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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第五幕 運命を賭けた300秒
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193 第28章 その後にやるべき事



 後夜祭会場

 船室内部 控室


 ともあれ、人質達を救出して一件落着、というわけではない。

 まだ仕事は残っていた。


 魔法解除が済んだ後の、町の住民達への説明についてだ。


 会場の方では一悶着あったものの、無事に魔法の解除が行われたらしい。

 応援として駆けつけたラルドやレフリー、何故か小さな兄弟に説教されているしばらく姿が見なかったウーガナ、アルガラとカルガラの手伝いをこなしつつ朝食を配っている雪奈など、普段ない顔ぶれを見ていると何かそれだけでもう色々あったのだろうと推測できてしまう。


 怪しげな人達の元から救出されてすぐだと言うのに、コヨミ姫は人々の前に立つ事になった。

 人々に事情を説明しなければならないのは当然だろう。

 兵士や他の人がやるよりも、コヨミ姫がやった方が説得力がある。

 それは分かるが。


 疲れてないのだろうか。

 と、そう本人に言えば。

 他に変わりがないないのだから、仕方がないと当人に言われたが。


 コヨミ本人はすでにやる気でいるようだった。

 体力的な疲れはなさそうに見える。

 意外と体力あるみたいだ。


 意外なのは、反対に未利が疲れてそうだった事だが。

 運動した引きこもり人間の気分を味わった、とか言っていた。


 ともかくそういうわけで、部屋の中ではコヨミが準備に追われていた。傍にはグラッソ。

 外では、選達が見張っている。

 厳重だ。


「皆が頑張ってくれたんだもの、嫌だなんて言ってられないわよね。えっと、あと他に言うべき事は……」


 メモ用紙片手に話すべき御事柄を叩き込みながら、人前に出る様にお世話係に身支度を整えられているコヨミ。

 普段はそこで自分でやるやらないの一幕があるらしいのだが、今は覚えるための時間が欲しいらしい。無言で黙々と紙面に目を落としている。


 傍には、コヨミの護衛であるグラッソが、無言で立って主の様を眺めている。


 だが、ふと紙面とにらめっこしていたコヨミが表情を曇らせた。


「アテナは大丈夫かしら。ルーンの事できっと傷ついているわ。グラッソ、様子はどうだった?」

「……仕事は滞りなく、支障をきたすような事は何もありません」

「もう、私が聞いてるのはそういう事じゃなくて」

「そうですか」

「ああ、このやりとり凄く久しぶりだわ。って、誤魔化されてる場合じゃ無かったわ。ちゃんと教えてグラッソ」

「私見ですが、余計な事を考えないように努めつつ一心不乱に滞りなく仕事をしてます」

「……やっぱり」


 これが終わったら、様子を見に行ってあげなきゃいけないわね、と呟いている。

 だがそう思いながらも、領主の務めを忘れるわけにはいかないと、コヨミは集中をメモへと戻したようだ。


 色々と気にはなるが、姫乃達は姫乃達でやる事がある。


「えっと、これかな」

「これじゃないかなー」

「いや、これでしょ」

「ふぇ? なあはさっぱりなの」


 他にも数人程の人間がいて、台の上に載せている紙片を合わせて繋げたりして復元作業にいそしんでいたのだ。

 それは、ちょっと姫乃達の知らない間に、魔法の解除にまつわる出来事で起きたトラブルなのだが……。


「爆弾と、爆薬になる薬と……武器の運搬に関する船での運搬指示書、だったよね」

「そそ、ウーガナが見つけたらしいってやつ。ていうかあいつ、そういう事に関しては役に立つんだ」

「でもしばらく見なかったのにー、何やってたんだろうねー」


 会場で魔法を解除する際に受けた妨害。

 それらを邪魔しに来た者達を返り討ちにした際、ウーガナがその人達から奪い取ったと言うか盗み取った物だと言う。


「アテナさんに呼ばれるまでは手伝いたいって思ってたけど、思った以上に難しいかも……」

「なあ、パズルみたいで楽しそうだなって思ったの。でも、よく分からなくなってきちゃったの」

「粉々にちぎれ飛んでるしさあ」

「まだちょっとしかできてないもんねー」


 息をついて、手を休める。

 台の上を見まわすができた物は一つもない。

 専門の人に任せた方が良いかな、これは……。


 何もしないでいるのも嫌だったから、何か手伝いたいとは思ったけど。


「結論、慣れない事はするもんじゃない」


 未利の意見に同意だった。

 






