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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第六幕 翡翠の星、輝く
233/516

198 序章 機械人形の物語




『クレーディア』


 ――愛しています。

 ――幸せになってね。


 耳の奥で誰かの声がした。

 けれど私には分からない。

 それが誰の言葉なのかも。


 人ならざる物である私……機械人形のクレーディアは懐かしい声を脳裏で再生しながら、記憶を辿っていた。


「愛しい私の娘。貴方といた時間はとても幸せでした」


 声の主では敵ではない。おそらく味方だ。

 その声は女性のもので、聞くだけで不思議とこちらに安らぎをもたらした。


 エマと共にこの世界に降り立つ前。

 クレーディアは違う世界にいた。


 けれどその当時の事はよく思い出せず、記憶はあいまいだ。

 抜け落ちていたり、欠けていたりで満足に再生できない。


 この世界での生活は、エマの手伝いをして、その傍で過ごす毎日だ。

 新しい記憶が増えるにしたがって以前の記憶は徐々に彼方へと押しやられてしまい、元々薄ぼんやりとしていた過去のそれは、かなり曖昧なものになってしまっていた。


 知らない場所、知らない人達、出会う度に訪れる度に昔の事を思い出すのが困難になっていく。


 それでもたまにクレーディアは、己の過去を示す様に、夢の様なものを見る事がある。

 人間でない機械人形が夢を見る、などというのはおかしな事だろうが、とにかくその様なものを見る事があるのだ。


 その中では、今いる世界とは違う元の世界で、母と名乗る女性と二人で暮らすクレーディアがいた。


 その人は孤独な人だった。

 誰からも必要とされる事のない、誰もに要らないと拒絶される、そんな悲しい人。

 その比ととは毒に満ちた世界で、生きる者のいない世界で永遠に一人きりだった。


 だから、そんな日々の寂しさに耐えられずに、にその人はクレーディアを生み出したのだと夢で言っていた。


 今、何をしているのだろうか。

 夢が覚める度にクレーディアはその母らしき人の事が気にかかった。

 一人きりで、寂しい思いをしているのではないか。辛い思いをしているのではないだろうか、と。


 どうにも気になって、エマに元いた世界の事を尋ねたりもしだが、詳しく教えてもらえなかった。

 クレーディアとエマはただ必要だったからという関係で、遺跡で見つけた自動人形を連れてこの世界に逃げてきた、という事くらい。


 ……必要。


 自分が、その母と言う人の元に行ってしまえば、エマはきっと困るだろう。

 どちらが大切かなど、機械である自分には決められなかったので、捜す事はしなかった。


 けれど、


 命が尽きる時。

 星詠み台から身を投げ出して、地面にたたきつけられた時。

 力になりたいと思った人達が皆いなくなってしまったその最後の時、クレーディアは真実を思い出してしまった。


 自分を生み出した母はもういないという事を。


 なぜなら、元いた世界でクレーディア自身が殺してしまっていたからだ。

 エマ達に無理矢理命令されて、凶行に及んで手にかけたから。


 彼等に意思を、記憶を奪い取られて良いように使われ、母を殺した事にも気が付かぬまま、クレーディアは今まで生きて来た。

 仇であるはずの人間の言う事を聞きながら。


 ひどい、と思った。

 許せない、と。

 憎い、復讐したい。


 けれどもクレーディアにはもう時間が残されていない。

 城にある星詠台から飛び降りて、自分で自分を殺してしまったから。


 その瞬間、クレーディアの魂の中で何かが作られ鼓動を刻んだ。


 それは、悪意。

 それは、憎悪。

 それは、絶望。

 それは、復讐心。


 そして、それらは形を成し、存在を強めていった。


 魂に根を張り、心の深くまで結びついたそれは……。


 再び生まれ落ちた魂にその存在は、呪いをかけてしまった。

 決して逃れられない、どうあがいても運命に殺されるという呪いを。


 ――ごめんなさいお母様、私……幸せになれなかった。




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