173 第8章 守りたいものだけでなく
すみません。短いです。
エンジェレイ遺跡 『ツバキ』
姫乃達が遺跡にたどり着いたのを同じ頃、ツバキもまた遺跡内部へと侵入を果たしていた。
「……」
遺跡に訪れたのは、製作者による命令の為。
ツバキ自身の意思で来たわけはなかった。
だが……。
ほんの数日前、遺跡にてとある人物と話した内容が頭をかすめた。
その人物はツバキの手助けが欲しいと願い出たのだ。
「俺は……」
作り物に意思など必要ではない。
なので当然断ったのだが……。
意思は必要ないとそう分かっているのだが、ツバキはなぜかたまに自分でもよく分からない感情によって、指示された命令と違う事をやっている事があった。
記憶の中に存在する赤い髪の女性アイナ。
その人物とよく似た少女、姫乃を手助けしたいと思うのだ。
あの日。
後夜祭と言われる催し物の夜にもたらされた話が、もし姫乃によってされた物ならばツバキは……想像になるが、おそらく動いていただろう。
だが、話をした人間が姫乃ではなかったから、ツバキは今動いていない。
本来命令された事をこなすために遺跡の中へと潜り、四宝である紺碧の水晶を探しているのが現在だ。
普段なら、迷いなく行動に移しているというのに、しかしツバキの歩みには若干の迷いが含まれていた。
遺跡の内部、赤茶色の石が積み上がったな通路の中を歩みながら、慣れない考え事に思考を費やしていた。
その人物は、運命を変えたいと言った。
助けたい人間がいると言っていた。
その手助けをしてほしいとツバキに言い。
そうする事が姫乃という少女の手助けにもなると述べた。
その言葉が真実かどうかは分からない。
行動しただけの成果が確実にえられるかどうかは未知数だ。
手を貸す必要はない。
そう判断を下すのが普通だろう、が……。
ツバキは未だに迷っているのを自覚していた。
予定にない行動を起こせば、それだけ製作者に切り捨てられる可能性が高くなるだけ。
それにツバキは作られた道具であり、製作者に対する命令は絶対だ、だというのに……。
『君の大切な人の未来を想像して』
姫乃という少女の未来を想像する。
そこには少女一人がいればいいというわけではなく、大勢の仲間たちがいる事が大事らしい。
ツバキには理解できない事だった。
少女一人守れればそれでいいと思っていた。
だが、本当に少女を守りたいのであればそれだけでは駄目だと言うのなら……。
「……」
ツバキは己の歩調を少しだけ速めた。
向かうべき場所へ行くために。
短い代わりに、白いツバサ関連の話を、投稿しました。
「白いツバサ番外 ロングミストの末路」になります。