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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第六幕 翡翠の星、輝く
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204 第6章 観測者の取引



「あはは、あの時もあの時もいっぱい驚いたなー」


 何故か、未利達の距離感がおかしくなって幼なじみになってたり、セルスティーに旅の同伴をお願いされたり、本当にたくさん色々あった。


 回想から浮上し、思った事を口に出しながら癖で胸ポケットを叩くが、そこに見慣れたカメロボットのうめ吉はいない。後夜祭会場で、未利の足元にいるのをエアロに確認されて以来、行方が分からないからだ。


 誰かに拾われていればいいのだが、そうでなければ可哀想だが今頃は船と共に海の底だろう。

 防水加工は施してあるが、がれきの中から人よりも小さな物を見つけるのは至難。


「うめ吉にはアジスティアがついてたのかなー? 魔大陸で姫ちゃんが助けてもらったって言ってたらしいしー」


 何となく、ベルカと似たような雰囲気を感じる少女は、アレイス邸に乗り込む前の通話依頼、声も聞いてないし、姿も見ていない。


「無事だと良いんだけどー」


 ベルカと同じ存在だと言うのなら、心配はいらなさそうだが、こういうのは理屈ではないだろう。


「あれからも色々旅してたけど、まさかこんな所まで来る事になるなんて思わなかったよー」


 そう、姫乃と遭遇してからも、本来の役者でない自分は物語の舞台から降りる事はなかった。


 何度か存在が揺らいで消えそうになったけれど、それでも完全にこの世界から消え去ることなく、今日まで存在し続けている。


「その時が来るのは、一体いつなんだろうね……」


 明日か、明後日か、数日後か。


 いずれにしても、消えてしまったら証拠になる様な物など凝らず、……記憶にすら残らないのだろな、とそう思う。


「……いつも貴方は、最後にそう言って消えていくのよ」


 ふいに、こちらの考え事に割り込む様に女性の声が響く。


 ふと気づけば、室内にいた男性医師は手を止めて眠りについていて、代わりに部屋の入り口には新たな人物が存在していた。


 灰色の髪の、灰色のドレスを着た、クレーディアそっくりの人物。


「観測者のベルカ。自己紹介は、したかしら?」


 気だるげ層に、面倒そうな様子で、そっけなく名乗る声と名前は、確かに聞いた事があるものだ。


「確か、死んだクレーディアのたましいの残滓みたいな事言ってたよねー」

「そう、生き霊みたいなものだと思ってくれて構わないわ。全然違うけど」


 違うんだー。


 正確じゃない自己紹介って意味あるのだろうか。


「どうして君は僕の前に姿を現すのかなー。普通だったら主人公である姫ちゃんの前じゃないー?」


 そんな疑問をぶつけて見るのだが、ベルカは首を振って啓区の言葉を否定する。


「予定調和をなぞる歴史に接点を作っても、意味などないわ」


 何やら遠回しな答えを頂いてしまったわけだが、それはつまり……。

 姫ちゃんは、元の歴史とまだ同じ風だってそう言ってるのかなー。

 後悔してたもんねー……。

 過程はどうあれ、結果はまた同じなのだ。


「貴方は、数多の世界で未練を残して、物語から消えり、現世の停滞者ガイア・クロムレスとなった。ようするに貴方も時期にそれに加わる……、生き霊となる予定の存在よ」


 わあ、身もふたもない言い方ー。死亡宣告されちゃったよー。

 ばっさりすぎる発言が目の間の女性からもたらされたが、啓区にとっては今更だった。

 発言の仕方に大して思う事はあっても、内容に対してはない。

 

「どうやら今回はここまでのようね。どうせ駄目だろうと思ったわ、だから取引しに来たのよ」


 クレーディアはほんの少しだけ、疲れたような息を吐き、気だるげそうな調子でそう述べた。


 今回は?

 それってまるで同じ光景を何度も見続けて来たみたいな言い方だねー。

 こことは違う平行世界でも見て来たのかなー。


 普通なら驚く所だろうが、意味深な言動や、他の人間にない雰囲気を感じていると、それも不思議な事ではないように思えてくる。


 先を続けるベルカは、こちらの前までやって来て、ベッドの上にいる未利を一瞥。


「貴方の存在をこの世界から完全に消す代わりに、この状況を覆すかもしれない、不確定因子を呼び込む。その提案を今日はしに来たのよ。どうかしら?」


 そして、悪い相談でもないでしょう? 

