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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第六幕 翡翠の星、輝く
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202 第4章 善意と隠れた悪意



 ある日突然、異世界マギクスに召喚されてしまった姫乃達。

 マギクスで初めて出会ったルミナリアや、調合士セルスティーの力を借りながらなんとか生活していくのだが、その世界には終末が訪れようとしていた。

 終りゆく世界と、その世界に生きる人達の為に姫乃たちは自分達ができる事を少しずつやっていこうとするのだが……。

 シュナイデル城に世話になる中、仲間が明星の真光(イブニング・ライト)に攫われてしまう。仲間を救出して平穏を取り戻したかの様に思ったのもつかの間、新たな問題が発生してしまう。






 シュナイデル城前 『選』


 城の前、白い建物に合わせてて白く塗られた巨大な門が立つその場所では、ホワイトタイガーのメンバーが訪れた人々の対処をしていた。


 普通ならば、大勢の人間達が詰めかけていてもおかしくない状況だが、見える範囲にいる人間はまばらだ。人で埋め尽くされる様な景色になっていないのはギルドで縁を作った人間達に、そうしないように話を広めて欲しいとあらかじめ呼びかけておいた事や、アテナが別口で依頼したアピスとかいう人達の方がうまくやっていてくれているのもあった。


 数日前には、コヨミが行おうとしていた演説を邪魔をするような形で、白金騎士団とかいう組織が乱入し、魔法解除の為に作られた舞台で領主の糾弾が行われて、どうなるものかと思ったのが……、想像したほど広くはなってはいないようで、城の者達はほっとしているらしかった。


 最もそれでもこうやって、少なからずの人が集まって兵士達が出て来て、対処にあたっているが。

 集まった顔ぶれや人数を見て兵士達が考えた結果、自然の成り行きで選達が彼らに交ざってこうやって活動する事になったのだった。


「領主様はコヨコちゃんだったんだねぇ」「ホワイトタイガーで働いていた子だなんてびっくりだよ」「領主様はいま大丈夫なのかい?」


 反応はおおよそが好意的なものばかりで、心配する声ばかり。

 大体はギルドのあるイビルミナイの住人ばかりとはいえ、悪い光景はなかった事に選は改めて安堵する。


「お姿をあまり見てなかったから領主様はどんな人なのかと思ってたけど」「あんなに普通の女の子だったなんてね」


 皆、領主の正体に驚きはしているものの、不満や悪口を口にはしないでいる。


「コヨコなら……じゃなくてコヨミ? いや、領主様なら大丈夫だぞ。あ、お見舞いの品か、ありがとな」

「皆も大変なのに。来てくれたの知ったらきっと喜ぶわね」


 そんな風に様子を聞きに来た感じでいる人々がお見舞いの品を置いていくのを、受け取って整理するのが選達の役目だ。時刻はもうじき昼頃。少し前はもうちょっと人がいたのだが、今はざっと見て数えられるくらいの人数だ。隣にいる緑花も選に同意を示しつつ、お見舞いを整理していく。


 その一方、双子である華花は、ギルドの方についての説明だ。


「皆さん、申し訳ありませんが、ギルドの活動はしばらく待っていてくださいね」


 例の事件に関わった後の取り調べ兼調査協力などで、しばらくはギルドの活動どころか建物にも戻れなさそうだから、知らせておかなければいけなかったのだ。

 コヨミの好意で立場的には犯罪者の仲間というよりは、協力者よりで融通してもらっているが、どんな理由があろうとやった事はやった事、必要な分だけしっかりけじめはつけなければならない。時間がかかるのは確実だろう。


 ホワイトタイガーでも、組織のてっぺんは責任を取るもので、何か悪い事をやった時は相応のけじめをとるものだと聞いていたし。そこのところも気がかりだったので、良い機会に伝える時間が取れた事は良かった。


 そんな風に作業をしていると、男性兵士の声が聞こえてくる。


「ふだんはこういうものは受け取らないようにしているんだがな、場合によりけりだ。姫様の意向であるし、こんな時まで誰だって人の善意を蹴りたくはない」

「へぇ、いつも断っちゃってるんだー。緑花達なんて差し入れとか、すごくもらってるのに、大人ってめんどくさい」


 離れた所でやり取りを交わす相手は水連だ。

 今回の件にはほとんど関係がないのだが、さすがに何日かかるか分からないので宿に一人にはしておけなかったので、こうして一緒に連れてきているのだ。


 遠慮のない物言いをする麗華に男性兵士が苦笑している。


「ああ、大人になると子供だった時の様には中々できない。ままならない事ばかりだな」


 失礼なこと言わないと良いけどと心配しながら横目で窺っていると、人垣を割ってあまり見た事のない顔ぶれの人たちがやってきた。

 ギルドの仕事では関わった事のないはず。


 老人が前に出て、選に話しかける。


「あの、領主様に礼を言いたいんですけれども……」

「ん?」


 コヨコはギルド内部の手伝いや雑務をこなす役割なので、外で依頼を受けたり活動した事はないはずだ。だから選達の知らない人間であれば、ギルドがらみではないのだろう。


「ちょっと前の事なんですけども、夜中にイビルミナイを怪しい連中が走り回っていた事が合って……」

「ああ……」


 老人が説明する出来事は、ちょうど後夜祭での演説終了直後……コヨミ達が明星の真光(イブニング・ライト)達から逃げようとしていた時の事だ。


 どうにも、その老人は、夜分遅くに煩く音を立てるそいつらに大して、文句を言いに外に出てったらしい。だが、連中に魔法で攻撃されそうになって怪我を負いそうになったのだが、コヨミに助けてもらったらしい。


