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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第五幕 運命を賭けた300秒
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176 第11章 磨いた力



 エンジェ・レイ遺跡 月之宮つきのみや


 遺跡に来る前、限界回廊が安定するまでの時間を姫乃達はただ無為に過ごしていたわけではない。

 それぞれにそれぞれができる事を積み重ね、技力を磨き、工夫を考え、力が付くように努力をしていたのだ。


 啓区は機械をいじって何かを作っているようだったし、なあちゃんは王宮の中庭で動物相手に祭りの延長みたいなトレーニングを積んでいるみたいだった。エアロやイフィールさん達はお城の兵士でもあるので言わずもがな。姫乃も魔法の訓練を欠かさずに行った。訓練室を利用して気分転換しただけはあったらしく、集中して取り込めた。そのおかげか、ちょっと前までは恐怖で炎の魔法が暴走してしまわないか不安だったのに、今では大分楽に魔法を扱えるようになった。


 たった数日だけど、数日分でしかないけど、確実に前には進めたと思う。

 今まで、大変な事は突然やって来ることが多かったから、腰を据えて自分の力を伸ばそうとした事はなかった。

 時間がある分、自分の弱点や癖などにじっくり目を向ける事が出来たし、どうすればよりよく魔法を扱えるようになるのかの工夫も考える事が出来た。


 後は、その力がちゃんと実戦で役に立つかどうか、確かめなければいけないだろう。


 姫乃は集団の先頭で歩いている女性へ声を掛ける。


「あの、イフィールさん」


 エンジェ・レイ遺跡、月之宮四層の中を引き続き移動している最中、彼女はたまに出てくる害獣達を淡々と切り伏せて進んでいた。


「どうした?」

「しばらくの間、害獣達の事は私たちに任せていただけませんか?」

「ふむ、理由は?」


 振り返ったイフィールは疑問の声を上げるでも、反対するでも賛成するでもなく続きを促した。

 伝えるのはさっきまで考えていた事に関係する内容なのだが、許可してくれるかどうか不安があった。


「えっと……私達、長い間実戦をしてなかったので、ちゃんと戦えるかどうか分からなくて。だから奥に行くまでに確かめておきたいんですけど……お願いできませんか」


 今まで危ない状況に遭遇して、何度も戦った事はある。町の中で犯罪者とだったり、旅の途中で害獣とだったり、よく分からない状況で敵か味方か分からない人が相手だった時もある。

 ちょっと冷静に考えると、数は普通じゃないくらいこなしている自信はあるのだが、最近はそう言う争い事とは無縁だったので、ちゃんと動けるかどうか心配だったのだ。


 城で練習や特訓はたくさん行ってきたものの、やはり安全なそれらと実践とではどうしても違いが出てくるだろう。


 イフィールは姫乃の言葉を聞いて数秒考えこんだのち、頷いてみせた。


「確かにそうだな。なるほど、分かった。私もここまで引っ張り出した身だ、力を確かめたいと言うのならその行動を否定したりはしないさ。だが……」


 言葉を切った彼女は、しかしこれだけは譲れないと強い口調でこちらに続ける。


「どんな状況であろうとお前達が守られるべき者である事は変わりがない。危なくなったら、無理はするなよ。いいな?」

「はい」


 心の底からこちらの事を心配してくれているだろうイフィールに礼の返事をして、姫乃達は前に出る。

 一応横に姫乃達の護衛役としてついてくるエアロは、我が事のように得意そうな表情だ。


「姫様がいらっしゃらなかったら、イフィール隊長が私の一番の尊敬でしたよ」

「うん、エアロの気持ちすごく分かるな」

「へー、姫ちゃんはお姫様よりー、恰好いい大人の女性に憧れるんだー」

「なあはお姫様もかっこさんも良いって思うの。ふぇ、かっこさん?」


 お姫様も憧れはあるけど、やっぱり目標にするならイフィールさんみたいな人になるかな。


「なあちゃんはー、後ろにいても良いんだけどねー」

「なあもっ、なあもっ、前行くの。姫ちゃまや啓区ちゃまといっしょに頑張るの」

「うん、そう言うと思ったー。危なかったらちゃんと下がろうねー、はいお返事はー?」

「はーいなの、なあ良い子だから約束守るの!」

「えらいえらいー」


 手をぴっとあげて姫乃や啓区のすぐ後ろにつくなあ。

 一人だけじっとしてられるわけはないだろうし、彼女も一緒に前までやってきた。


 本日のなあのテンションはちょっと高いみたいだ。

 一見いつもと違わないようにも見えるけれど、張り切っている様にも見えるのは姫乃の気のせいではないと思う。


 イフィールに下がってもらい、姫乃達が先頭になる。


 そうしてしばらく建物内を進んで行けば、引き続き害獣が出てきた。


 遭遇するそれらの種類はこの世界でもポピュラーな物が多くて、その地域版みたいなのが多く出て来た。形やら色やらがごく一部分が違っていたりするが、大元の容姿はだいたい同じらしい。


 その時も歩く植物、ツリーメメントが姫乃達の前に出てくるところだった。


 大釜のような体に、葉っぱの蓋が付いた生物、移動は根っこを動かしてしているみたいだ。ちょっと表面にカビ(だろうか?)が生えている。


「ごめんね」


 一言謝って姫乃は集中。

 そして魔力を引き出した。


「ファイア!」


 たいまつに灯る様なサイズの炎がツリーメメントの前に出現する。

 次いで、


勇猛火炎ゆうもうかえん……っ」


 思い切りが良い、勇ましいという意味の四字熟語……勇猛果敢をアレンジした魔言を唱えた。

 途端、ボンとッ勢いよく高温の炎の塊が出現して、苦しむ暇もなく相手を炭へと変えてしまう。

 自分達の都合で倒すのだからせめて苦しまないようにと思ったのだが、威力が高めになってしまうのだ。


 これでも力を温蔵しようと思って抑えている方なんだけどな。


「わーお、爆炎少女姫たん、爆誕って感じねぇ」


 ひ、姫たん……?


