165 序章 とある機械人形の居場所
譜歴 672年
シュナイデル城 星詠台 『クレーディア』
シュナイデル城の星詠台でぼんやりと過ごす人物がいた。
灰色の髪に、灰色のドレスを来たクレーディアだ。
彼女はただ静かに、眼下の街並みを眺めていた。
「クレーディア、こんなところにいたの?」
そこに声を掛けるのはアーバンの町の統治領主である女性、アイナだ。
「明日にはアーバレスト城に戻って、色々やらなきゃいけない事があるんだし、そろそろ準備しないと」
「分かってる」
クレーディアは体を反転させ建物内に戻ろうとするが、ふと立ち止まりアイナへと疑問をぶつけた。
「どうしてそんなに色々気にかけてくれるの? 私は人間じゃないのに」
「え? 何か言った?」
「……何でもない」
「そう? じゃあ行こう」
歩みを再開し、アイナの後をついていくクレーディアは考え続ける。
エマー・シュトレヒムの下で使われていたクレーディアは、アイナ達によって保護され彼女達の仲間となった。
今はアーバンの町のアーバレスト城で世話になり、日々を過ごしている現状だ。
みな、普通に接してくれるがクレーディアとしては戸惑う事が多い。
……私は、エマー・シュトレヒムをマスターとして働くように設定された、ただの機械人形なのに。
皆はどうしてそんな風に、人間に接するようにしてくれるのだろう。
クレーディアはそれが分からなかった。
彼女達に聞いてもいいはず。
きっとクレーディアの問いに答えてくれるだろう。
だが、それが自分の想像した答えとは違っていたら。
……そんな事を考えてる自分がいるなんて、昔はきっと予想もできなかった。
クレーディアにはそれが良い変化なのか、悪い変化なのか分からない。
ただ……。
こうして、彼女らの元に居場所があるという事は、嫌な気分にはならなかった。