 船内、廊下 『ウーガナ』


 姫乃達がコヨミの横で、ちまちまとした作業に精を出しつつ、秒読み段階で飽きそうになっている頃、ウーガナは船の別区画を歩いていた。

 先程までは小うるさいラルドに絡まれていたのだが、うっとおしくなって逃げこんできたのだ

 その後ろには、あの小さな兄弟がまとわりついていた。


「お兄ちゃん。ウーガナ、嘘つきだったよ。いけないんだー」

「だよなチィーア、お城の人と仲良しだったじゃんか。嘘つきは針地獄しなきゃだよなー」

「テメェ等うっせぇ、いい加減にしろ」


 頭を抱えたくなる。何でこうなった。

 いくら探しても、子分は見つからないわ、訳の分からないガキにじゃれつかれるわ、仕方なしに兵士に押し付けに行けば、港で面倒ごとに巻き込まれるわ。


「俺が何したって言うんだよ、ったく」

「これまでに行った悪逆非道の報いを受けているんじゃないか?」


 予想外の方向から予想外の人物の声がかかる。

 それは今一番会いたくなかった人間の声だ。


 そいつは近くにいた兄弟に適当な理由を付けて、周囲から追い払う。


「げ、テメェ、イフォール!」

「久しぶりだな。わざわざ自分から戻って来るとは、物好きにもほどがある」

「ふざけんな、誰が戻って来るか。俺様はこのガキ共を押し付けに来ただけだ」

「まあ、そういう事にしておいてやろう」


 この女ぁっ!

 本当に口の減らねぇ奴ばっかりに絡まれんな!

 そう言う事にするも何も、まんまそう言う事だっつてんだろうが。


「ああ、だが少し嬉しいな。お前とはもう会えないとばかり思っていたんだが、顔を見れて良かった」

「あ、あぁあ?」


 相手の正気を疑うような言葉が聞こえて来て思わずそんな反応になる。

 いや、成りもするだろう。

 友人や知り合いにかけるものであって、そう言う言葉は間違っても、凶悪犯にかけるような言葉ではないはずだ。それくらい分かる。


 出会った時は犬猿の仲そのものだったというのに、一体何があったらこんな態度になるのかさっぱり不明だ。


 そんな謎が、もうイフィールに一度会えば何か分かるかもなどと、たまに……ごくたまに考えなかったわけでもないが、やはり実際会ってみてもさっぱり分からない。これはウーガナが特別頭が悪いとか良いとかそういう問題でもないだろう。


「町の様子はどうだった」

「何で俺様にそんな事聞くんだよ」

「別に減る物ではないだろう。聞かせろ、斬るぞ」

「そこはぜんぜん変わんねぇよな、おい」


 不覚にも安心してしまった、イフィールのせいで、少し人に対するあれやこれやがおかしくなってしまっているかもしれない。いや、かなり。


 だが、この状況で何を聞きたがっているかは分かった。その理由も。

 教えてやる義理も親切心もないが、剣で切り殺されてはたまらないので渋々口を開いてやる。


「馬鹿共がテメェ等の目で見る事もせずに、馬鹿な事くっちゃべってるだけだ。はっ、無駄な労力使いやがって」

「やはり、コヨミ姫への風当たりは厳しいか」

「ウーガナ、どうせ子分を探し回って町をうろついていたんだろう、妙な連中を見かけなかったか」

「知るかよ。そんな連中」

「使えないな」

「あんだと? つーか、何で俺様の行動知ってんだよ。テメェまさか」


 調べてたのか。

 それでもって、こちらの子分達に変な事吹き込んで、町から遠ざけでもしたのではないかとそう思うのだが、


「私はそんなに暇じゃない。何もしてないが、その反応では合流できなかったようだな。信用無いのだな」

「うるせぇぶち殺すぞ」


 取りあえずは違ったようだ。


「お綺麗な連中が町中を徘徊してやがったが、そんなん知った事じゃねぇよ」

「それだ」


 言ってしまった。


 ずるずる引き延ばして教えてほしくばそれなりの対価を寄越せとか言うつもりだったのに。

 昔からそうだ。交渉とかはは苦手だし、まだるっこしい話とかは無理だった。

 今のが、商売敵か同業者だったら致命的な隙を見せていた所だが、生憎目の前の人間はどう育ったのかそう言う騙しやごまかしのない性格をしている。

 特別気をもむ必要はない事に気が付いて、思考を元に戻す。


 良くない噂をしている連中の中に、たまに異分子が混じっている事がある。

 町をうろついていて、よく見かける連中。

 

 町の住民に紛れて入るが、紛れもなくあれは住人ではない連中だった。

 何と言えばいいのか、雰囲気が違うのだ。

 その街の住人にはその街の住人にしか出せない空気があるのだが、連中はとにかく違うのだ。


 綺麗過ぎると言えばいいのか、注意してみれば分かるが、観察すればみな同じような事をいって、同じような風に行動しているのが丸わかりだった。

 まるで、誰かに支持されて一つの目的の為に動いている様に。


「詳しく聞かせてもらおうか、逃亡すれば、斬るぞ」

「てめぇ、それが人に物を頼む態度かよ」


 退路は塞がれたも同然だった。

 気が進まないながらもウーガナは、時折剣で脅されながら得た情報を洗いざらい吐かされる事になった。



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