 ……と、そういう風にベルカはこちらへ提案してくる。


 確かにそれは悪くはないかもしれない。


 脳裏に今までの事が蘇る。

 走馬燈とかいう奴だろうか。


 出会って、思い出を紡いで、たくさんの場所に足を運んで、本来得られない物を沢山得られた。

 それらはきっと何にも代えられない、宝物だ。


 だが、それらがどうせ消えてしまうのならば、有効に活用したいと思うのが自然な事だろう。


 長くはない思い出、ほんのひと時の冒険の再生が終わる。

 一瞬の思案の後、決断を下した。


「僕は……」


 その言葉に応じかける啓区だが、


 足音と話声が聞こえて来て、人の気配が近づいてくる。


「あ、そろそろ姫ちゃん達が来る頃だったー」と、そう思いながら、何事もなかったかのように取り繕う準備を始めようとして……。


 けれど、がらりと勢いよくドアが開くのは、そんな準備をさせないぐらい予想よりもかなり早かった。


「え?」

「啓区ちゃま、それは駄目なのっ」


 言葉と共に、何かがこちらに体当たりしてくる。

 避ける必要はなかった。


 なぜならそれは、いつもにこにこ笑っているマスコット的存在のなあだったからだ。 

 飛びついてきて、しがみついているなあを見つめながら、数秒して追いついて来た姫乃の方へと視線を向けると、不安そうな表情をしていた。


「急になあちゃんが「大変な気がするの」って言って、慌てて走っちゃったんだけど……」

「大変なの。なあ、とっても大変だと思ったの。でも良かったの。啓区ちゃまが良くないって感じがしたから、なあ急いだの。途中で転んじゃって、いたたしちゃったけど、平気なの、啓区ちゃまは何してたの?」


 なあちゃんが、なあちゃんらしからぬ様子で、怒涛の勢いで言葉を掛けてくるのに面食らってしまう。

 姫乃も同様で、困った様子でどうしてら良いのかわからずに立ち尽くしている。


 その背後で、よく分かってない様子の選達が顔を見せる。今日は彼らも一緒らしい。

 

「啓区ちゃま?」


 よく見ると、なあの鼻の頭がちょっと赤くなっている。血は出てないし傷にもなっていないようで、少しほっとした。日頃から転び慣れているおかげだろうか。


「転んじゃったんだー、大丈夫ー?」

「なあは大丈夫なの。でも啓区ちゃまは大丈夫なの? 未利ちゃまみたいに、悲しいよってなってないの?」

「えっと、僕も未利もそんなに泣き虫じゃないと思うけどー。何でもなかったよー。ただの自己紹介みたいなものしてただけだからー」

「はぁ……」


 そんな気にするような事はなかったのだと、安心させるように笑いながら(いつもだけど)そう言ってあげれば。何故かベルカから重いため息をつかれる。

 何か、呆れられたような気配だった。

 そして、こちらを氷の様な視線で見つめて一言。


「死ぬか死なないか、はっきりしてくれないと困るわ」


 そしてそんな言葉を、一緒に来ていた姫乃が追いついいてきて部屋に顔を出した瞬間に言ったのだから、大層驚かれた。


 え、何か、僕の出した結論と正反対の事、思われみたいー? えー、ないよー。


「えっ、それって……! 啓区、その人は? 何があったの……?」

「えっと、比喩的な話だよー。これから危険になるねーみたいなー?」


 意味深なキャラだって知ってるけどねー?

 ベルカはそう言う不穏な事言うの、ちょと控えよっかー。ねー?

 発言の張本人は、興味ないみたいな顔して、どこか別のとこ見ている。


「この人って……」

「ほら、前に言ったでしょー? 限界回廊で会った人だよー」


 思い出そうとする姫乃に助け船を出してやる。


「この人が……。本当にクレーディアさんとそっくりなんだね」


 そのベルカは、こちらが話している間に何をしているのか、どこからか子ネコウを出現させて未利のベッドの上に放り投げていたた。

 脈絡が無い。

 さっきまで、ちょっとシリアスしてたのに、どうしちゃんだろー。


「みー」

「ぴゃっ、投げちゃめっなの」


 放られた方の子ネコウだが、ネコに似た外見しているだけあって、きちんと受け身をとって着地できたようだ。

 心細そうになく子ネコウになあが寄り添って、その体を撫でてあげている。


「それは接着剤よ。うまく機能するか分からかないけど、傍に置いておきなさい。別に手助けするわけじゃないから、勘違いしないで」


 ツンデレかなー?


 接着剤と彼女は言ったが、目の前の生物はどう見ても子ネコウだ。

 羽生えてるし、ネコっぽいし、みーって鳴いてるし。

 しかも、どうしていま接着剤(?)を出したのだろう。


「私が関係ない事するわけないでしょう。システムの修復ソフトと同じようなものよ」


 要するに未利が目覚めるのを助ける便利アイテムみたいだった。

 動物を者扱いするのはどうかと思うが。


 ふるふる震えながら、ベルカを見つめていた子ネコウは、なあちゃんに撫でられ、少しだけ安心したようだ。

 ベッドの横に置いてあるネコウのヌイグルミの傍に落ち着いて丸くなる。


「恩人らしいわよ。排水管に挟まってたところを助けてもらったそう。追われてる時に。何やってるのよ。馬鹿じゃないの?」

 

 それは救出された子ネコウか、それとも助けた方に言ったのか、どっちなんだろう。

 最期の一言を聞いてなんだか、未利みたいだなと不覚にも思った。

 素直じゃない感じの言葉が特に。


 話の成り行きについていけない選達は、子ネコウの方に構っている。特に水連が無邪気だ。

 なあちゃんと気が合うかもしれない。


 取りあえず流れから察っした事情は、子ネコウは未利に助けてもらったのだろうと言う事だ。

 いつの間にそんな事していたのだろうと思うが。

 ぶつくさ言いながら、しょうがないなあとか言う風に助けたのだろう。想像できる。


「とりあえず、ありがとうねー。どうしてこのタイミングで姿を現したんだろうー、助けてくれるんだろうーって思ってるけど、ひょっとしてクレーディアって未利の……」

「主人公より先にそのネタバレは感心しないわね」


 その二次元的な言い方、ほんと誰かさんとそっくりだよー。



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