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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第六幕 翡翠の星、輝く
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200 第2章 表と裏と建前と本音



 後夜祭会場 『ウーガナ』


 今のウーガナは誰が見ても不機嫌だと分かる顔をしている自信があった。


 腑に落ちない。

 そして納得できない。

 

「何で俺様がこんな所にいなきゃならねぇ」


 ついほんの数時間前に、「ウーガナは城に知人を持っている」なんていうバカげた勘違いを起こしたガキ供に付きまとわれ迷惑したと思ったら、そいつらに鍛冶屋までついてこられ、逃げ出そうと気配を消して店を出るもアホみたいに察知して追いかけられた。

 どれだけは走っても、まるで予知したかのように驚異的にこちらを補足してくる子供二人との攻防は、早朝の眠気もあってあっけなく、ウーガナの敗北で終わった。


 結局そいつらがあんまりしつこいものだから、ウーガナは現在そいつらを案内するみたいな事をしているのだ。不本意だあり得ない…。


 海賊の業務に迷子の案内はなかったはずだろうが。


「一体何やってんだよ、俺様は……」


 完全に城などとは関係ない他人であったなら、まだ言い訳も立つし、そもそも付け狙われる事もなかったというのに。

 中途半端に縁だけ残していきやがって。


 礼の水礼祭の後、聞きたくもない会議や打ち合わせに出席させられただけあって、城の人間がこの時期に大体どこで何をしているのか分かっていたので、本命である城ではなくこれまた不本意ではあるが港へと向かう。


 そんな事情もあって、なし崩し的に、仕方なく、嫌々、ついこの間も脅されたり、緩く見張られたりしながら労働させられた祭りの会場まで足を運んできたのだが……。


「まだ、ちんたらこんな事してたのかよ」


 急ごしらえの舞台を取り付け、魔法陣を描いて奔走している者達の姿を見にしてウーガナは呆れていた。

 皆、忙しそうで余裕がなさそうにせわしなく動き回っていた。

 頭の良いエリートぞろいの兵士達……みたいなイメージは、イフォールやらコヨミやらのせいで色々ともうどこか彼方に行ってしまっているが、それにしても目の前の作業光景は切羽詰まっていて慌ただしい。


「はっ、どんだけ飾ろうが所詮は人間ってこった」


 ともかく、いつまでもここにいれば要らぬ騒動に巻き込まれかねない。そんな事はお呼びでも、お望みでもないので、さっさとそこらにいる兵士にガキ共をなすりつけて退散した方が良いだろう。 


 そんな風に考えて行きかう人間達に目を凝らす。

 改めて思うのだが、ここは船の上だ。

 素性の分からない海賊をよく内部に通したな、と思う。


 ……あいつ等にこき使われてたせいで顔覚えられちまったせいだろうな。

「あ、イフィールさんの知り合いの……」みたいな反応をされた時キレなかったのが奇跡だろう。


 おかげでガキ共は調子にのって、「ウーガナは城の人の知り合い」説に自信持ち始めてやがるし。


「しょうがないだろう、姫様を助け出す作戦と並行して行わなければならなかったのだから」


 そんな事を考えていると、ふと通りかかった人物から声がかかる。

 涼し気な声音でウーガナの心を読み、どこかこちらを揶揄するような響きの声を掛けてくるのは……。


「テメェ、ラルド……」


 引退したらしい元城の兵士、ラルドだった。


「人質とされている町の人間達が、統治領主の救出の足かせにならないようにとタイミングを合わせるべきだ。それは君も聞いていただろう」


 言われる内容は、どこかしらに捕まっている統治領主の救出についてだ。

 その犯人共に、人質にされている人間らを何とかするべく、忙しくなっているのが、目の前の景色というわけらしい。


 しっかし、何でそんな当たり前みたく話しかけてくんだこいつ。

 ラルドに「君はここにいて当然だろう?」みたいな態度で接せられるウーガナにしてみれば、苛立つだけだ。そんな風に馴れ馴れしく接せられても親近感が湧くどころかムカつくだけでしかないのに。わざとか。


「それにしちゃあ、まだできてないみてぇだな。ずいぶん時間かかってんじゃねぇのか? 一体どこで優雅にくつろいでやがったんだ城の兵士共はよぉ」


 ウーガナが城を出てから日数はそれなりに経ったと言うのに、何をのんびりしていたのかと疑問が尽きない。乱雑な言葉をそんな風にぶつけるのだが相手の態度はまるで変わらなかった。