「あたしのとこも、飲んだくれて帰って来た亭主がとばっちり食らいそうになってたのを助けてもらったらしくてねぇ」

「僕も窓からのぞいてたら火の玉が飛んできて、びっくりした。でも『火炎じょーとー!』って言いながら助けてくれたよ」


 最期のはコヨミじゃないな。


 それ以外も、あれやこれやとその日の夜にあった事を伝えてくれる。


 一時間も走り回ってたとかいう話を聞いたけど、とっくに捕まるか逃げ切るかしててもおかしくない状況で逃げ続けていたのは、そんな風に人々を巻き込まないようにフォローしていたせいなのかもしれない。


「みー」

「ん、お前もコヨコ……じゃなくてコヨミ達に助けられたのか?」

「みー」


 そんな風に考えていると、小さなネコ……ではなく子ネコウが選の足元にやってきて鳴き声を上げていた。


 何かを訴えているようだが、生憎と動物と語れる特技は拳で語る以外ないので無理だ。そんな事をしたら子ネコウが大惨事だろう。


「え、何なにネコちゃん? わー、かわいー。いいなー、だっこしたい」


 それに気が付いたらしいらしい水連が触ろうと近づくものの、子ネコウは警戒したように逃げていってしまう。それを見咎めた緑花が注意。


「あ、水連ってば無理矢理は駄目じゃない。怖がってるでしょう」

「無理矢理じゃないもん。誰かさん達が毎日兵士の人と話してる間ひまだから遊んで欲しかっただけだもん。ほんともー、退屈なんですけどー」

「うっ、言い返せない。それは確かにごめんだけど」


 だが、痛い所を突かれて緑花は言葉に詰まってしまってる。

 ……と、城の中から姫乃が出てくるのが見えた。


 見かけた選は当然声をかける。


「結締か、どうしたんだ」


 今の時間なら、訓練も終わってちょうど仲間である未利の様子を見に行っている時間のはずなのだが。


「あ、うん、ちょっとね。えっとツバキ君……じゃ分からないかな。えっと黒い髪に黒い瞳をした浅黒い肌の、私たちと同じくらいの歳の子見なかったかな」

「んー、見てないな。だよな?」


 緑花にも確認するが、そんな人間は最近見ていないと思う。

 褐色の肌をした人なら、南の方から来たと言う人でたまに見かけるのだが。


「ううん、そういうのじゃなくってもっと……何て言うのかな、存在自体が闇……? 黒い人って言えばいいのか……。見てないのなら良いの。ありがとう。あと、えっと…………、あれ、もう一人誰か探してたような…………」


 と、他に気になる事でもあるらしく、しばらく……十秒そこら悩んだ後に、ようやく思い出した姫乃がその事についてこちらへと告げる。


「あ、そうだ啓区だ。啓区を見なかったかな?」

「いいや、たぶん見てないな」


 これもこ緑花達に確認するがやはり先程と同じで見てない。

 ちょっと不思議な所がある、勇気啓区はたまに城を抜け出していなくなるらしいので、珍しい事ではないのだが、この日は何か用でもあるのかもしれない。


「そっか、邪魔しちゃったかな。ごめん」

「いや、そろそろ時間だったし、俺達もそっちに顔出す所だった」


 そっちとは、仲間の一人の未利の事についてだ。

 例の説明依頼、目を覚まさないでいるので、時間ができた時に選達も様子を見に行く事にしているのだ。

 姫乃たちの話で未利は、けっこうなやんちゃな性格らしいのだが、後夜祭の姿を見てきたとしても、未だにちょっと信じられない。


「こっちも、もうそろそろ大丈夫そうだしな」

「ならいいんだけど」


 実際昼近くだからか、先ほどに比べて人も少なくなってきたし、そろそろ城の中に戻ろうと思っていたのだからちょうど良かった。姫乃たちと違ってまだ慣れていないので、広大な敷地を歩いていると迷子になりそうで、目的地にたどり着けるか不安だったからだ。


 なので、兵士に後を頼み、少なくなってきた人達にもう一言二言説明した後、門を通って中へと戻っていく。


 だが、戻る前に姫乃が外を一瞥して、


「もう、皆あんまり困らせないでほしいよ」


 そんな言葉を小さくこぼしたのが聞こえて来た。


 それは良く知る結締姫乃の言葉にも聞けたが、なぜだか……まったく知らない別の人間の言葉にも同時に聞こえたりした。

 姫乃のその背中に、一瞬何かが重なって見えたような気がするのは、気のせいだろう。




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