方達に手を差し伸べているだけです」


 手を貸すのは上からの施しだから、協力ではありませんってか?


 クルスは、手にしている武器の柄を軽く引く。

 身長の半分もあろうかという巨大な鉄球がわずかに動き、柄と繋がっている鎖がじゃらりと音を立てた。


 チィーアがこちらの服の裾を掴んできたので、左手で払う。


 邪魔だ。動けねぇだろ。


 距離を測りながら身構える。

 相手は立派な武器を持っているが、ウーガナはアレとやり合えるほどの武器は持ってない。

 丸腰でどれだけやれるのか分からない。


 無抵抗で諦めると言う選択は最初からなしだ。

 傍にいる子供を放り投げてやれば、囮に仕えるだろうが、相手の言う通りにしているようで癪だ。


 救いなのは、相手が余裕だと思って油断しているところくらいか。


「煽ったと言うのなら、貴方の方だって同じではありませんか? 良心の呵責はないと? 素晴らしい、貴方こそ悪だ。あ、調子にのってすいません」

「……はん、俺様からすりゃぁ悪人ほめるテメェの方が分かんねぇよ」

「ですね。じゃあ、すいませんが消えて下さると助かります。グラビティ」


 直後、鉄の塊が空を切り裂いてこちらへすっ飛んできた。

 筋肉のあるタイプには見えなかったので、魔法で全部制御しているのだろう。


「だぁ、くそ」


 後ろ手に回した腕で、チィーアを抱え込んで飛ぶ。

 あの頼んでもないのにいつも追いかけてくる優等生兵士が駆けつけてくる気配はない。

 

 せっかく時間稼ぎしていたと言うのに、意味がないだろうが。

 どこで道草を食っている。


 地面を陥没させた鉄球を手元に戻しながら、クルスは柔和な笑みを浮かべ、ウーガナに抱えられているチィーアへ尋ねる。まるで道端で迷って、親切な人間に声をかけでもしたかのような態度だ。


「チィーアちゃん、君は一体どれくらい喋ったんだい? あの町で起きた事を」

「……ぜんぶ」

「ぜんぶ? 困ったな。それじゃあ、今から口封じしても意味がない。あーし、あの怖いおかしらから怒られるのはいやなんっすけどねぇ……」


 口封じという言葉にそぐわぬ軽い口調で、言葉を紡ぎ続けるクルスは何を思ったのか、そんな雰囲気のままチィーアへと誘いの言葉を掛ける。


「でも、ここで会ったのも何かの縁だ。我々の元に来ないかい。君のネクロマンサーの力はとても必要なんだよ。正直とっても助かる。今ならきっと、君のした事も許してもらえるし、皆歓迎してくれるよ。いい考えだと思うんだけどなぁ」

「やだ……。だって、皆を殺した人達だから」


 断られたクルスは参ったなと頭を掻きながら、続きの言葉を掛けるのだがチィーアの態度は変わらなかった。


「どうして? 我々の元に来て訓練を積めばお父さんやお母さんにも会えるかもしれないのに?」

「……。それでも、嫌。チィーアは……、私達はお父さんのお願いを聞いてあげなくちゃいけないの」

「やれやれ、困ったなぁ。これだから子供は相手が面倒なんだ。エアロ君みたいに現実的な考えをしてくれる人だったら助かったんだけど……。うーん、やっぱりあっしに魅力がないんでしょうかね。それだったらホントすいません。何かすいません」


 ごたごた言ってる相手は無視だ。

 チョロチョロまとわりついてきてうっとおしいだけの子供だと思っていたが、骨は中々あるようだ。

 だからと言ってじゃれついてくるのを歓迎して態度を変えるほど、ウーガナはお人よしではないが。


 と、すげなく断られた相手は、せめてと思ったのかこちらにダメージが飛んでくるように話題を振って来る。


「そこにいるおじさんだって、君の町を滅ぼした漆黒の刃に手を貸した人間なのに?」


 それだったら別に嫌われてもどうってことはないが、一言言わせてもらいたい。誰がおっさんだ、この野郎殺すぶっ殺すテメェ。


「ウーガナは信じてもいい人だって、幽霊さん達が言ってるもん。チィーアのこと絶対助けてくれるって言ってるもん。だから私は信じるんだもん」


 抱えてる子供が煩い。放り出そうかと思った。


 もん、じゃねぇ。

 おい、いきなり何わけわ分かんねぇ事言いやがんだ、テメェ。あ?

 お前もあの人斬り女とおんなじ思い込みの激しいクチか。


「そうかい。じゃあ。仕方ないね」


 もう取りつく島もない、とクルスが肩をすくめて、本格的に戦闘に入ろうと動きをみせるのだが、その瞬間……。


「それ以上前に進めば斬るぞ」


 イフィールの声が響いた。

 視線を向ければ珍しい事に私服を来た金髪兵士の姿。その手には剣が握られている。

 想像していたのとは違ったが、間に合った事には変わりはない。

 武器なしで相手をするには、奴等は強すぎる。


「やれやれ、彼女が間に合ってよかった。間に合わなかったら殺すつもりで斬りかかる所だったよ。君みたいな殺しても良さそうな人間を見ると歯止めがきかなくなりそうだったからね」


 そして、先ほどから防寒していたらしいみないなラルドの声がその場に続く。

 出てこないと思ってたら、わざと隠れていたのか。


 人見たら斬りたくなる女と、人見たら殺したくなる野郎とかマジで存在が迷惑だろ。


「ふぅ、日ごろの行いが悪いわけじゃないんですけどね。どうにも最近、我々は不本意な結果ばかりだ」


 駆けつけた二者の姿を見て、構えを解くクルスは、ため息をついた。


「まあいいでしょう。今回の件は上に報告が行かないでしょうから。大人しく撤退させてもらいますよ。二―マルハチ」


 暗号か謎かけか何かか、奇妙な言葉を言い残したクルスはその場から一瞬で消え去ってしまう。


「だぁっ」


 緊張から解放されてその場に腰をつく。

 抱えていたチィーアがまきこまれて抗議してきたが、聞く耳は持たない。


「久しぶりの休憩に外に出て見れば、何を巻き込まれてるお前は」


 嘆きたいのはこっちの方だ。人斬り女。




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