 こいつ、そう言えば怒りを見せた所が無いなと。

 ふと気が付いた。正反対にフィールはよくカリカリしているというのに。


「言い訳するつもりではないが、こちらも色々あったのだよ。魔法陣の解析とかね、専門ではないから詳しい事は分からないが苦労したみたいだ。そういう君はこちらの状況を心配してくれたのかい?」

「あぁ? どこをどう聞きゃあ、そーなんだよ、テメェは相っ変わらずだな」

「誉め言葉として受け取っておくよ」


 今の言葉、誉める要素どこにあった。

 嫌みしかねぇよ。


 そんな風にのたまうラルドはこちらの周辺をうろつく子供の影に気が付いたようだ。


「おや、こちらの子供達はどちら様かな」

「あのね、チィーア達……お城の兵士さん探してたの……」

「お父さんの資料渡す為なんだ」


 涼し気な表情でウーガナの言葉を受け流し子供の相手をこなすラルドを見ていると、その内怒りで殴り倒したくなりそうだったので、無駄な努力をしまいと必死で我慢するのだが……。

 奴はそこを新たな話題でつついてきた。


「ああ、そういえば、君はイフィールに会っていかないのかい」

「何で、ここであの女が出てくんだよ。俺様がわざわざあの切り裂き魔に会う必要なんかねぇだろが」


 と言うか近くにいるのかあの人斬り女……、と警戒して見回すのだが、

 ラルドは苦笑と共にラルドに言葉を返してきた。


「まあ、実際はこの場にはいないけどね」


 つまりおちょくられていたらしい。


 死にたいのか、テメェ。

 とにかく殺意が湧いた。以前から湧いていたが、それの比ではないくらい湧いた。


「やれやれ、そう鈍いと返って世話を焼きたくなるから困るな」


 妙な事言うじゃねぇか。

 テメェの頭ンなかは一体どういう花畑ができてやがんだ。

 翻訳機械が壊れて全部自分の都合の良いように仕事してんじゃねぇだろうな。


「けれどそれを抜きにして、今君にどこかに行かれるのは少々問題があるんだがね」

「あ?」


 まさか、無罪放免になったのは間違いで、また改めて牢屋にぶち込む事になったみたいな事でも言う気かと身構えるのだが、ラルドが発したのは別の内容についてだった。


「この船の中には、歓迎出来かねる者達が少なからずいるようだから今降りたら色々と疑われてしまうかもしれない」

「あぁん……?」

「それに、入るのはともかく出口はちゃんと固めてある。不用意に出ていくと、兵士達に囲まれてしまうよ」


 つまり、わざと緩くして作った罠っつうことかよ。

 いっぱいいっぱいの状況に見えて、ちゃんと締める所は締めていたらしい。

 だから何だと言えば、何でもいいしどうでもいい。関係などないが。


「しかし、そうでなくとも君は降ろしはいない。今更だ。手元に置いておきたい」


 そこに次いでの様に付け加えられたラルドの言葉。

 それはどういうことかと、表情を歪ませるとラルドは無造作にこちらへ一歩距離を詰めて来て、表情は変えずに声音だけを変えて、続けて来た。


「手配所バラまかれて、凶悪犯として追われたくなかったら大人しく俺たちの方に付いて言う事聞いとけ……って事なんだが伝わったかい」


 こちらにだけ聞こえる声量で呟かれた、同じ人間が発したとは思えないドスの効いた声に、ウーガナはとっさに反応できなかった。


「……な、なん……、おま……っ」


 遅れて警戒露わに距離を取るが、相手の表情は全くいつもと変わらない。


「何だ、なんて聞かれても引退した元兵士としか言いようがないから困ったね。世界を滅ぼす魔王だ。……なんて絵本みたいな台詞も言ってみたいところだけれど」


 胡散臭い奴だと思っていたが、やはり本性を隠していたのか。

 先程の声には明らかに殺気が混じっていた付け焼刃の演技ではありえない。


「隠すだなんて人聞きの悪い。取り繕うと言ってくれないかい。僕は素のままの僕で人と関わり合う自信がない物だからね。普段君達が見ている僕の姿は、交流を上手く進めるためのちょっとした心がけみたいなものだよ」

「……な、にが目的なんだよ、テメェは」


 ラルドは肩をすくめて、まるで意味のない問いかけを聞いたとでも言わんばかりの態度を取って言葉を返す。


「さてね、その内分かるんじゃないかい」

「はぐらかすんじゃねぇ」


 イフィールはこの男の事知っているのだろうか。


 目の前にいる男の腹のそこをどうにも把握しかねていると、ふと周囲の空気の変化に気が付いた。

 ついでの様に、あの煩い子供二人の影が周囲にない事に気が付く。



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