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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第六幕 翡翠の星、輝く
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207 第9章 不幸と幸せ



「難しい事言ってくれますね……」


 単純な頭をしてない自信はあるのだが、それでもそのエアロからしても難解だと思えるような内容だ。

 その様子に、おそらく言われた時の事を思い出したのだろうコヨミが苦笑を浮かべながら言葉を返してくる。


「そうね。私も、かなり考えちゃったわ。でも……すごく参考になったのよ?」


 そう続けて、彼女なりの解釈をエアロへと披露する。


「私は本当に領主でいても、不幸なままなんだろうかって。逃げずに努力をしたら、それは変えられる事なんじゃないかって……」

「不幸と、幸せ……ですか」

「難しい事よね」


 本当にそれは難しい事だ、一朝一夕に答えの出るものではないし、だからと言って、長年生きている者が必ずその答えを述べる事が出来ると言えば、そうとも限らない。人生を費やして得ただろう答えが人それぞれ違っている、なんて事もあるだろうし。


「私達はもっと、嫌な事を変える努力をすべきなんだわ、それを少しもしないで逃げようとするのはきっと甘え……。分かり合って、理解しあって、努力して、そうして嫌な事を一つずつ失くしていく。私がしなきゃいけないのは……向き合わなきゃいけない事は、きっと、そう言う事なんだと思う」

「姫様……」


 決意に満ちた主の表情に言葉を失う。

 それはエアロの理想にある立派な統治領主の言葉そのものだ。


 けれどエアロは、今ままでみたいにただ敬愛し、理想を押し付けるだけではいけないはずだ。


 なぜなら、もう知ってしまったからだ。

 コヨミがここまでたどり着くまでんにどんな風に生きて来て、そんな風に悩んで、どんな風に道を歩いてきたのかを、全部とは言えないがその一部くらいは……。


 だから、エアロが言うべき事は、するべき事はいままでとは違う事のはず。


 コヨミの悪い所も、弱い所も知った上で支える。

 きっとそれが今の自分が得られる精一杯の答え。

 

 なら、そう目的を新たに持った自分が取るべき行動は……。


「私、ずっとコヨミ姫様の近衛になりたくて頑張ってきましたけど……ちょっといきなりそこを目指すのは目標が高すぎましたね」


 そう言って懐から取り出すのは、空いた時間で町に出た時に、レフリーと共につくたコヨミの好物のお菓子……カボの種で作った焼き菓子だ。


「厚かましいお願いかもしれませんし、とりあえずまず何番目か分かりませんけど、私を姫様の友達にしてくださいませんか?」


 友だち付き合いなんて、長い事してなかったせいで忘れてしまったし、必要ないとまで最近思っていた自分だ。ちゃんとできるかどうか分からなかったが……まずは、少しずつ知っていこうと思う。

 何も知りもしないで隣に立とうとするなんて傲慢だ。

 

 そう言われたコヨミは目を丸くして、焼き菓子を見つめて、そして表情に笑みの花を綻ばせた。


「友達になるなら、厚かましいも何もないと思うわよ。これからもよろしくね、エアロちゃん」






「そういえば、最初はもっと違う話をしようとしてたような気がするんですけど……」


 と、友達になるまでに至る会話を改めて思い返していたエアロが声を上げる。


「あ、そうよね。でもたぶん同じ事よ。分かる事とか理解する事が大事って事で、えっととりあえずは……お互いの詳しい自己紹介でもしようと思って。……ほら、私達何が何だかよく分からない感じで、すれ違っちゃってると思ってたから。ふがいない領主でごめんねってそう思って……」

「そんな、私の方こそです。私こそ、勝手な思いを押し付けてすみません」


 と、最初におそらくこなしたかった目的を果たして二人して向き合い頭を下げ合う、

 何だかこれでやっと、始まりの場所に立てたような気がする。


「命の恩人である貴方を高く評価し過ぎてたみたいですね。でも、今確信しました。それは間違ってましたけど、全てが間違いでもなかったと」

「エアロちゃんは、いつも私をキラキラした目で見つめてくるから凄く、結構、かなり申し訳ない気持ちになったわ……」

「やっぱりそうだったんですね。すみません」


 以前ならともかく、今ならば分かる。つい最近まで町娘で領主になるのが嫌だった彼女にそれをするのは、やはりまずい事だったと。

 周囲の兵士からもエアロは過剰に人を持ち上げたがるとか言われていて、前なら当然の評価だと言い返していたが、ちょっと省みる必要があるかもしれない。色々他にも……。


「未利さんにも一応後でお礼を言っておかないといけませんね……」

「?」

「いえ、こちらの話です」


 まあ、最後にこんな形で丸く収まるようになったのも、元はと言えば彼女の言葉があったからなわけで……、感謝の念を抱く事も……やぶさかではない。


 起きたなら礼の一つくらいは言ってもいいだろう。


 一つくらいは……。

 言えるだろうか。


「こんな事になるなら、姫様に助けられた時の私に今の事を教えてあげたいくらいです」

「ふふ、その事? なつかしいわね。あの時エアロちゃんたら、私の事統治領主だって分からずに話かしかけてきて……」


 そうだ、あの時は始めは知らなかったのだ。コヨミがおそらくお忍びで町に出ていた時の事。

 抜けているだけと思っていた少女にさっそうと恰好良く助けられた後、追いついてきた兵士達に的確な指示を出す所を見せつけられれば……、ああ、やっぱり尊敬するのも無理はないかもしれない。


「……あれ、姫様に見えないとか、つい最近もこんな事あったわね。私って、オーラ無いのかしら」


 何やらコヨミ姫は気になる事が別にあるのか、口の中で色々と呟いているがその内容はよく分からない。


「あんまり外で長話しするのも、明日に障るだろうし、今日はこれくらいにしましょう」

「そうですね。……もしかして、その言い方、姫様よくここに来てらっしゃるんですか?」

「ええ、まあ息抜きに。だって夜なら人目がいないし、しかもここってなんだかすごく落ち着く気がするから」


 それは異論なく同意だ。

 ここに来ると、エアロも何だか気分が軽くなるような気がするのだ。

 普通なら、夜の庭園なんて、不気味だとしか思えないはずなのに。

 不思議な感じがするのだ。


 話を切り上げて、そんな風に夜の中庭を移動しながら城内へと戻っていくのだが、その道の途中で、隅の方に置かれている黒い石について尋ねてみる。


「ずっと前から不思議に思ってたんですけど、この石って何でしょう。この石だけなんというか、庭園の雰囲気にそぐわない様な気がするんですが」


 ここにいるとばかりに自分の存在を主張しまくっている、重厚な黒い石の置物は誰が見てもきっとそう同じように思うに違いない。


「ああ、それね。サクラ姫が置いていった物らしいけど、どういう理由で置いたのか、全く分からないのよね」

「一体何なんでしょうね」

「魔石だったら、襲撃に備えての戦力の足しになるのに。そういえばアテナが限界回廊で発見した女の子の事の事も気になるのよね。同じ物質だって言ってたし……ちょっと調べてみようかしら。じっくり話を聞いてあげる良い機会になるかもしれないし」



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