 雪奈先生がそんな変なあだ名をつけてくれるが、何となくその呼び名を歓迎してはいけないような気がした。謹んで辞退したい。


「あ、また来たー。次は僕かなー」


 姫ちょん、姫ぴっぴとか、お姫様とかどこかで聞いたようなあだ名を考えている雪奈先生に遠慮の言葉を投げかけようとしている間にも、また新手が出てきていた様だ。入れ替わりに啓区が前に立つ。


「さってとー。色々考えてはあるけどー。害獣相手じゃ打てる手は限られてるしねー」


 のんびり口調といつもの笑顔でそう言いながら、啓区は携帯をポケットから取り出す。

 

 向かいには先程とは別の害獣、緑色の体毛をした狼のような容姿の害獣……ウルフーガがいた。


「幻影よ。冷めない幻に踊るがいいー、なんちゃってー」


 魔言? らしきものを唱える啓区。

 そして携帯を操作して、コール音を鳴らした。

 すると啓区に向かっていたウルフーガが足を止め混乱したように周囲を見回し始めた。


 啓区がやったのは、携帯の電波を使って相手の脳に幻を見せる、という魔法らしい。

 何となくやっている分もあるらしいのだが、驚く事に一応穴があると言うものの原理の説明も啓区はできるらしい。

 機械に強い人ってそう言う事も詳しいのだろうか、と思えばそんな事はないと言い返されたが。 


 とにかくウルフーガは幻を見せられて混乱している状態だ。

 その隙に啓区は駆けだす。

 取り出すのは棘の剣だ。


「はい、終わりっ」


 誰もいない虚空に向かって飛びかかるウルフーガへ向かって、啓区は剣を振りおろした。

 一撃で相手の致命傷になったらしい。

 ウルフーガは倒れて動かなくなる


「ぴゃ、ごめんなさいなの」


 なあちゃんと共にしんみりした後、同じように心の中で謝罪しつつも前へと進んで行く。


 他にも色々考えた魔法などはあるのだが温存。肝心の戦いの前に力をあまり使う訳にもいかないし、害獣には通じないものというのもあるからだ。


「なあもがんばるのっ」


 そんな事を考えていたら、なあが飛び跳ねながら存在をアピールし始めた。

 元気が有り余っているって言葉がぴったりだ。

 何かしたくてしょうがないのだろう。


「えっと、なあちゃんは難しいかな」

「戦闘向きの魔法じゃないしねー」  


 なあちゃんができる魔法だが、実は増えていない。

 安定して使えるようになってはいるのだが、物を収納する魔法……かまくらや、受けたダメージを分け合う魔法……ダメージシェアは、敵と戦うための魔法ではないから、どうしても試したり練習したりする場が限られてしまうのだ。


 そんななあを見てか、雪奈先生がまともなアドバイスを口にしてくれた。


「うふふ、元気なのは良い事だけど。あんまりはしゃぎ過ぎちゃうと、後が疲れちゃうわよ。今は、じっとして機を待つ時期。遠足でも帰るまでが遠足っていうでしょ。それと同じよ」


 例えが遠足なのはどうかと思うけど。


「ぴゃっ、そうなの。遠足さん最後はくたくたーってなって、いつもなあは、ねむねむーになっちゃうの。なあじっとして良い子にしなきゃなの」

「そうそう」


 良い子良い子、と誉められたなあは直立不動にピシッとなっている。


 そんな二人の様子を見てエアロが思った事を呟く。


「なんだかんだ言って、先生なんですね。あの人」

「いつも突拍子もない事ばかりやってるけど、先生のしてる事って表面的にはともかく、ちゃんと私達の為になる事やってくれるのが多いんだよ」


 マギクスに転移する前だって、クラス全員で鬼ごっこで部活していたが、それは姫乃がクラスになじめるようにという雪奈の思いやりだっただろうし。


「町長さんも、見た目も性格もまったく頼りにならなかったんですけど、やる事だけはしっかりとやってくれましたし……。見かけによらないんですね」

「そうだよね」


 誰でも少なからずそういう所があると思う。

 未利や啓区だって、気にしてなさそうな事をすごく気にしてたり、できなさそうな事ができたりするんだから。

 

「ふぇ、体力温存しなきゃって思うけど、なあお喋りしたくなっちゃったの。お喋りは良いのってなあ思うの」

「おっけーおっけー、全然おっけーよ。むしろ無言でいるより楽しくお喋りした方が健康に良いわ。どんどん喋っちゃいましょ」

「そうなの? なら、なあたくさんお喋りするの」


 見かけによらない所がある、ならなあちゃんもそういう所があったりするのかな。

 全然想像できないけど。



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